ジェイガンとレイの戦い
聖剣騎士団の部屋を後にした一行は城内の闘技場へと足を運んだ。
「では、これから模擬戦を行うわけなんだが」
ジャンヌは聖剣騎士団と43班を見比べる。
「ジェイガン、お前が相手をしてやってくれ。最初はレイ、次にソウル、最後はシーナの順だ」
「ジェイガンのおっさんなら何やっても大丈夫だから遠慮なくぶちかましてきていいぜ!まぁ健闘しろや見習い!」
デュノワールがケラケラと笑ってレイの肩を叩く。
「ほら、あんたはこっち来な」
「いてててて!?わ、分かったから!離せって!?」
するとマリアンヌがデュノワールの耳を引っ張って観客席まで連れていく。
観客席には既にケイラとハミエルも座っているようだった。
「全く...あいつらは私をなんだと思っているんだ」
それを見ながらジェイガンは、はぁとため息をつく。
「苦労が絶えませんね.......」
レイも気の毒そうに告げる。
「まぁ、いつものことだ。では、先に行っているぞ」
そう言い残してジェイガンは闘技場の真ん中まで歩いていく。
「レイ、がんばってこいよ」
「.......レイ、ふぁいと」
「やれやれ、簡単に言ってくれるよ」
ソウルとシーナの激励にレイはやれやれとため息をついた。
「まぁ、いろいろ言われてるけどさ」
レイは伸びをする。
「それでも、ただで負けるつもりもないさ」
そしてレイは不敵な笑みを浮かべた。
ーーーーーーー
「ふむ、それでは遠慮なくかかってくるといい」
そう言ってジェイガンは拳を構える。
「.......?武器は持たないんですか?」
「私は拳闘士なんだ。武器は持たんよ」
魔法を使えるとはいえ騎士は基本的に武器を携帯している。
マナはその者の生命力だ。多用すれば当然底をつくし、限界もある。故に騎士はもしもの時に魔法だけでなく武器でも戦えるように訓練しているし実際武器を使う頻度は高い。
一方で武器を持たずに強力な魔法を撃つことだけに特化した部隊もある。それらは騎士ではなく魔術師という別部隊として機能しているそうだ。
「それでは、遠慮なくいかせていただきます」
レイは腰の細剣を抜く。
ジェイガンは紫をベースに白い装飾のされた重厚な鎧を装備している。拳闘士であればもっと動きやすい格好で戦うものだと思っていたが、何か意図があるのだろうか。
「双方、準備はいいな?」
ジャンヌの呼び掛けに2人は静かに頷いた。
「それでは、はじめっ!」
そして戦いの火蓋が切って落とされる。
「【闇】のマナ.......闇をまとえ、【骸の剣】!」
レイは魔法を発動させた。レイから溢れる闇のマナはレイの細剣を包み込み黒い大剣を顕現させる。
刃渡りはレイの身長ほど、持ち手に光る髑髏が不気味さを漂わせている。
レイは魔法の発現と共に地を蹴った。
「はぁぁ!!」
レイの速攻だ。まずは縦振りの一撃を放つ。
「ぬぅん!」
ジェイガンはそれに動じることなく拳で応えた。
ガキイイイン!
レイの剣とジェイガンの籠手がぶつかる。
「っ!」
そしてレイは後方へと吹き飛ばされ、バランスを崩すも何とか着地してまた剣を構えた。
「あれだけ勢いをつけたのに押し負けたのか!?」
ソウルは目をはる。
「そりゃあ、ジェイガンのおっさんはゴリゴリのパワーアタッカーだからな」
すると、隣に座るデュノワールが解説してくれる。
「力は聖剣騎士団最強だからね。ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしないんだよねぇ」
「それに、防御も硬いんです。ジェイガンさん1人で要塞みたいなものですよ」
「ば、化け物じゃないですか.......」
この後試合をするソウルはため息をつく。魔法を使えないソウルにとってジェイガン攻略は至難の業になりそうだ。
「それでも、まだ見所はあるな」
ハミエルは覇気のない声でボソボソと呟いた。
「どうした?もう終わりか?」
レイを吹き飛ばしたジェイガンが告げる。
「まだ一撃防いだだけじゃないですか。勝負はここからですよ」
レイは負けじとニヤリと笑う。
「私の防御はこの国でも随一だ。思いきり来ないと破れはせんぞ?」
ジェイガンは最初の位置から一歩も動かず構えも緩めない。
その姿はまるで堅実強固な要塞だった。レイは巨大要塞に1人で立ち向かっているような圧力を受ける。
同時にそれを嬉しく思うレイもいた。相手は第1級の騎士だ。そんな格上の相手が見習い相手にも手を抜くことなく正々堂々と戦ってくれているのだと最初の一撃で理解できた。
不用意に攻めてこないのもジェイガンの元々の戦闘スタイルに加えこちらを警戒してのことだろう。
「その胸、借りさせてもらいますよ」
レイはマナを溜める。
「【強撃】のマナ、【粉砕】!」
闇のマナが増幅。ただでさえ巨大な黒剣がさらに大きくなり、もはや剣ではなく巨大な鉄板のようになる。
【強撃】のマナは純粋にオリジン・マナの力を増幅させる力がある。レイの魔法であればその剣の力をより強くする力になるようだった。
同じデバイス・マナでも術者によって効果は変動することがある。
なぜなら魔法とは術者の自己実現だからだ。
「こんな魔法を使いたい」「自分はこんな人間だ」といった思いや生まれ持った才能によって発現する魔法も変化するのがその理由らしい。
「これを受けきれますか!」
レイは巨大な鉄の塊をジェイガンに振り下ろす。
「こいつは受けきれんな!【地帝】と【壁】のマナ、全てを守れ!【大地の抱擁】!」
レイの攻撃にジェイガンも魔法を発動させる。
ゴゴゴゴ.......
闘技場全体が揺れる。地面が盛り上がり、ジェイガンとレイの間に巨大な壁を生み出した。
高さは7mほど、厚さは2mはあるだろうか。それはさながらジェイガンという城を守る城壁のようにソウルの目には映った。
「はぁぁあ!!」
レイは構わずに土壁に剣を振りおろす。
ドゴオオオオオオオ!
レイの剣とジェイガンの城壁がぶつかる。放出される闇のマナがガガガと音を立てて土を削っていく。力と力のぶつかり合いだった。
「へぇ、おっさんが見習い相手にあんだけハッスルするなんてな」
デュノワールは意外そうに告げた。
「そうなんですか?」
「おぅ、いつもならもっと、こう...必要最低限でやる感じ?」
「それだけレイくんの事を評価してるんでしょう」
「確かに、あの魔法剣だっけ?かなりの力を感じるな」
マリアンヌは食い入るように見つめる。
「へっ、年下好きか」
デュノワールがボソリと呟く。
「はっ、レイはあんたの100倍はいい男だと思うけどな」
マリアンヌは負けじと毒を吐いた。
「あぁん!?」
「やんのかぁ!?」
「うるさい」
そんな2人にハミエルは心底面倒くさそうに告げる。
「ほら、戦況が動くよ」
ハミエルの言葉に他の者も試合に目を戻した。
レイのマナは土壁を削る。しかし削れた分周りの土が集まり壁を補強していく。
ただの壁ではない。自己修復していく城壁。
「分が悪いな...」
レイは瞬時に判断、マナの放出が残っているうちに行動を開始した。
【粉砕】で土壁を砕くことは出来ないが、削ることは出来る。
「だったら!」
レイは削った壁を踏み台に跳躍。そしてまた剣を振って土壁を削り、そしてそこを踏み台にさらに跳躍。
「壁を登る気か!?」
デュノワールが面白そうに告げる。
「確かに、あの鉄壁を砕くよりは現実的な突破法だね」
「でも、あのジェイガンがそれを読まないとは限らねぇし。その先が勝負だな」
マリアンヌも呟いた。
レイは壁を登り切る。そして壁下にジェイガンの姿を捉え【強撃】のマナを練り直す。ジェイガンの防御とともに撃ち抜いてみせる。
「【粉砕】!」
レイは壁を蹴り、ジェイガン目掛けて跳躍した。この高さからの一撃ならジェイガンの防御も打ち抜けるはずだ。
「読めていたぞ、少年よ」
しかしジェイガンはニヤリと笑う。
「【地帝】と【巨人】のマナ、現れよ!【巨岩兵】!!」
ジェイガンの体からマナが溢れ地面に飲み込まれる。するとジェイガンの背後の地面が盛り上がり巨人の上半身の形を形成した。
グゴゴゴゴ.......。
「なっ!?」
レイは焦る。
空中では急な方向転換はできない。ジェイガンの防御を破ることだけに意識を向けてしまった。
さっきの挑発はレイの攻撃を誘う狙いがあったのか!?
ジェイガンが体をひねる。それを真似するように岩巨兵も体をひねった。
「ぬぅん!!」
そしてジェイガンが拳を振ると岩巨兵も拳を振った。
「うおおおお!?」
レイは岩巨兵の拳に向かって剣を振る。しかし、力の差は歴然だった。
ドシィン!
「がぁ!?」
鈍い音と共にレイは吹き飛ばされて岩壁に突き刺さった。
「そこまでだな」
それを見ていたジャンヌが試合を止める。
ジェイガンが手を振ると岩壁がボロボロと崩れ始め、レイもゴロリと落ちてくる。
「大丈夫か、レイ」
ジェイガンはレイを受け止めながら尋ねる。
「や、やられましたよ」
レイはぐったり項垂れながら苦笑いするしかなかった。
「ふっ、タフなやつだ。ジェイガンのあれを喰らって意識があるとはな」
そんなレイにジャンヌは笑顔で告げる。
「次は、このようには行きませんよ」
「期待しておるぞ。とりあえず今はケイラに治療してもらうといい」
そう言ってジェイガンは観客席へとレイを運んだ。
「お疲れ様でした。見事な戦いぶりでしたよ」
ケイラはレイの頬に手を当てながら微笑む。
「いや、完敗でした。さすがジェイガン様です」
ぐったりと寝転がされながらレイは答える。
「いやいや、面白かった!おれがあれされたら為す術なく魔法打ち続けたと思うぜ!」
デュノワールは楽しそうに笑う。
「あんたは脳筋なのよ」
「あぁん!?」
「次はソウルの番かな?」
ハミエルがデュノワールとマリアンヌのケンカをスルーして声をかけた。
「よ、よし!」
ソウルが立ち上がろうとすると
「.......私が行く」
シーナが立ち上がった。
「え、でも」
「ソウルじゃ相性が悪すぎる」
「うっ」
シーナの指摘は最もで、あれだけ防御を固められてしまえば魔法を人前で使えないソウルが付け入る隙はないだろう。
「でも、結局戦うんだから順番はどっちでも」
「.......大丈夫」
シーナは凶悪な笑みを浮かべる。
「.......私がジェイガン様を倒せばソウルが戦う必要は無くなるはず」
「.......」
空気が凍り、ソウルは絶句した。
「ほぉ。おもしろい小娘だ」
ジェイガンは威圧的に笑う。
「面白くなりそうだな」
デュノワールがニヤニヤしながら2人のやり取りを見守る。
「見習いのくせに生意気だな。ジェイガン、身の程をわきまえさせてやってくれよ!」
「えぇ.......えぇー.......?」
マリアンヌは憤慨し、ケイラは困惑してキョロキョロ2人を見比べた。
ちなみにレイはレイラの膝元で目をつぶって我関せずの姿勢を貫いている。
「その虚勢がどこまで続くか、見ものじゃないか。さっそく戦ってみるといい」
ジャンヌも迫力のある笑みで応えた。
「あぁ.......」
ソウルは項垂れる。
「また、めんどくさい事に」




