049 敵との遭遇
前方から突如、紫のドレスを纏った女が現れた。
身長は俺と同じくらいあり、胸はリザさん同じくらい大きかった。
足元まである長い紫色の綺麗な髪、見た目は20歳くらいだ。
そして、耳がリザさんと同じ様に尖っており、頭にツノがあった。
「あなた、魔族ね――――もしかして、《平和を壊す者》かしら?」
リザさんが女に聞く。
「そうよ、よく分かるわね~。ワタシはケミーよ。覚えなくていいわ。どうせここで死ぬのだから」
「あら、えらい自信ね。捕まえて《平和を壊す者》の事、全部吐かせてあげる――【極光の弓】」
リザさんが怖い笑みを浮かべながら弓を構える。
「あなた達はワタシの作った可愛い魔物ちゃん達の餌になるのよ――【召喚】」
白い光と共に、キメラスライムが3体現れた。
おい、嘘だろ!?
さっきと同じ30メートル級が2体に、残りの1体は――50メートルあった。
「どうしたのみんな? 絶望した? 絶望しちゃった? ワタシは――様に早く会いたいから帰るね~。バイバイ~【転移】」
ケミーは無邪気笑みで手を振りながら白い光と一緒に消えてしまった。
「――まずいわね。不幸中の幸いはあの女まで相手にしなくて良かった事かしら」
リザさんは、重い口調で言う。
あの50メートル級のキメラスライムは、どのくらいの強さなんだ?
30メートル級より強いのはほぼ確定だが、もしリザさんより強ければ――
俺のスキルはさっきリザさんに発動させてもらったばかりだ。
まだ切れるには時間がかかる。
結菜、カーミル、奈々絵は厳しそうな表情をしている。
「私があのデカイのを拘束する。カーミルちゃんとナナエちゃんは2人で1体を拘束して! ユウシン君とユイナちゃんは、残りの1体をやりなさい!」
リザさんの指示で俺達は動く。
「【極光牢】」
「【龍炎縛】」
「【光牢】」
リザさんが50メートル級のキメラスライムを、カーミルと奈々絵が30メートル級のキメラスライムの1体を拘束する。
「ユウシン君、私もカーミルちゃん達もそんな長くは拘束していられないわ――」
「分かりました。結菜! 3人に近づかないように引き離すぞ」
「うん! あたしに任せて!」
俺と結菜は拘束されていないキメラスライムの方へ駆けた。
「【氷散弾】」
結菜は魔法でキメラスライムの気を引く。
「結菜、あっちだ!」
俺は結菜にキメラスライムを引きつけたい方向を指さす。
「分かった! 【加速】」
結菜と俺はキメラスライムを部屋の角の方に引きつけた。
「あたしが引きつけとくから、その間に優心が――」
「分かった!」
結菜が言い切る前に俺は走り出す。
「【氷弾】」
結菜の放った魔法がキメラスライムの顔に命中する。
俺はキメラスライムの横を駆け抜け、後ろに回る。
まずは、足に取り込まれてるモノからだな。
俺はキメラスライムの足に取り込まれているモノを次々に斬っていく。
「【氷散弾】」
結菜は氷の魔法で定期的に攻撃しならが、キメラスライムの気を引いてくれている。
「【氷壁】」
キメラスライムの攻撃を結菜は氷の壁を作り防ぐ。
俺は両手の短剣で足に取り込まれているモノをすべて切り尽くした。
次は背中を――――
「【氷壁】――うそっ!?」
キメラスライムの放った炎で結菜の張った氷壁が壊れる。
結菜は一瞬固まる。
危ない!
俺は速攻で結菜の前に立ち、キメラスライム2撃目の炎から庇った。
「優心、ありがと」
「気にしなくていいよ」
俺はすぐ、キメラスライムの元へ戻る。
さて、さっさとこいつを倒すか。
俺は短剣の二刀流でキメラスライムに取り込まれているモノをどんどん切り刻んでいく。
結菜はキメラスライムの攻撃を防ぎながら、魔法を放ち、気を引き続ける。
キメラスライムの取り込まれているモノがほとんど無くなった時――――結菜の悲鳴が聞こえた。
「結菜!」
俺は急いで結菜のもとに駆け寄った。
結菜は苦痛で歪んだ様な表情で倒れこんでおり、左足押さえていた――左膝が普通なら絶対に曲がらないような方向に曲がっている。
「大丈夫か!? 結菜!」
いったいどこから攻撃が――――カーミルと奈々絵が相手しているキメラスライムの拘束が解けていた。
「ナナエ、危ない!」
カーミルが奈々絵を庇って、キメラスライムの手に取り込まれそうになる。
「カーミル!」
結菜を守りながら戦っている俺は気付いたら叫んでいた。
「カーミルさん! ――【光剛刃】!」
奈々絵がカーミルを取り込もうとしているキメラスライムの手を腕から魔法でぶった切る。
「【龍炎纏】」
カーミルは炎を纏い、キメラスライムから逃げ出す事は出来たが、すぐに倒れてしまった。
カーミルの纏っていた炎が消える。
「カーミルさん! しっかりして! 【治癒】」
奈々絵がカーミルに治癒魔法を掛ける。
切り落とされたキメラスライムの手が新たに5メートル級のキメラスライムに形を変える。
クソ! カーミル達の所に行きたいが、今いったらキメラスライムも連れてきてしまう。
目の前のキメラスライムを早く討伐したいが、魔力がなかなか削りきれない。
切り刻めば数が増えてしまい、広範囲攻撃を持たない俺では結菜を庇いながらの対処は厳しい。
戦況を悪化させるだけだ。
「奈々絵! 危ない!!」
駄目だ、間に合わない――――
「【光剛壁】」
「「リザさん!?」」
リザさんが奈々絵と倒れているカーミルに襲いかかるキメラスライムの攻撃を間一髪で防いてくれた。
50メートル級のキメラスライムの拘束が解けた。
まずいぞ!
俺は結菜を守りながらキメラスライムの相手をしている。
奈々絵はカーミルの治療している。
残りのキメラスライム3体(50、30、5メートル級)の相手をリザさん1人で大丈夫なのか!?
――スキルが切れそうだ。
結菜を守りながら戦っている中でのスキル切れはまずい。
再発動する前に結菜が狙われたら、対処出来ない。
このタイミングかよ!
「ユウシン君! ユイナちゃんはナナエちゃんに任せなさい!」
リザさんの大きな声が聞こえた。
俺は迷わず結菜をお姫様抱っこする。
「――痛い」
抱っこする時、負傷している膝に手が当たってしまった。
俺は「ごめん」と言ってリザさん達の所まで走った。
「……大丈夫。ありがと……」
結菜が痛みを堪えながら苦しそうに言う。
「奈々絵、結菜を頼んだ」
「優心君、任せて」
俺は結菜をカーミルの横に降ろして寝かす。
「カーミル……」
「わたしは大丈夫だから――」
カーミルが声を絞り出すように言う。
「優心君、私が2人とも治してみせるから」
「頼んだぞ奈々絵」
「――【極光牢】」
リザさんが50メートル級以外の3体を一緒に魔法で拘束する。
「リザさん、俺スキルが――」
「もう切れたの?」
俺は頷く。
「私があの3体を押さえとくから、ユウシン君はあのデカイのを相手して!」
あのキメラスライムでスキルを発動させろって事か。
あの気持ち悪いのに殺されるのは嫌だが文句は言っていられない。
俺は50メートル級のキメラスライムに突っ込む。
楽に殺してくれと祈りながら。
キメラスライムが光線を放ってきた――――
――――――――――――〈死からの反撃〉発動。
俺は死ぬ時に落とした短剣2本を広い、一気にキメラスライムの足元まで走り抜ける。
「ユウシン君、そいつを切り刻みなさい!!」
俺はリザさんの言葉を信じ、キメラスライムを一瞬でバラバラにした。
バラバラになったキメラスライムの残骸がそれぞれ別々のキメラスライムとなっていく。
「ユウシン君! 次はこっちよ!」
俺はリザさんが拘束しているキメラスライムの元へ走る。
「――――【雷光の裁き】」
リザさんは俺がバラバラにしたキメラスライムを焼き払った。
魔法の拘束が解け、キメラスライム3体が放たれる。
俺はまず、最初に相手していたキメラスライムを二刀流の短剣で切り刻む。
次に、5メートル級のキメラスライムをバラバラにした。
残り1体――30メートル級のキメラスライムの頭上まで飛び上がり、そこからキメラスライムの体を切り刻みながら落ちる。
「ユウシン君! 離なれて!」
俺は急いでバラバラのキメラスライムから離れる。
「――――――【雷光の裁き】!」
上から雷光が降り注ぎ、バラバラのキメラスライムを全て焼き払った。
★★★
キメラスライムを倒してから3日がたった。
あの後、奈々絵とリザさんの治癒魔法で結菜とカーミルの2人は無事に回復した。
ダンジョンを出た俺達はムナールさんにキメラスライム討伐の報告をした。
ムナールさんにはびっくりするくらい感謝された。
次の日、ムナールさんに招待され、パーティーに参加した。
そこで、俺はパークス共和国のおえらいさん達に裸の英雄と紹介されてしまい、そっからひっきりなしに誰かしら話しかけられた。
俺はもうパークス共和国には行きたくないと思った。
その翌日の夜、俺達はムナールさんが手配してくれた高級宿屋に泊まっていた。
本来は《平和を壊す者》の件もある為、すぐにでも帰った方がいいのだが、ムナールさんと俺のつながりも大切な為、明日まで残る事になった。
★★★
俺は今、結菜に呼び出されて、宿屋にある大きなデッキにいた。
夜空が綺麗だ。
デッキには俺と結菜以外、人はいないようだった。
「結菜、どうしたんだ? こんな所まで呼び出して」
俺は不思議に思った。
離すなら、別に部屋の中でよかったのではと。
「あのね、あたし、優心に話があるんだ」
結菜が俺をジッと見ながら言う。
「なんだ? 話って?」
結菜は口を開いた。
「あたし――――――――優心の事が好き」




