シーナの朝
「あら、シーナちゃん。おはよ」
マルコが2階から降りてくるシーナに声をかける。
「.......おはよ」
なかなかジャガーノートであるシーナが借りられる部屋が見つからないのでシーナはまだマルコの店で寝泊りさせてもらっていた。
「今日のシーナちゃんのご予定は?」
マルコは食パンの上に目玉焼きを乗せたものと牛乳の入ったコップををシーナに渡す。
シーナはそれを受け取ると椅子に腰掛けた。
「.......うーん」
特にやらなければならないことは思いつかない。とりあえず牛乳を飲もうとコップに口をつける。
「だったらソウルちゃんでも誘って出かけてきたら?」
「ぶーっ!」
シーナは口から牛乳を吹き出した。
「.......無理」
シーナは顔を真っ赤にしてフルフルと首を横に振る。
「あら、オリビアちゃんはたまーに一緒に出かけてるみたいよ?」
マルコは意地悪な笑みを浮かべた。
「.......むむむ」
シーナは眉間にシワを寄せる。
「一緒にいれるうちにたくさん一緒にいとかないと、いつか後悔することになるかもしれないわよ?」
マルコは遠い目をしながら呟く。
「.......?」
シーナは言葉の真意を読み取れず首を傾げる。
「ようは、女はアタックあるのみってことっ」
そう言ってシーナの肩をたたいた。
「.......ねぇ、マルコ」
するとシーナはポツリと呟く。
「どうしたの?」
「.......私、まずいことしちゃったかな?」
「まずいこと?」
「.......ジェイガン様に、ケンカを売っちゃったこと。ソウルとレイに迷惑かけちゃった」
「あぁ、例の件ね」
確か、聖剣騎士団との模擬戦でジェイガンと戦ったことや挑発的な言動をとってしまったことは聞いている。
どうやらシーナはその事を後悔しているようだ。
「.......私、カッとなったらすぐ周りが見えなくなっちゃう。まさかこんなことになるなんて、思ってもなかった。だから、今はあんまり2人に会いたくない.......。これって、変かな?」
シーナは困った表情でマルコの顔を見つめる。
マルコの目にはまるでシーナが悪いことをしてしまい、落ち込んでいる小さな女の子のように見えた。
「.......これまで、どんな人生を送ってきたのかしらね」
マルコは胸が痛くなる。
親にこういった気持ちを受け入れてもらえる経験がシーナには欠落しているのかもしれない。マルコはシーナの顔を真っ直ぐに見つめて告げた。
彼女の想いを受け止めてあげるように。
「いい?人は失敗する生き物なの。確かにジェイガン様にケンカを売っちゃった事はあまり良くないわ」
「.......う」
シーナは涙目になる。
「悪いことをしてしまったと思うなら、しっかり気持ちを込めて謝りなさい。ソウルちゃんがあなたにしてくれたように、ね?きっとそれで伝わるわ」
「.......マルコ」
シーナは泣きながらマルコを見上げた。
「大丈夫。何があってもあなたにはソウルちゃんもレイちゃんも、オリビアちゃん、あたしもいる。だから安心なさい」
「.......ありがと、マルコ」
そうしてマルコはポロポロと涙を零すシーナの頭を撫でるのだった。