襲われたレーナ 7
途端に全身が嫌な汗でびしょ濡れになる。
その通りだなんて言ったら、気持ち悪がられて嫌われるだろう。本当のことなどセルジョは口が裂けても言えない。
「ち、違う……」
必死に言い訳を考えた。
「帰り道で知り合いに会って、そいつの家に寄っていたんだよ」
「何だ、そうだったのね」
レーナは信じたようで、それ以上追及してこなかった。
我ながら上手い言い訳ができたとホッとした。
後をつけたのは、レーナの表情が気になったからだ。レーナは何かを悩んでいる。それで心配になった。
「クゥーン……」
ペッピーノがセルジョを心配するように甘える。
(レーナにはペッピーノがついている。こいつもまた、レーナを守っている)
セルジョは、ペッピーノの背中を撫でた。
「ペッピーノも頑張ったな。これからもレーナを守ってやってくれ」
「クゥーン……」
後頭部から尻尾の付け根まで、一部の毛が硬く立ち上がっていることに気付いた。
「あれ? ペッピーノの毛、ここだけ違う」
剛毛が密に生えていて、触ってみるとブラシのようだ。
レーナも背中を撫でる。
「硬い! ここだけ全然毛の質が違う」
「これ、紛れもなくたてがみだな」
「たてがみ?」
「これは驚いたよ。背中のたてがみは狼モンスター・コヨルフの特徴だ。ペッピーノは、犬じゃなくてコヨルフだったんだ。小さい時は犬に似ている。大人になると、たてがみが生えてきて体が変わっていく。さっきの闘争心も咆哮も迫力あった。さすがコヨルフだ」
「コヨルフ⁉ ペッピーノは犬じゃなかったのね」
レーナは驚いた。
狼モンスターがいかほどのものか分からないが、先ほどの熊モンスターを追い払ったのだから、もっと成長すれば相当強くなるのだろう。
「じゃあ、野生に戻した方がいいのかしら」
「コヨルフもベアズリーと同じ猛獣だが、小さい頃から育てれば問題ないよ。それに野生に戻るかどうかはペッピーノが決めるだろう。鎖につながなくても逃げないってことは、レーナといることを選んでいるってことだ」
「良かった。ペッピーノとお別れしなくてもいいのね」
「ああ。ペッピーノの意志に任せればいい。時が来れば、伴侶を求めて自然と野生に戻っていくかもしれない……」
「そうよね。ペッピーノもいずれ結婚して、可愛い子供が生まれるのかも……」
セルジョは、レーナと自分の子供を連想した。レーナによく似た女の子が欲しい。
(いい……)
親子三人で手を繋いで歩く。それはレーナに惚れてからいつも夢見た光景。
(夢を現実にするには、今、言わないと……)
しかし、そう考えただけで手足が震えてしまう。
(俺は、本当に、本当に、レモン野郎だ! 情けないったらない! あと一歩のところで体がすくんで動けなくなるんだ……)
葛藤しているセルジョに構わず、レーナが離れる。
「じゃ、私たちはこれで帰るわね」
「え?」
「今夜は本当にありがとう」
もう手を振ってサヨナラしている。
「送っていくよ」
「ううん、もう大丈夫。ペッピーノがいてくれるから」
あっさりと、ペッピーノと共に帰っていった。
「命懸けで助けたのにこれで終わり?」
セルジョは、レーナの後ろ姿を呆然と見送った。




