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陛下に対して救世主と言えど、ただの小娘が「3日猶予をやる」などと。

ふざけたことを言う。

異世界の者であろうが、郷に入りては郷に従えというもの!


こう沸々と怒りに燃えているのは、財務大臣の初老の男だった。

部下である補佐の男は、財務大臣が救世主に物申すといって部屋に突撃しようとしているのを止めているが、全く聞く耳を持ってもらえていない。


その様子を離れたところでシルバが見ていた。

そして内心、「あーあ」と思った。


そのまま乱暴にゆなの部屋に入っていった財務大臣の男。

部下は入りたくないようで、入口でうろうろと落ち着きなく動き回ったり扉に耳をあてて様子を伺おうとしたりしていた。


そして数分後。


先ほど息巻いて入っていったはずの財務大臣が心なしか痩せて、青白い顔になって出てきた。

首はガクッと落ち、下しか見ず、何か恐ろしいものを見た後のようにうつろな目になってふらふらと元来た道を戻っていった。

部下はそんな上司の変わりように慌てながらも、体を支えてついていった。



「…強い………」



シルバはそう呟いた。

シルバにとってゆなは今まで出会った女性の中でもまさに最強の女だった。


戦えない非力な女性であることはたしかなのだが、なんせ彼女は頭の回転が早い。

そして彼女が言うことは正論であるし、常に言葉と行動に矛盾がない。

正論であるが、それを押し付ける時とそうでない時があることもシルバは気付いていた。

彼女は会話の中で詰めるべき相手とそうでない相手を判別しているのだ。



「バカだなあ。口でゆなに勝てるわけないのに」



くっくっくと笑いながら言うのは、自分の同僚であるヤヒ。

先ほど音もなくやってきたが、もちろん自分は気付いていたしヤヒも気付くようにやってきた。


国中を回っている時から数多くやってきた刺客たちも、今ではいなくなった。

こちらに付く者も多く、気付けばゆなが抱える"影"は自分やヤヒの他に100人近くいる。

王妃であるイザベル様にも影がついているが、皆実際にはゆなについている気でいる。


影の中ではすでに国の実権を握っているのは王妃とゆなであるという認識だった。


しかし、ゆなが王に言った期日は明日だ。

ゆなは本当に帰ってしまうかもしれない。

そうなると、自分たちは王妃のイザベル様に付き、彼女を支えていくことになるだろう。



「正直に言うと、帰ってほしくないな~俺」


「…ゆなのことを思うと本当に言ってはいけないことね、ヤヒ」


「でもシルバだってそう思ってるだろ?」


「答えないわよ」


「あ、ずりぃなそれ」



またくっくっくと笑い、ヤヒは続けた。



「さっき帰ってほしくないとゆな本人に言った猛者がいたぞ」



ヤヒのその言葉に、シルバはパッとヤヒを見た。

ヤヒは笑っていない。

みんなが思っていることを言葉にしてくれた者がいたらしい。



「帰るに決まってると即答だったけどな」



そして落胆する。

きっとその場にいればみんな息をのんだことだろう。



「それを言ったのは誰?」


「キアだよ」



ああやはり。とシルバは思う。

キアは魔術師の中で空間魔法が最も得意な男。出発の日、ゆなにその才能を評価され人生を変えた一人だ。きっとそういう人はたくさんいる。ゆなは自己肯定感を上げるのが得意だから。

あの清掃の旅で同行した者は自分やヤヒを含め全員がゆなに気安く接しているが、その中でも最もゆなと絶妙な距離で気安く接しているのがキアだった。

きっとゆなに「帰らないで」と言葉にして伝えることが出来るのはキアだけ。



「そうか…」


「みんな表立っては言えないよな。ゆながどれだけ帰りたがっていたのか分かってるから」


「……まあね」



ゆなは旅の途中、どんなゴミも拾い、どんな汚物も綺麗にしていた。小声で「これをやれば結婚式これをやれば結婚式これをやれば結婚式」とブツブツ言っていたのもみんな知っている。


――と、そこへ人の気配がしたので、ヤヒも私も会話を止めた。


ゆなの部屋から出てきたのは、イザベル様とスーケンとカクリ、そしてキアだった。



「ゆなが帰っちゃうのいやですよ俺~」



王妃であるイザベル様に泣きついているのはキア。

なんと恐ろしいことをしているのだあいつは。イザベル様はたしかに王妃である威厳を保っている時と違ってかなり雰囲気がほんわかしていて頼れる姉的存在となったが、気安いにもほどがある。

イザベル様の雰囲気を一変させたのもゆなだ。断然今のイザベル様の方が良いと定評がある。



「気持ちは分かりますよキア。けれど、ゆなの気持ちを考えてみなさい?私たちには止める権利はありませんよ」


「それは分かっていますけど…」


「私だってゆなにはいてほしいのですよ?私が洗い出した王宮内の不正で、対処できなかったものはゆなが昨日1日で終わらせてしまいましたし。ゆながこのままいてくれたらこの国はきっと生まれ変われるに違いないのですもの」



そういえば、昨日は昨日でゆなは多忙だったなとシルバは思う。

王宮内の不正人事等を対処したイザベル様だったが、地位の高い方の横領はなかなか裏どりが難しく、動けずにいた。しかし、それを聞いたゆなが本人を突撃し、全員差し押さえ、正論だらけの罵詈雑言を浴びせて意気消沈した本人から証拠品がある場所を聞き出し、決定的な証拠を確保して牢屋にぶち込む。

関連している貴族もまるっと全員牢屋に入れた。


当然「なぜお父様を連れていくのよ!」と反論した貴族の娘を筆頭に複数の家族から非難を受けたのだが、一言「あんたの父親が犯罪者だからだけど?」といってまず周囲を黙らせ、それでも証拠が捏造だの冤罪だのと騒いだ娘に、「例えばあなたが、父親からお金をもらうとするね。そのお金の管理を母親に任せました。ある時、あなたは王族御用達のお店で買い物をします。お家に請求が来たので母親にお金を出してと言いますが、断られます。なぜと聞くとあなたからお金は預かっていない、だから出さないと言われます。お店からは払えないなら物を物を返せと言われますが、使ってしまって返すことができません。何度訴えても母親はそんなもの自分でどうにかしろと取り合ってくれません。父親もこれ以上お金はあげないよと工面を断られました。あなたは母親のことをどう思いますか?」と、問うた。

娘は「ひどいとしか思わないわ…お母さまに限ってそんなことしませんけどね!」と答えた。「では母親が、あなたのお金をとったことを認めて父親に怒られました。どう思いますか」と更に問うと、「…自業自得ではなくて」というので、ゆなは「あんたの父親がやったことと、あんたの父親に対して国民が思ってることがそれだね」と告げ、絶句した娘に横領の証拠を見せてやり、「あんたが横領で生活しているのを知っていた領民は、あんたのことをどう思ってたんだろうね。で、今私がここで公開しちゃったもんだからあんたが横領で生活していたことが貴族にもバレちゃったね」と言った。貴族にとっては、その言葉は死刑宣告だ。娘も母親も力なくへなへな、とその場に座り込んだ。

そして、ゆなはその次に叫んでいた男の家名を確認してその家の犯罪歴を公開し、また別の人の犯罪も公開した。「大丈夫、あなた達の家族はこれ以上誰も苦しめないように牢屋に入れておくだけだから。冤罪である証拠があったらいつでも来てね。もちろんお金で買収や捏造はすぐバレるけどそれでもやる人はご自由にどうぞ~倍にして今日の比ではないくらいボッコボコにしてやるから〜」と言って去るゆなにもう誰も文句を言わなかった。いや、言えなかったのだろうが、あれは見ていて爽快だった。


牢屋は今高貴な方ばかりいるが全員大人しい。というか、全員意気消沈した様子で看守を買収しようとする者さえいないので、看守やそこを見張っている影も逆に不気味さを訴える程だった。



「何より、私ゆながいる今が人生でとても楽しいの…。本当に寂しいわ」


「それは僕も」



と、カクリも呟き、そのカクリの頭をスーケンが撫でた。

この二人は血のつながりこそないが、同じ理由で王宮に来てその後の行動を共にしているため、強い絆が出来ているようだ。


ゆなが最も気安くそばにおいている二人だからこそ、二人の喪失感は計り知れない。



「僕、ゆながいなくなったら家に帰って勉強するよ。試験を受けて王宮に戻ってくる。イザベル様の下で働けるように頑張りますね」


「まあ!カクリ、それは本当に嬉しくてよ。必ず来てちょうだい。あなたとスーケンまでいなくなるのがとても痛手だったのよ」


「俺は文官って柄じゃないんで、傭兵や騎士が妥当ですかね」


「やだわスーケン。あなたは私専属の護衛になるに決まっているじゃない。キア、あなたもですよ」



イザベル様はそういって笑った。



「ゆながそばにおいているあなた達は、王宮内で味方の少ない私の本当に心許せる者たちです。絶対に手放しませんからね」



こそばゆそうに笑っていた面々をヤヒが「俺たちも入ってるかな」というので、「入っていると思って行動すべきよね」と答えておいた。

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