EPI.008 2026年6月14日 第67回-宝塚記念- 予想パート
「今回は待ちに待った宝塚記念。春競馬の締めを飾る大一番よ」
「さっきグランプリレースって言ってたけど、普通のレースとは違うってこと?」
「ええ。宝塚記念は、阪神・芝・2200メートルの条件で春の最後に行われるG1レースなんだけれど、なんといっても特徴的なのが競走馬の出走条件よ」
「出走条件?」
「ええ。このレースの出走馬は、競馬ファンの投票で決まるのよ」
「へえー」
「G1をたくさん勝っていたり、強い勝ち方をしているような競走馬は往々にして人気が高くなるから、必然的にこのレースを走ってほしいというファンも当然多くなる。つまり、このレースは強い馬同士がぶつかる頂上決戦になることが多いということよ!!」
力強く握りしめたこぶしを天井に突き上げながら、まりあは言う。
「もっとも、投票上位の競走馬でも、今後の予定や馬の状態などから総合的に判断して陣営が出走回避するなんてこともよくあるから、必ずしも夢の対決が見られるというわけでもないんだけれどね」
「そうなんだ」
「だけど!!」
突然の大声に、瑞希は思わずのけぞりそうになる。
「今年の宝塚記念は、近年でもトップクラスの好メンバーがそろったわ。今年すでにG1二勝を挙げ史上初の春古馬三冠に王手をかけたダービー馬クロワデュノール、名手に導かれて正確無比なラップを刻んだ神逃げがまだ記憶に新しい昨年の覇者メイショウタバル、去年の有馬記念からのグランプリレース連覇を目指すミュージアムマイル、ドバイのG1を制し近年も安定した成績を残しているベリベリホースダノンデサイル。ほかにも、グランプリにふさわしい人気馬重賞馬が集結している。これは間違いなく春競馬イチの持ち上がりを見せるわね」
子どものように、目をキラキラとさせながらまりあは言う。
「それで、まりあちゃんの本命はどの子なの?」
「私の本命は2番ミュージアムマイルよ。競馬ファンとしての本音を言えば、能力的にも頭一つ抜けていて心情的にも春古馬三冠を応援したくなる5番クロワデュノールを本命にしたいところだけれど、この予想の本質は馬券対決。つまり、最優先にしなければいけないのは競馬ファンとしての気持ちじゃなくて、馬券の期待値よ。そうなると、どうしても人気が先行してしまうクロワデュノールはオッズのうまみが薄い。逆に言えば、クロワに人気を吸ってもらっているほかの馬の馬券はお得感がある。中でも皐月賞でクロワに先着した実績があり、同じ4歳でまだ底を見せていないミュージアムマイルが一番期待できると私は踏んだわ。対抗は当然、筆頭に5番クロワデュノール。あとは、同じ阪神の中距離大阪杯で実績があり安定感もある1番ダノンデサイル、穴候補として同じ大阪杯でダノンデサイルと差のない4着だった8番タガノデュードと、あと一頭――」
そこまで言って、まりあは人差し指をピンと立てる。
そして、ゆっくりと瑞希の方へと顔を向けると、その指先を瑞希へと倒した。
「あと一頭は、せっかくだから瑞希パイセンに選んでもらおうかしら」
「はえ?」
思いもよらない展開に、瑞希は思わず間の抜けた声を出してしまう。
「な、な、なんで私が?」
「毎度毎度、私が一人で予想していても、面白くないでしょ? だから、たまには味変でもしてみようと思って」
「そんな簡単に……」
「瑞希パイセンが競馬にはあまり詳しくないことは承知しているし、もし外れてもぐちぐち言うつもりなんてこれっぽっちもないから、気軽にこの中から一頭、選んでちょうだい」
そう言って、まりあはばさりと競馬新聞を机へ広げた。
紙面いっぱいに敷き詰められた大量の情報が、洪水のように一斉に押し寄せてきて、瑞希はパニック寸前になる。
意味の分からない言葉と意味の分からない数字の羅列ばかり。レースの大小も、タイムの相場も知らないまま、たった一頭を選ぶなんてできるはずがない。
やっぱり無理だとギブアップしようと思ったところで、不意に、一頭の競走馬が瑞希の目に留まった。
最近少しずつ覚え始めた競馬の知識。その中のひとつが、一頭の競走馬を浮き彫りにした。
「……じゃあ、この子にする」
「どの子?」
瑞希が指さした先を見つめて、まりあはにやりと笑う。
「どうして、この子にしたの?」
「たった一頭、女の子でこのレースに挑戦しようとしているから」
17番レガレイラ。
牝の字は雌馬をさすのだと、いつかまりあに教えてもらった。
その知識が、瑞希にこの馬を指名させた。
「面白い視点ね。いいわ。この子も紐に入れましょう」
「でも、はずれても本当に恨まないでよね」
「武士に二言はないわ。それに、今回の買い目は『ワイド』だから、当たる確率もいつもより少し高くなるはずよ」
「ワイド?」
「ええ。そういう馬券の形式があるの。ワイドは、二頭の馬を選んで、それぞれが1着2着3着のどこかに入っていたら的中という形式よ。先週まで買っていた馬連みたいに必ずしも1着2着を当てる必要はなくて、たとえば1着3着だったり、2着3着だったりでもあたりになるから比較的初心者にも向いている馬券と言えるわね。当然、馬連よりもオッズは低くなりがちなんだけれど、今回の宝塚記念みたいに人気馬が複数いるレースではそれなりにオッズもつくから狙いどころね」
「一着じゃなくても当たりになるなんて、なんだか少し不思議だね」
「そういう意味では、複勝に近いかもね。そうね、せっかくだから、瑞希パイセンの指名馬は、複勝も少し買っておこうかしら」
「やめてー。ただでさえもう胃がキリキリし始めてるんだから、これ以上私に責任を背負わせないで」
「さて、どうしようかしら」
いたずらっぽく笑うまりあとは対照的に、瑞希はお腹を押さえてうなだれる。
たった二人の小さな部室には、梅雨の合間の晴れ空が、夕暮れの日差しとなって差し込んでいた。
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第67回 宝塚記念 竜ヶ崎まりあの買い目
単勝: 2 50,000円
複勝:17 30,000円
ワイド: 1ー2 10,000円
2ー5 30,000円
2ー8 10,000円
2ー17 20,000円
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合計: 150,000円




