表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/18

1,笑えるわけがない。

このお話は自身が執筆した作品、「defeated dragon rider -ある敗残兵の物語-」の世界観・設定をベースに再解釈し、新たな書き方としてオーレリウス・ベルベットの地獄を描く作品です。


 炸裂音。

 吹き飛ぶ体。

 濡れた地面の味。

 転がっていく。


 

 その時、俺は天を仰ぐように倒れ伏していた。


 滲んだ灰色が空を覆うような視界、煌めくように銃弾が飛び交っている。

 周囲を覆っていた樹木が、薄れていく意識と混ざる様に闇を帯びていく。

 木霊のように鈍く、遠くなるように感じる耳からは仲間たちの叫び声がまだ聞こえる。

 

 衝撃。

 何かに弾き飛ばされるように俺の体は吹き飛ばされ、地面を転がっていく。

 その顔を見た時、俺は俺を取り戻す。

 鏡のように磨かれた無貌の如き顔面を持つ。

 それは仲間だった。

 同じような顔が、そこに映っている。

 俺の、顔である。


 肺の奥から空気が溢れた後、再起動したコンピューターが音を立てて動き始めるように頭が急速に冴える。


 ――――戦場だ。


 俺の体は、今ここにいた。

 俺の意志は、今ここにあった。

 俺の命は、まだ散ってはいない。


 『進め!』


 右耳に挿したイヤホンから聞こえる言葉が、命令であると瞬時に理解した俺はすぐに立ち上がる。

 倒れ伏した仲間が持っていたであろう得物を手に取ると、即座に戦場へと進む。


 命じられたから、進む。


 それが、軍隊だから。

 軍人が存在する理由、そのものだ。



 俺は今、戦っている。



 手にした得物は、取り回しの良いカービンライフルである。

 それを構え、引き金を絞る。


 閃光。

 炸裂音。

 排莢。

 ガス圧により自動化された殺意が敵を襲う。


 両腕が肥大化したそれ。

 無数の色を持つ機械の瞳を持つ怪物。

 そこから放たれた小さな光が仲間を捉えると、怪物はその剛腕を振るう。

 

 樹木へとその身を隠した俺は、マガジンキャッチを押し空箱を外す。

 腰にマウントされていた新しいマガジンを刺し込み、チャージハンドルを叩くように押す。


 上官の命令。

 仲間の怒涛と悲鳴。

 戦場のみが発する音。


 それは砲火と銃声を縫うように俺の耳へ届く。


 カチリ


 カービン・ライフルがその音を放った時、俺は左手を胸に伸ばしながら姿を現す。


 眼前に映る怪物の背中を捉える。

 人のように滑らかな肌。浮き出た背骨。

 肩甲骨から生えた独特な見た目の、機関銃。


 人と機械と、怪物を混ぜて作り上げられたちぐはぐな奴がそこにいる。


 それは、禍つ獣と呼ばれていた。



 俺は左手に持つそれを怪物目掛け、投げる。

 それを足元へ滑り込ませる。


 フラググレネード。爆発と散乱する破片で敵を攻撃するそれを投げた俺は、カービンライフルを構える。


 引き金を絞る。


 俺の持つ銃もまた、戦場の中で歌い出す。

 空気を裂くように。


 怪物の肌に弾頭が触れる。

それは僅かな衝撃を禍つ獣に与えるのみであったが、俺に意識を向けるべく怪物が体を反転させていく。


 想像もつかないほどに、軽やかな動きであった。


 閃光と小爆発が起きたのは、その時であった。

 禍つ獣の足元で、炸裂するグレネード。

 

 致命傷を与えるとは考えていない。現に精々皮膚に赤い線を入れるにとどまっている。


 だが俺は、構わなかった。


 『伏せろ!』


 仲間の声がイヤホン越しに警告する。


 ―今度は、間に合った。


 鏡の如きマスクへ草花が触れる。

 その頭上に迫る禍つ獣が、背中から押し出されるように衝撃で跳ねる。


 背中から皮膚を貫通し、突き刺さっている金属の物体。


 花開くように、内部機構を展開した瞬間。


 撃ち込まれた。

 熱と衝撃。

 金属の杭。

 無数にある機械仕掛けの瞳が

 禍つ獣の生命がせわしなく揺れ動く。


 森の中を無数に伸びるレーザー光が転々と樹木を照らしていく。


 俺は地面を跳ね上げるように体を起こし、走る。

 「まだ、死んでいない!」

 俺が仲間へと告げる。

 

 駆ける。

 駆ける。


 誰よりも

 あの獣よりも。


 禍つ獣が剛腕を振るい上げる。


 落とす。

 その鋭利な爪が服と肉をわずかに俺から削る。


 右腕が露わになる。

 削れた肉の奥で、それが森に照らされる。


 俺は怪物の背に回る。

 手に持つフラグ・グレネードを先程の傷跡へと押し込む。


 再び、地面を転がる様に禍つ獣より離れた直後。


 獣の内より響く閃光と衝撃。


 煙を上げ、動きを止めた禍つ獣を見やる無貌の者たち。

 森の奥から、鏡のように磨かれた奇怪な顔面を持つ。

 何人も、いる。


 俺と同じように。

 俺も同じように。


 禍つ獣が、揺らいだ。

 体が崩れ、周囲が揺れる。


 それが、俺たちの勝利であるとの象徴にも思えた。


 

 ―それだけだ。

 俺は再び立ち上がる。手にしたカービンライフルを構えるその右腕。

 僅かに肉を削がれ、生きている証明を発し続けている。


 その奥から見えるのは火傷痕。

 仰々しく

 痛々しく

 何より、悍ましくも感じるその右腕とともに俺もまた消える。

 まだ、命令は終わっていない。

 なら、進むしかない。


 それは軍隊であるから。

 何よりそれが、俺だから。

 鏡のような、無面目のマスクの奥。

 紫水晶のような、その瞳を持つ俺は―――笑っていない。



 ――俺の名は、オーレリウス・ベルベット。


 帝国軍人だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ