朝の訪問者
トントン。
ソウルが眠っていると、誰かが扉をたたく音が聞こえた。時計を見ると午前10時半だった。何かの勧誘だろうと居留守を決め込み、目を瞑る。
トントントントントン。
まだ諦めないか、しつこい奴め。
ドンドンドンドンドン。
.......ドアをたたく音が次第に大きくなる。嫌な予感がする。
ガァン!ガァン!
まるで、ハンマーか何かで扉を叩きつける音に変わる。流石に出ないとヤバそうな雰囲気だ。
「こんな朝っぱらから誰だ?」
仕方なく布団から出て文句を言いながら扉を開ける。
「よぉ」
すると短い橙色の髪と元気につり上がった青い目がソウルを見上げていた。
「.......エレナ?」
ソウルはぽかんと口を開けてしまう。
「なんだよ、だらしない顔して」
エレナはドランクール遺跡の時の探検家と言った服装ではなく、年相応の少女のような薄いTシャツに短パンの格好でそこに立っていた。.......そして彼女の右手には採掘用のハンマーが握られている。
さてはこれで殴ってやがったな、こいつ。
「いや、なんでここに?」
自分の家をエレナに教えた覚えはない。ソウルは扉が壊れていないか確認しながら尋ねた。あぁ、扉凹んでんじゃねぇか。
「レイから聞いたんだよ」
「あいつか」
ソウルは頭を抱える。また余計なことを.......。
「まぁ、立ち話もなんだしあげてくれよ」
エレナはそう言ってずかずかと家に入ってくる。
「それはおれが言うセリフじゃねぇか!?」
一言ツッコミだけ入れるが、もう言うことを聞く様子もなさそうなのでそのままエレナを家にあげることにした。
ーーーーーーー
「ほぉー。意外と片付いてるんだな」
「一言余計だ、一言」
そう言いながらも買いだめしておいたオレンジジュースをエレナに渡す。
「お、オレンジジュース好きなんだよ。気が利くな」
コップを受け取ったエレナは嬉しそうにしている。
.......そう言えば、このジュースを買うように勧めていたのはレイだったような。
席に着いたエレナはぷはぁとジュースを飲む。こうして見ると本当にただの10歳の女の子なのだと感じた。
「それで、今日は急にどうしたんだよ」
ソウルは頭をがしがしとかきながらエレナに尋ねる。
「いやぁ.......その」
エレナは言い出しづらそうにモジモジしている。
「お前らしくないな。いつもなら遠慮なく思ったことをぶつけてくるくせに」
「はぁ!?お前は私をなんだと思ってるんだよ!?」
そんなソウルにエレナは元気よく憤慨した。
「はぁ、全く」
プンスカしながらもエレナはまたジュースに口をつける。
「.......ドランクール遺跡では...ありがと」
するとエレナはぼそっと呟く。
「お前のおかげで、ヨーゼフも牢屋にぶち込まれたし周りの考古学者たちも少し優しくなってくれた気がするんだ」
「おれは何もやってねぇよ。礼ならシーナとレイに言ってやってくれ。おれはただマイケルのバカにめちゃくちゃにされただけだ」
ソウルはアイリスとの戦いの後、しばらく入院していた。その間、ヨーゼフやマイケル達の悪事を報告したりするのにレイが奔走してくれていたと聞いている。
結果、どうやらヨーゼフは牢屋送り、マイケルも騎士の称号を剥奪されたらしい。その他のヨーゼフ側の連中も何かしらの罰則が与えられたとかなんとか。
ソウルはマイケルにやりたい放題された結果事態を悪化させてしまっている。礼を言われる筋合いはないはずだ。
「それでも、さ。最初にヨーゼフに絡まれた時にいの一番に庇ってくれたのはソウルだったろ?」
エレナはジュースの入ったコップを眺めながら呟く。
「ソウルのおかげなんだ。あれだけの思いをしたけど、それでもちゃんと私のことを認めてくれる奴もいてくれるんだって、分かったんだ。ソウルはそのことを気づかせてくれたんだよ。だからこうしてちゃんとお礼を言いたかったんだ」
最後は絞り出すような小さな声でエレナは告げた。
「エレナ...」
「だ、だから、もし何か困ったことがあったらいつでも頼ってくれよ」
そう言ってエレナは少し顔を赤らめる。
「そっか、ありがとな。きっとお前ならもっと立派な考古学者になれる。だから、また面白い遺跡とか昔話とかあったら、教えてくれよ。お前の活躍を楽しみにしてるからさ」
ソウルは笑顔で伝える。
「任せろ!何かすげえもん見つけた時は、一番に見せてやるからな!楽しみにしとけ!」
そんなソウルにエレナも笑顔で答えるのだった。