襲われたレーナ 8
レーナはペッピーノとの絆を感じる
レーナは、夜空を見ながら隣のペッピーノに自分の秘密を打ち明けた。
「私はね、違う世界から来たんだ。突然意識が飛ばされて、この異世界にやってきた。最初は何も分からなくて不安と驚きばかりで、毎日暮らしていくのがやっとだった。どこにも居場所がなくて怖かったけど、料理を通じてよい人たちとの出会いに恵まれた。今はこの世界を気に入っているの」
電子文明の進んだ前の世界は便利で悪くなかったが、ここでは牧歌的な生活を謳歌できる。
電気はないが、天然ガスがあるので調理の火力には困らない。ヴェントーネ火山からは温泉が湧き出て、各家庭に引かれているからいつでも無料で入れる。
車は馬力。電話もネットもないから伝令やお触書。
野山には恐ろしいモンスターが跋扈しているが、ペッピーノのように優しくて賢い生き物もいる。
人々は素朴で人情味がある。
店の味を求めて遠方からお客様が足を運んでくれるようになり、料理人としてやっていく自信もついてきた。
「もっともっと腕を磨いて、料理道をまい進していくつもりだから、ペッピーノ、見守っていて」
「ワン!」
ペッピーノは、レーナの気持ちが伝わっているように優しく吠えた。
「よーし! 走っちゃおう!」
気分が高ぶったレーナは、衝動を抑えられず駆け出した。
ペッピーノも喜んで飛ぶように走って、あっという間に追い越していった。
「アハハ! ペッピーノは早いね」
とても追いつかない。
はぐれてしまいそうになって不安になったレーナは、「ペッピーノ! 戻って!」と呼び戻すと、すぐに戻ってくるが、また走っていってしまう。興奮が収まらない。
前の飼い主の時は足腰が弱って散歩するにもヨタヨタしか歩けなかった。
今では太くなった足が強靭なばねのように動き、体全体には程よく筋肉がついて見違えるほど逞しくなっている。
大きな立て耳を後ろに寝かせて跳躍する。
大きな尻尾で舵を取り、ふさふさの長毛をなびかせる姿は躍動感に溢れて美しい。痩せて貧相だったことがウソのようだ。
「負けないわよ!」
レーナもスカートを翻してペッピーノを追うように走った。
ペッピーノは、喜んで何度も振り向きながら先導するように走った。
「ハ! ハ!」
ペッピーノも白い息を纏っている。
仕事終わりでさすがに最後まで走り切る体力のなかったレーナは、途中で息を切らせて立ち止まってしまった。
すかさずペッピーノが戻ってきて、レーナの顔をペロペロと舐めて励ましてくれる。
「ハァハァ……。本当に元気になったね。ペッピーノ、お願い。私の元から出て行かないで。ずっとそばにいて……」
ペッピーノがレーナを助けてくれる。助けたつもりが助けられていた。
レーナにとって、ペッピーノはなくてはならない大事な相棒となった。




