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あなたの心をください。

「君は宮中での横暴がすぎる。正直、君のように他人への思いやりも優しさもない人間とは一緒になりたくない。だから、この婚約はなかったことにさせてーー……」


 案の定、テスラ・ミーア伯爵との夕食の席でニファは婚約破棄を切り出されてしまった。

 まあ、薄々は気がついていた。

 テスラがもう自分に好意など持っていないことも、

 そして、他に愛を捧げる女が出来たことも。

 ニファへ嫌気がさしたというのは本音かもしれないが、それ以上に前述の動機が大きいことは間違いないだろう。


「あらあら、何ですか? テスラ様」


 ニファはテスラに問いかける。

 が、返事はない。

 彼が婚約破棄の口上を述べ終える前に彼は眠ってしまったのだ。


 原因は他でもない。

ニファがテスラの赤ワインにひっそり混ぜた魔女のポーションが作用してくれたのだった。


「すごい効き目ね、これ。さすが魔女」


 ニヤリと笑い、ニファはテスラが口をつけていたワイングラスをからからと回した。


「あっという間に寝ちゃった」


 睡眠ポーションに落ちたテスラはテーブルに突っ伏し、くーくーと寝息を立てている。


「まあまあ、気持ち良さそうなこと。不眠にもいいんじゃないかしら」


 ニファはテスラが完璧に眠ったことを確認し、魔女の薬草を詰め込んだ金属鍋をテーブルの下から取り出した。

 それをテスラの座っている椅子の元へ移動させると、迷うことなく薬草を燻し始める。


「うーん、あんまり悪くない匂いね」


 しばらくすると燻した薬草の煙と匂いが部屋に充満してきた。想像していたよりも心地よい香りが広がっている。甘いような、少し酸っぱいような匂いだ。


「うふふふふ」


 ニファは不適に笑うとテスラの耳元で囁く。  


「あなたの愛を私にください。あなたの心も私にください。私もあなたへ全てを捧げます。だから、永遠に愛し合いましょう」


 言い終えると、ニファはそのままペロリ、とテスラの耳を舐めた。

 すると、眠っていたとほ思えないほどにテスラの体が大袈裟にビクンッと反応した。


「あらー、眠っていても私の舌、良かったのかしら」


 じゃあ、次は~♪とニファはハミングし、テスラの顔をテーブルから起こすと、無防備な彼へキスする。


「ああ、なんて久しぶり。本当はあなたに会う度にこうしたかったのにっ」


 じゅるじゅる、とテスラの唇を貪るニファ。

 2人の唾液がテーブルに垂れる。

 ディナーの席には相応しくない。

 が、ニファは構わない。


 思う存分、キスを楽しむ。


「あなたが起きたら、もっと素晴らしいことをしましょう」


 優しく微笑むニファの声が届いたのか、テスラがううっと小さく呻いた。

 そして、このままぼやけているであろう頭を覚醒させるように擦りながら目を覚ました。


「私は一体何を……?」

「覚えていませんか?」

「私は確か、君と食事をしていて、そして君へ別れをーー」

「いいえ、違うわ。お口、チャック」


 すっとニファの人差し指がテスラの口を塞ぐ。


「あなたは私に別れではなく、改めて婚約を伝えに来てくれたのでしょう?」

「ーーそ、そうだったかな?」


 テスラは自信無さそうに虚ろな目を泳がせる。

 その目をじっと見つめてニファは囁いた。


「そうよ。あなたは私を愛してる。あなたは私との婚約を望んでいる。そう言ってくれたのよ」

「ああ、そう、だった、か」

「ええ、あなたは私に永遠の愛を誓ってくれた。だから、私もあなたへ私の全てを捧げます」


 言って、ニファはテスラの右手の甲にそっと優しくキスをする。


「だから、あなたの心も私にください」


 しばらくの沈黙。


「……」


 ニファはじっとテスラを見つめる。

 

 さあ、どうなる?


 魔女の教えたことが正しければ、テスラはニファの狙い通りに自分を正式な花嫁にしてくれることだろう。


 さあ、どうなる?

 どうなる?


「私はーー」


 ようやくテスラが口を開いた。

 ニファの体に力が入る。


「私は、ニファ、君のことを勘違いしていたようだ。それほどまでに私を愛していてくれたとは。ありがとう。私も君を愛している」

「ほ、本当にっ!」

「ああ。永遠に愛し合おう」

「はいっ!」


 と、ニファがテスラに抱きつこうとしたときだった。

 ニファよりも早く動いたテスラは強引にニファを床に押し倒した。


「ちょ、ちょっと、どうしたの?」

「愛し合うんだよ、今から」


 いやらしく笑うテスラ。

 高圧的な笑みをたたえ、彼はニファのドレスを破いた。


「何っ!?」


 ニファの下着を着けた胸が露になる。


「そう、驚くな、ニファ」

「で、でも」

「君も今日で女になるんだよ」

「ーーっ!?」


 あまりの展開にニファの思考が追い付かない。

 ただ、テスラへの反応は自然と現れる。


「ら、乱暴なのは嫌よっ」

「すまないな、ニファ。どうも体が熱くて、鼓動が早いんだ。今夜は一晩では済まないかもしれん」

「て、テスラ?」

「ただ、安心しろ。私たちが愛し合うことには変わりはない。私は君を愛している。体が動かなくなるまでとことん愛し合おう」


 ーーこんなの、違うわ。


 ニファは思った。


 ーー私が欲しかったのは、こんな形じゃ……。


 一抹の切なさが溢れた。

 ただ、同時にニファは思った。


 ーーでも、こうでもしなければ今頃、私は捨てられていたのよ。

 ーーなら、これは私にとって幸せではないのか?

 ーーきっと、薬草のせいでテスラは気が荒くなっているんだわ。


 そう思うと素直に今のテスラを受け入れることが出来た。


 何よりも最愛の人から永遠の愛を誓ってもらえたことが至極幸福だった。


「ええ、あなた。愛し合いましょう」


 ぼーっとしてくるニファの意識。


 このまま愛に溺れてしまおう。


 そう思うと同時にニファの唇がテスラの口で塞がれた。

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