サルヴァンの町
「さて、全員集まったようだな」
ジャンヌが馬車の中から姿を現す。
「それではこれから出発だ。サルヴァンの町は普通の馬車で3日ほどの場所にある」
「え、遠くないですか!?」
ソウルは気が遠くなる。また馬車で痛い目に.......。
「でも安心したまえソウルくん」
女性陣にボコボコにされたデュノワールがチッチッチッ、と指を振る。
「うちの馬は並大抵の速さじゃないんですよ」
ケイラが自信満々に告げた。
「うん……うちの馬なら大体半日ぐらいかな」
「そ、そんなに速いんですか?」
レイは驚きの声をあげる。普通の馬車の3倍以上の速さなんだが!?
「あぁ。ただ.......」
ジェイガンは苦笑いしながら告げた。
「すごい揺れる。すごい揺れるから.......頑張ってくれ」
ーーーーーーー
「ま、まだですか?まだつかないんですか?」
ソウルはぐったりと項垂れながら悲鳴を上げる。
「は、はは、ははははは」
レイは人形のように転がりながら壊れたように変な笑いをこぼしていた。限界が近いのだろう。
「.......」
シーナは顔を真っ青にしながら機嫌が悪そうに座り込んでいる。
「も、もうじきつきますから頑張ってください」
そんな3人の様子にケイラは苦笑いしている。
「やっぱり、慣れてねぇとこの馬車やばいんだなぁ」
マリアンヌは手綱を引きながら呟く。
一言で言うならば、「狂っている」だろうか。
超スピードで延々と走り続ける馬たち。当然荷台は激しく揺れ、カーブの度にソウル達は遠心力であっちこっちに揺さぶられる。
ドランクール遺跡に比べ、腰掛ける場所は柔らかく作られているが、ドランクール遺跡に行った馬車より酷い惨状だった。なんで聖剣騎士団のみんなは平気な顔をしているのだろう。
「お、見えてきたぞ!」
そうしているとマリアンヌが高揚した声で告げる。
「お...おぉ」
ソウルは吐き気を堪えながら馬車の中から顔を出し、その町の全貌を眺めた。
町は白い岩を四角に削ったような建物が立ち並び、そして周りは高い木などは見当たらず砂地が広がっていた。砂漠までは行かないが、緑は少なく腰ほどの高さの低木がまばらに生えているぐらいで不毛の地、といった印象を受けた。
そして街の中央には白い城が建っている。それは金色の栗のような形をした屋根をしてかなり独特なものであるようにソウルの目に映った。
「あれが、サルヴァン。イーリスト国で行商の中心として栄える町だ」
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サルヴァンの町に入ると活気溢れた雰囲気だった。あちらこちらに屋台が並んでおり、珍しいさまざまな商品が所狭しと並べられている。
「わぁ。珍しい果物もありますね」
ケイラは目を輝かせる。
「美味しい茶葉とかも買って行けたらいいんだけどな……」
ハミエルもキョロキョロと落ち着きなく辺りを見渡す。
「お前達、今回は任務でここに来ていることを忘れるな?」
「「はーい」」
ジェイガンが釘さすと2人は仲良く返事をする。この2人ほんとに仲がいいよな。
「さて、これからの動きだが」
すると、そんな一行にジャンヌが声をかけてくる。
「ハミエル、例の通りもう動き始めてくれ」
「はぁ……全くジャンヌ様は僕使いが荒いんですよ」
ハミエルはそう言ってため息をつく。
「そう言うな。それさえこなしてくれれば好きに屋台をまわって茶葉を買ってきてもいい」
「はいはい。じゃあ行ってきますよ」
そう言ってハミエルが立ち上がった。かと思った次の瞬間、ハミエルの姿が煙のように消える。
「え!?」
レイが声を漏らす。
「ハミエルさんの魔法です。ハミエルさんにピッタリでしょう?」
「ケイラ、それは一体どういう意味だい?」
どこからともなくハミエルの声が聞こえる。
どうやらいなくなった訳ではなく、姿が見えなくなっただけのようだ。
「じゃあ、そっちのことは任せます」
「あぁ。頼んだぞ」
それを最後にハミエルの声は聞こえなくなった。一体、彼は何をしに行くのだろうか?
「さて、我々はこのままサルヴァン城に入り、この町の頭首サルヴァン公と謁見する」
ジャンヌがみんなに段取りを説明する。
「そこで情報を集めると共にこの町の状況を把握、今後の動きを計画しよう」