サルヴァン公
城に到着すると一行は謁見の間へと案内された。
ジャンヌ以外の聖剣騎士団の面々と43班はひざまづいて待機する。
「うへぇ、慣れねぇなぁ」
ソウルが小声で呟く。
「こら、しっかりやらないとジャンヌ様に迷惑がかかるから」
.......コクリ.......コクリ。
「シーナはうたた寝しないで!?」
「.......こういうの.......苦手」
シーナが頭で舟を漕ぎながら呟く。
そう言えば、初めてあった時もジェイガンの話を聞いていなかったっけ?
「レイ、苦労してんなぁ」
デュノワールがケラケラと笑う。
「全く.......そろそろサルヴァン公がお見えになる。気を引き締めてくれよ?」
ジャンヌは少し困ったように笑う。
怒っていると言うよりはやんちゃな兄弟をやれやれと言っていさめている感じだろうか。
「お待たせした」
その時、扉が開かれて一人の男が入室する。この人がサルヴァン公か。
「よくぞ、参られた。ジャンヌ殿」
サルヴァン公は薄茶色でクルクルと巻かれた髪に金の小さな王冠を被っている。華美な服を身につけ、ぽっちゃりした体型の彼はちょび髭を弄りながらジャンヌを歓迎した。
「お初にお目にかかる。聖剣騎士団団長ウェルリアム・ジャンヌと申します」
ジャンヌはそう言って頭を下げる。ソウル達もそれにならって頭を下げた。
「此度はサルヴァンからの救援要請を、かの有名な聖女様に受けていただけたこと、誠に感謝する」
サルヴァン公は笑顔で告げる。
「国を守ることが我ら騎士の使命です。それでは早速ですが詳しい状況をお聞かせ願いたい」
「ふむ、そうだな。ケイン!」
「はっ、ここに」
サルヴァン公が呼ぶと赤い鎧を着た30代後半の男が現れた。髪は焦げ茶色で少し逆立っており、凛々しい眉毛が印象的な騎士だ。
「細かい戦況の報告をジャンヌ殿に伝えよ」
「それでは、こちらをご覧ください」
ケインはそう言って壁に巨大な地図を貼り出した。
「これがサルヴァンの全体図です」
ソウルも横目でその地図を眺めてみる。
全体の形はきれいな正五角形。中心にこのサルヴァン城を構え、それぞれの頂点へ向けて5本の大通りが引かれているようだ。
「かつてこの町を作った私の先祖が、きっちりした性格でしてね。こんなきっちりした町になったんですよ」
サルヴァン公は、はっはっはと豪快に笑う。
「この5つの大通りはそれぞれ大きい都市方面を向きこの町に行商人が楽に出入りできるようになっております」
「なるほど、確かにそれは理にかなっていますね」
ジャンヌも感心したように告げる。
「ただ、今回それが厄介なことになっているのです」
「獣人、【ビーストレイジ】は高い機動力を兼ね備えた集団です。1つの道を防備で固めても、防備が手薄な場所を狙って攻めてくるのです。かといって全ての道を固めてしまっては守りが手薄になるに加え、この町の行商に影響が出る。そうなってしまうとジリ貧でこちらが消耗し、結局追い詰められていくことになる」
「ジャンヌ様は、奴らの1番厄介なところはなんだと思われますか?」
サルヴァン公はジャンヌに問いかける。
「ふむ。それは高い身体能力でしょうか?」
「そうです。高い身体能力による機動力の高さが1番厄介なのですよ」
「この前の襲撃でもその機動力を駆使して火を放たれたのです」
「火を?」
ジャンヌは怪訝な顔をする。
「はい。ジャンヌ様の参られた北東通りは被害が少なかったのですが、反対側の南西通りはほぼ壊滅状態です。家を焼かれ、居住地を失った民が城に押し寄せてきておりました」
「家を無くした彼らの生活を保証するためにこちらも手を尽くしてはいるのですが、なかなか手が回り切っていない状態なのですよ」
サルヴァン公はため息をつく。
「なるほど」
ジャンヌは少し考え込むような仕草を見せた。
素人のソウルの目にもかなり状況は悪いように感じる。
「敵の拠点は掴めないのですか?」
ジェイガンが横から問いかける。
「ええ。ある程度までは追跡ができるのですが、必ずどこかで撒かれてしまうんです」
「追跡したものの証言では、まるで煙のように消えてしまうそうです」
「なるほど、では敵の拠点を探るのは難しいのですね」
「そういうことです」
「.......それではもう1つ、お聞かせ願えないでしょうか?」
しばらく考え込んでいたジャンヌが顔を上げる。
「えぇ、何なりと申し上げ下さい」
サルヴァン公は笑顔で答えた。
「何故、ここまで追い詰められるまで本国へ救援を求めなかったのですか?」
ジャンヌの鋭い目がサルヴァン公を射抜く。
「.......それは、どういう意味でしょうか?」
サルヴァン公の表情が固まった。
「正直、かなり厳しい戦況にあると感じます。しかし、ここまでの事態になるまでに救援を申し出ることはできたでしょう。それに家を無くした民が多くいることを本国に伝えていただければ何かしらの援助をすることはできたはずです」
「ふむ」
サルヴァン公は自身のちょび髭をいじる。
「何か、理由はあるのでしょうか?」
「.......それは、この町で起こった反乱はこの町の中で解決したかったのですよ。しかし、それでここまで大きな事態に発展させてしまったことは私の失態です。その尻拭いをさせてしまうことは心苦しいのですが」
サルヴァン公は頭を深々と下げた。
「どうか、この町の為にお力を貸していただけないでしょうか?」
「.......わかりました。それでは私達聖剣騎士団はこの町の全ての人間の平穏な生活を取り戻すために尽力致します」
そう言ってサルヴァン公とジャンヌは握手を交わすのだった。




