覗きの制裁
「ひ、酷い目にあった.......」
「いや、今も酷い目にあってるんですけど?」
ソウルとデュノワールは罰として拠点の近くの木に縛って吊るされていた。
「ソウル、ユートピアはどうだった?」
「.......地獄でしたよ」
どこがユートピアなんだ。
「でも、ジャンヌ様の裸を拝めたなんてお前一生自慢して生きていけるぞ」
「なんの自慢ですか.......」
ソウルはため息をつく。
任務の前日にこんなことをして、任務に影響が出たらどうするんだ全く。
「なぁ。ソウル」
するとデュノワールが声をかけてくる。
「元気、出たかよ?」
「.......はい?」
「しんどい時はな、バカやって気を紛らわせたらいいんだよ。悩んだってなるようにしかならねぇんだから」
「.......方法は、間違ってると思いますよ」
もしかすると、落ち込んでいるソウルを見てデュノワールなりに励まそうとしてくれていたのかもしれない。
方法は滅茶苦茶だが.......。
それでも、確かにシーナが43班を抜けるかもしれない不安はすっかり頭から抜け落ちていた。
「るっせぇなぁ。おれはこんなやり方しか知らねぇの!」
デュノワールは渋い顔をしながら告げる。
「まぁ大丈夫だよ。だから安心しなって話さ」
そう言ってデュノワールがにっと笑った。
「.......はい」
そして宙吊りのソウルはデュノワールの言葉に少し安心するのだった。
ーーーーーーー
「全く、あのゴキブリめ」
大浴場からというもの、ずっとこの調子でマリアンヌの怒りは収まることを知らない。
「え、えーと。でもそろそろ下ろしてあげた方が.......」
「ダメだ。甘やかしたらまぁた調子に乗るから」
「.......うん」
シーナも頬を膨らませる。
「だが、流石に任務に支障をきたしてはいかんから程々にな」
そんな部下の様子を眺めながらジャンヌはどこか楽しそうに笑顔を見せた。
「ジャンヌ様も甘いですよ!」
しかしマリアンヌは酷くご立腹だ。
「まぁ、デュノワールの女癖の悪さが目につくのは分かりますけど」
ケイラは優しくマリアンヌに告げた。
「デュノワールもそのうち落ち着きますよ。だから今は寛容にしてあげましょ?」
そしてマリアンヌの頭をポンポンとたたく。
「うっ、ケイラァァァ!」
それを聞いたマリアンヌはケイラに抱きついた。
「.......?」
シーナは状況がよく分からず首を傾げる。
「そういえば、シーナさん。ごめんなさいね、その.......色々」
ケイラは俯く。
「ううん。多分、必要な事だと思うから.......」
シーナはサルヴァン公と話した時、明確な悪意を感じた。それはこれまでジャガーノートである自分を利用しようと近づいて来た者たちと同じ空気だった。
それにデュノワールがシーナは聖剣騎士団であると言ったのには何かの意図があるように感じたので話を合わせることにしたのだ。
「この部屋ももしかすると監視されているかもしれん。気を抜くなよ」
ジャンヌが小声で告げる。
「.......はい」
シーナはこくりと頷く。
だが、そうなると気になるのはソウルのことだ。説明もちゃんとできなかったし本当にチームから自分が抜けると思い込んでいないだろうか?
それに、風呂場で蹴り飛ばしてしまった。余計に顔も合わせづらい。
い、いや、でも?自分が聖剣騎士団だと言った時にすごいショックを受けた顔をしていたのは正直嬉しかったし?別にソウルになら裸も見られても嫌じゃないし?ケイラの裸を凝視してたのが嫌なわけで.......。
そんなことを考えていると、マリアンヌとケイラがニヤニヤしながらシーナを見つめていることに気がついた。
「.......な、なに?」
シーナはあたふたしながら尋ねる。
「今、ソウルのこと考えてただろ?」
「.......別に?」
シーナはぷいと顔を逸らすが耳まで真っ赤になっていることに当人は気づいていない。
「そう言えば、馴れ初めとか聞いていませんでしたよね?」
マリアンヌとケイラがじりじりとシーナに詰め寄ってくる。
「……え、いや、その……えと」
シーナは助けを求めるようにジャンヌの顔を見た。
「ふむ」
ジャンヌは1つ頷くと
「私も、ぜひ聞いてみたいものだな」
少女のような無邪気な笑顔を見せた。
「.......あ...あぁ〜」
こうしてシーナは逃げられないことを悟るのだった。
ーーーーーーー
「全く、お前たちは……」
深夜、復活したジェイガンが縄を解きにやって来てくれた。
「い、一緒にしないでください」
ソウルはため息をつく。
「何言ってるんだブラザー、お前と俺は一心同体だろ?」
そう言ってデュノワールに肩を組まれる。待て、一体いつからブラザーになったんだ。
「任務があるから今回はこれで勘弁してやる。だがこれ以上問題を起こしたら、分かってるな?」
ジェイガンが鬼の形相で2人を睨む。
「うぃっす!もうしませんっ」
デュノワールは敬礼して部屋の中へと戻っていった。
「お、おれももうしません」
ソウルは巻き込まれた側ではあるがジェイガンにそう告げる。
「それから、ソウル」
すると、ジェイガンがソウルにそっと耳打ちする。
「ジャンヌ様の裸は記憶から削除しろ。いいな?」
「………………は、はい」
ジェイガンの鬼気迫る表情にソウルは身を震わせるのだった。




