聖剣騎士団との任務
ハミエルが入れた紅茶は香り高く絶品だった。
そしてなんだかんだで結局ハミエルはクッキーも用意してくれたので、5人はしばしティータイムを楽しんだ。
そしてしばらくすると、応接室の扉が開き、金髪金眼の女性が現れる。
「すまない。待たせてしまったな」
ジャンヌだ。
「「「!」」」
3人はピシッと姿勢を正す。
「はは、そう気を張らずに楽にしてくれ」
ジャンヌはそんな3人を手でいさめた。
「ふむ、マリアンヌとデュノワールは相変わらずか」
続いて白髪の大男がジャンヌの後から部屋へと入ってくる。
いつもジャンヌと一緒にいる大男だ。どうしよう、一気に緊張が高まるのを感じる。
「では、呼び戻すとするか」
すると、ジャンヌは応接室の窓を開く。
「おーい!戻ってこい!」
そしてジャンヌが大きく叫んだ。
「.......え?それだけですか?」
ソウルは思わず尋ねてしまう。
「まぁ、見ているといい」
そう言ってジャンヌはソファに腰掛けた。
.......ドドドドドドドドドドド!!!!
何やら遠くの方から何かが迫ってくるような音が聞こえてくる。
「お待たせしました!ジャンヌ様!」
そしてバァンと扉が開かれたかと思うと赤髪のショートカットの女性が息を切らせながら飛び出してきた。
元気そうな印象を与える少し釣り上がった朱色の瞳がこちらを見つめる。そして彼女の右手にはボロボロになった金髪の男性が鷲掴みにされて引きずられていた。
「「「.......」」」
どこから突っ込めばいいかわからない状況に3人は言葉を失う。
「お、あんた達が今回うちに来ることになった見習いかい?あたしはマリアンヌ。見ての通り火の魔法の使い手さ!」
そして左手でガッツポーズをする。
さっき顔を合わせているはずなのだが、どうやら記憶に残っていないらしい。
「そしてそこでボロ雑巾になっているのがデュノワール。雷の魔法の使い手だ」
ジャンヌ様は淡々と告げる。え、紹介それでいいのか?
「えーと.......ベルト・レイです」
「シン・ソウルです」
「.......シーナです」
思考がショートしてまるで人形のように3人は自己紹介をする。
「へぇー!【ジャガーノート】じゃないか!珍しいねぇ!」
そしてマリアンヌは物珍しそうにシーナを覗き込む。
「っ!あの!」
ソウルはその間に割って入ろうとする。
「.......大丈夫、ソウル」
しかしシーナはそんなソウルを押しとどめた。
「.......ソウルがちゃんと見てくれる。だからもう私は【ジャガーノート】として扱われても気にしないから」
そう言ってシーナは笑顔を見せる。
「シーナ...」
そんなシーナにソウルは言葉を失ってしまう。
「今のはお前が無礼だ、マリアンヌ」
ジャンヌはマリアンヌを睨む。
「す、すいません。つい.......」
マリアンヌは素直に引き下がった。
「お互い、信頼し合っているんだな」
ソウル達に顔を戻すとジャンヌは笑顔を見せる。
「い、いやそれは.......その」
ソウルは急に照れくさくなって目を逸らすとシーナも少し気まずそうに目を逸らしていた。
「ぼくも仲間に入れておくれよー」
レイがにやにやしながら告げる。こいつ.......。
「.......ふふ」
ジャンヌは思い出す。入団試験に現れた【ジャガーノート】の少女。
それはまるで剥き出しの刃のように近づく者を全て傷つけんとしているようだった。彼女を騎士として迎えることはかなりのリスクを伴うと感じた。
しかし、今目の前の少女はまるで別人のように柔らかい表情を見せるようになっている。
どのような紆余曲折があったか分からないが、この青年が彼女に出会ってくれてよかった、とジャンヌは思う。
「さて、全員揃ったところでそろそろ具体的な任務の話に入っていこうか」
そう言うとジャンヌはジェイガンから地図を受け取りテーブルに広げる。
他のメンバーもテーブルを取り囲み地図を覗き込んだ。
ーーーーーーー
「さて、今回の我々の任務地はここだ」
ジャンヌは西方の【サルヴァン】と書かれた街を指さす。
「西方.......【ビーストレイジ】か?」
「何だ。死んだと思ってたのに」
「勝手に殺すな。俺はゴキブリ並にしぶといぞ」
気がつくとさっきまでボロ雑巾になっていたデュノワールが当たり前のように地図を覗き込んでいた。
もう、突っ込む気力もないので深く触れないことにする。
「あぁ。【ビーストレイジ】と名乗る獣人族の武装集団の反乱を鎮圧することが我らの任務だ」
西方の獣人.......確かマルコが言っていた【半獣の王】のことだろうか?
「具体的にどうするんです?」
ハミエルが尋ねる。
「停戦協定を申し出てみてはいかがでしょうか。平和に解決できるかもしれません」
ケイラが顔を輝かせた。
「いや、戦火は拡大して双方多数の犠牲が出ている。お互いに憎しみと憎しみが積み重なってもう平穏にことを進めるのは難しいだろうな」
そんなケイラにジェイガンは顎を弄りながら答える。
「うぅ.......。穏便に行きそうには無いですねぇ.......」
「なんでここまで反乱が大きくなるまでほっといたんでしょうね。もう少し早ければまだ何か手のつけようがあったんでしょうけど」
マリアンヌが呟く。
「そこがこの反乱の奇妙な点だ」
ジャンヌは続ける。
「何故ここまで戦火が拡大するまで本国への通達がなかったのか。今回はそこが気がかりでな。だから我々が直接赴く必要があると判断したわけだ」
「最近、不穏な集団の動きもありますからね。危険の芽は早めに潰しておいた方がいいでしょう」
「現地に到着次第、ハミエルは情報の収集に当たってくれ。ジェイガンと私は主に指揮系統を担当する。マリアンヌとデュノワールは戦線を維持してくれ。細かい指示はそこで回す。43班とケイラはそのサポートだ」
ジャンヌは淡々と役割を配分していく。
「「「「了解」」」」
あっという間に何をするべきか、そのために誰が何をするかまで決定してしまった。さすが聖女様だ。
「さて、それまでの間だが」
ジャンヌはこちらを見てニヤリとする。
「君たちの今の実力が知りたい。今から模擬戦をしようじゃないか」
ジャンヌの提案に3人は卒倒しそうになった。