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#13 你好!

風に揺られ、ざわめく木々が等間隔で植えられた一本道。


「おかーさん!見て!チャイニーズマフィアだ!カッケー!!」

「シッ!!違うでしょ!あれはファッションなの!」


中華風の装いの男は、自身に指をさした小さな男の子と申し訳なさそうな母親に、軽くひらひらと手を振って返す。


「久しぶりネ、人間界は」


その足取りは軽やかに、真っ直ぐ。

木下杏の家へ向かっていた。


「ーさて、王子は元気してるかネ」


彼の耳飾りが、風にゆらりとなびいた。



ーーーーーーーーー



「よ…40度…」


杏ちゃん家の体温計を借りて、王子を測ったらこの数値。…かなりの高熱だ。


「…とにかく、冷やさない、と」


青ざめた杏ちゃんが、2階に走っていった。多分、氷嚢とか冷えピタを探しに行ったんだろう。


「…なぁ、聞こえてるか?王子なんだから専属医とか、いるだろ?連絡出来ないのか?」


…問いかけても、返ってくるのは苦しそうな呼吸音だけで。


「…はぁー、どうすりゃいいんだ…」


僕の仕事はコイツを視察する事で、助ける事じゃない…むしろ、あまり干渉するのはよろしくは無いんだけど。…相手が誰とか関係なく、目の前で苦しんでるなら助けるしかないだろ。


それがこの、いけ好かない吸血鬼だとしても。


いつもどこか上から目線で、僕の事思いっきり下に見てて。杏ちゃんの事になるとガキっぽくて嫉妬深くて。…いや、やっぱ放置して帰ろっかなとか思ってないよ。思ってないよ!…ほんのちょっとしか。


…でも。


「げほ、けほッ…ぅ…」


そんなお前がこんな、弱々しい姿になるなんて。


「…はぁ、調子狂うなぁ」


いつものうるさいお前はどこに行ったんだよ。


いつも堂々としてて。自信満々で。…正直な所、なんの取り柄も自信もない僕からしたら。妬ましいとさえ思ってたのに。


考えてみれば、毎日好きな子の為に家事とか色々こなして。

王子様の癖に、異界の地である人間界にわざわざやってきて。人間社会に紛れて働いて。

大人しくて、自己開示が苦手な杏ちゃんが。会う度表情が柔らかくなるくらい、思いやって。

お前の為に、あんな風に青褪めるくらい信頼築いて。


毎日好きな子の前で、全力でカッコつけて。


恋愛経験が無い僕でも、それがどんなに大変か。知らず知らずのうちに負担がどれほど積もっていくかくらい、予想できる。


「…熱出すまで無茶すんなよ、バカ王子」


ちょっと憎めなくなるじゃんか。


…とはいえ、こんな事を考えてる場合じゃない。

どうにか魔族の医者、専属医と連絡を取らなくちゃ。今はその方法を探すしかない。


「…悪いけど、棺の中。見せてもらうよ」


そう言い残して、傍に放置されていた彼の寝具に手を伸ばす。


「…んぎっ!?重っ!!」


嘘でしょ。この間虫干ししようとしてたの見た時、片手で蓋開けてたじゃん。どんだけ力強いんだよ吸血鬼。


(…資料で読んだけど、吸血鬼ってかなりの怪力だって…本当なんだな)


よく今まで無事でいれたな僕。ゾッと背中を走る悪寒を振り払って、どうにか蓋を開ける。


…中にあるのは、目覚まし時計くらいだ。


「…!蓋の裏に収納が…」


成程、通りで蓋が重いわけだ。

色々と探ってみる。けど、お高そうな化粧水とか、吸血鬼でも映る鏡とか。あるのは日用品ばかりで。他にめぼしいものは見つからない…。


ーというか今の時代、魔族もスマホを持ってるのに、連絡帳みたいなメモなんてあるわけないか。


諦めて蓋を閉じようとした時、なにか小箱のようなものが棺の外に落ちてしまった。


「…なんだこれ?」


拾い上げてみたそれは、ジュエリーボックスみたいだ。錠前がついて、厳重に保管されている。


「なんでこんな厳重に…王家に伝わるお宝、とか…?」


にしても、なんだか禍々しいような。…よく分からないけど、これを持っていると、何故かおぞましいものでも見ている気分になる。


(…いやいや、人のものを勝手に探っておいて、失礼だってさすがに…)


心の中で謝罪しつつ、それを棺の中に戻した。


その時。




ーピンポーン♪



玄関のチャイムが鳴った。


杏ちゃんも気づいたのか、パタパタと2階から足音が聞こえてくる。


来客の対応は杏ちゃんに任せるとして。どうにか医者の連絡先を聞き出そうと、僕は王子の方に向き直った。


のと同時だった。



你好(ニーハオ)!邪魔するアルよー♪」


「うわっ!?」



急に玄関から客間に繋がる襖がスパァン!と開け放たれ、中華マフィアみたいな人物が入り込んできた。


「アイヤッ!王子〜ッ!しばらく見ない間に死にかけてるネ!」


仕方ないネェ〜。と呟きつつ、その中華マフィアはいそいそと荷物を部屋の隅に置き、持ってきたカバンを遠慮なく広げる。


「だ、だだだ、誰ぇ!?!?」

「…ザクロの、お友達だって言うから…」


杏ちゃんも要領をえない感じだ。

てか、お友達だからって理由で家上げちゃったのね。お兄さんね、君のガードの緩さが時々心配になるよ。


「あー、こりゃいかんネ。あーそこの君…サラサラ〜ッ、と。ハイ。これに書かれてるもの買ってくるアル。お嬢さんはコレに氷水入れてくるネ」

「えっ、な、何!?」


唐突にその場で書かれたメモを渡されて困惑する僕と、水枕の容器を渡されて狼狽える杏ちゃん。


「い、いきなり何を…」

「早よ行くヨロシ!」

「「あっはい」」


テキパキと指示を出すその男の勢いに負けて、スーパーに出かける準備をする。

杏ちゃんも、キッチンでせっせと枕に氷を詰めている。


「あの、あなたは…!?」


家を出る直前、やっぱり気になって聞いてみる。


「ーあぁ、失礼したアル。病の臭いを察知すると…どうも夢中になってしまうのが、ワタシの悪い癖ネ」


ゆっくりこちらを振り返る中華男の丸いグラサンの奥で、瞳がキラリと光った気がした。



「ワタシは姜煌(ジャンファン)。ザクロ王子の古くからの朋友(オトモダチ)…薬師アル」

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