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#8 死して尚、社畜

僕は死神。亡くなった人の魂を、無事に黄泉まで連れていく仕事をしている。まぁ、偶にイレギュラーな依頼が舞い込んで来たりもするんだけど...今みたいに。


コードネームはカリン。


そして...生前の名前は、(たちばな) 花梨(かりん)。そう、死神は死んだ人間がなるものなんだ。

でも寿命や事故死、病死した人間が全員こうなるわけじゃない。



死神は、「自ら命を絶った」人間の就職先だ。

本来生きるはずだった余りの寿命分、こうして働かなくちゃいけない。



僕がソレに至った理由?ありふれたような、つまらない話さ。

勝手に1人で色々抱え込んで、溜め込んで。気がついたら線路にフラッと。それでそのまま。...周りの人には、だいぶ迷惑かけちゃったなぁ。


死ぬ気なんてさらさら無かったはずなんだ。残業と連勤が続いたある日の出勤中。その日は猛暑で、蝉の声がやけに煩かったのをよく覚えてる。


頭が回らない中、ふと。このまま飛び込めば、全て終わらせられるのかな。なんて。




そう思った時既に、体が勝手に動いてた。




ーーーーーーーーーーーー



「...まぁ、つまりさ。若い子に同じ轍を踏んで欲しくないって言うか...特に君の今やこれから抱える悩みって、周りの誰にも言えないくらい特殊だろ?」


洗いあげられた水気を拭くため、手に持っているお皿に視線を落としながら、その死神は続ける。


「僕も死神になるまで、吸血鬼や妖怪なんてただの御伽噺(おとぎばなし)だって思ってたし。...だから、せめて僕くらいは。話聞くくらいしたいんだ。あんま力になれないかもしれないけど」


少し照れくさそうに、こちらへ向き直る彼に。

つい、聞かずには居られなかった。




「...死神く...さん。何歳...?」

「そこ!?!?!?」



...死神くん。いや死神さん曰く、享年三十路。

そこから歳はとっていないらしい。




ーーーーーーーーーーーーー



「いや、分かるよ。確かに僕チビだし、君より背が低いし。童顔だし。よくビール買う時とか年確されてたし。なんなら免許証見せても疑われてたし...好きな女の子に自分より小さい人は無理って言われたことあるし...」

「な、なんか...ごめんなさい...」

「あ、いや、全然...気にしないで...僕の身長がアレなのが...運命が悪いから...フフフ...神を呪うよ...」

「死神なのにそれ言っていいの???」


結局あの後死神さんがいじけてしまい、お悩み相談どころではなくなった。どうしようもなく陰鬱な空気にお手上げになった所で、勢いよく庭先に面している大窓が開けられた。


「ジャスト1時間ッ!!!!経ちマシタよっ!!!さーぁ帰れっ!!さっさと立ち去りナサイ死神ッ!!!」

「うるさい」

「ハイ」


とはいえ、今はこの陰鬱を吹き飛ばすうるささが有難く感じる。


「え?...しまった!!もう1時間!?重要なこと何も聞けてない!!あー!!またやらかしたー!!」


そうだ、この人ポン...ちょっと抜けてる人だった。


「ププ、ダッサ。ポンコツ死神デスねぇ」

「はぁ〜!?来週も来るから首洗って待ってなよロリコン!!」

「ロリッ...!?何を...いや私226歳だから杏サンとの歳の差は...ひぃふう...あーもう!さっさと帰りナサイ!」


ザクロ、226歳だったんだ...。かなり年上だった。


「お前が国に帰れアホッ!!お邪魔しましたっ!!」


互いに罵りあった後、意外にも玄関の扉は丁寧に閉められた。...死神さん、変なところでマナーがいい。

ていうか、吸血鬼が怖いんじゃなかったっけ。...よっぽど相性が悪いみたい。


「フンッ、天界の犬が...」


...ザクロはザクロで天界や神様関係のものが嫌いみたいだ。まぁ、魔族だしね...。


「あっ、そうそう!何かあったらこれで僕を呼んで!」

「いや、帰れデス」


またドアが開いたと思ったら、死神さんが何か差し出してきた。渡されたのは、彼のローブと同じ色をした、小さな鈴のストラップ。


「これを握りしめて、心の中で僕を呼んでくれれば直ぐに君のもとに転移できる。このバカ王子に何かされそうになったらすぐ僕を喚ぶんだよ」

「ハァー!?なんですかそのダッセェ鈴!愛する(あんず)サンにそんな事しマセーン」


横から子供じみた野次を飛ばして、コレ触ったら神罰下るからな。と死神さんに牽制される王子。

グヌヌ...!じゃないんだよ。奪う気でいたのか。


「じゃ、今度こそお暇するよ。...えーと。君のこと、なんて呼べばいいかな」

「...なんでも、あなたが呼びやすいので」


「じゃあ、僕の事もかしこまらないで好きに呼んでよ。(あんず)ちゃん、また来週」

「二度と来なくていいデスよ!」

「来るわボケ!!!杏ちゃんに変なことすんなよ!!」


そうして今度こそ、死神さん...カリンさんは帰って行った。...嵐のような時間だったな。



「ッハァー!?腹立ちマスあいつ!!アレが俗に言う後方彼氏面デスかッ!?ケッ!!」


...玄関先であっかんべーするザクロを見てると、最早仲の良い友達に見えてきた。



「ザクロ、喧嘩腰になってるの初めて見た。意外」


「...当たり前デスよ、だって...」

「...ザクロ?」


何か言いたそうな、でも言うのを躊躇うような。そんな表情。


「...いえ、何でも...少し頭冷やして来マス」

「あっ...」


そう残して、彼はフラリと階段を上がって行く。...どうしよう、そっとしといた方がいいのかな、これ。


...でも、なんだかこのまま放っておくのは良くないような。放っておけないような。...とにかくそんな気がして。





「...ねぇ、ザクr」

「わ゛ぁーー!!転移術ドジったーー!!!姿も透過術で消してなかったァァァ!!ごめんなさいごめんなさいすみませぇぇぇぇん!!!!」

「クルァーーーッ!!!どこの組のモンじゃ貴様ァ!!!追えー!!!!」



呼び止めた声は、カリンさん...いや、カリン君の断末魔と、カリン君のドジによる被害者の怒声銃声に掻き消された。


同時に、私の中でカリン君呼びが固定された。

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