表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/16

#9 邪魔

ーあぁ、邪魔だ。


「ッはぁー、参りマシタね」


屋根の上で夜風に当たりながら、盛大なため息をつく。自分のダウナーな部分は、彼女の前ではあまり見せたくない。


死神が来ることは予想の範囲内。魔族という異物、しかも高等吸血鬼(ヴァンパイアロード)の王子が1年も人間界に滞在するなど。天界は当然、些細な悪事も見逃すまいと目を光らせるだろう。


ただ、彼女に対して妙に馴れ馴れしく、この私に対しあそこまで強気に出てくるのは計算外だ。


「嫌デスねぇ。これだから感情で動くタイプは」


義理人情...とでも言うべきか。その手のタイプは損得を無視して、他人のために己の命すら簡単に投げ捨てられる。


...だからこそ、こちらの道理が通じない。計画を遂行する上で、非常に厄介な存在だ。



「あー、邪魔デス。邪魔。なーんで邪魔をするのデショう?...本当に、邪魔デスねぇ」


私はただ、彼女と一生を添い遂げたいだけなのに。愛しているだけなのに。何故こうも邪魔が入るのか。


その為なら、どんな苦労だって惜しまない。一国の王子が人間如きと共に汗水垂らして働くままごとだって、人間界に滞在するための七面倒臭い手続きだって、何だってやれる。


...まあ、家事全般に至っては、ただの個人的な趣味になってしまったのだが。



ー彼女が焦がれ望んでいた、御伽噺(おとぎばなし)の王子様にだってなってみせる。



ぽっと出の脇役如きに、その座を譲ってなどやるものか。奪われて、たまるものか。



「...何をこんなに、焦っているのデショう」



...分かっている。今の私は、普段の冷静さを少し、ほんの少し、欠いている。一体何を不安になることがあるというのだ。

そもそもあの男...死神は、元を辿ればただの人間なのだ。そう、人間ごとき。




ー彼女と同じ、人間だった。



(...同じ、種族)



チクリと、胸の奥をつつかれる感覚。



「...あぁ、鬱陶しい」



種族の違い、それがどうした。私らしくもない。力も地位も財力も頭の回転も、圧倒的に私の方が勝っているのだ。






「...そーデスよ!私の方がイケメンで背が高くてスマートで完璧なんデス!...なのに、何を一体...こんなに...」


「...自画自賛がすごい」




不意に聞こえた鈴を転がすような愛しいあの声に、一瞬で全身が凍りつく。


ぎ、ぎ、ぎ。と。錆びた絡繰人形を無理やり動かすように、恐る恐る後ろを振り向く。


...引っ込み思案な彼女が、自分を追いかけてくるなんて想定外だった。一体どこから聞かれていた?



「...(あんず)サン、いつから...って、ワ゛ァ゛ーーーーーー!!!!」


...それどころじゃなかった。大方私を探して、不自然に開いていた二階の窓から身を乗り出したんだろう。屋根の上にいた私の様子を見ようと、バランスを崩したのだろう。






ベランダから、落ちかけていた。




「な、な、なんでそんな事になるんデスか!!!!!!」

「...わかんない...たすけて」

「いや勿論助けマスけど!!!!」


慌てて彼女を救出する。と同時に、あの死神の顔が嫌でも脳裏をよぎった。

...ドジだなぁ。という顔でアイツのこと見てましたけど、あなたも相当ですよ。


(そこが飽きないし可愛いんデスけど...時折すんっごく、危なっかしいんデスよねぇ...無防備というか、危機感がなさすぎるというか、自分の命に無関心で適当ゆえに存在も希薄というか...。兎に角危ないのは勘弁願いたいものデス....)

「...何?」


なんだか、失礼な事を考えている気がする。彼女の顔にそう書いてあった。

...好意にはとてつもなく鈍感なのに。何故悪意やら呆れやら、負の感情にはこうも敏感なのか。


「...いえ、何でもないデスよ」


...言った所で、本人は首を傾げるだろうから。心の奥底にしまっておいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ