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決着

 シーナは言葉を発することができなかった。


 アイリスの言ったことは全て事実だ。事実だからこそ、何も言えなかった。


 シーナ自身の捨てたい過去、向き合いきれなかった運命が目の前でどんどん露わにされていく。


 その全てをさらけ出されたというのに、ソウルはそれでも「信じる」「側にいたい」と言ってくれた。


 涙が止まらなかった。



 ソウルはシーナを、【ジャガーノート】としてではなく1人の人間として受け入れてくれたのだ。



 だから、私も応えたい。ソウルを助けたい。



 何かで心が強く満たされて体中にマナが湧いてくる。


 刀を握る手が熱い。踏み込む足にこれまで感じたことのないほどの力を感じ、踏み込まれた床が砕けた。



 ねぇお母さん。私、決めたよ。



 周りの風景が、全て置き去りだった。音ですら遅れてやってきた。


 だから、私はソウルを必ず守ってみせる。


 新たな力がシーナに目覚める。目覚めたデバイスは【神撃】のマナ。シーナは朧村正へ【神撃】のマナを込めた。


「……【神撃】のマナ!!【八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)】!!!」


 刹那。シーナはソウルとアイリスの間を駆け抜ける。その軌跡は銀色の光となり、振り抜いた刀の軌道は朱色の閃光として残った。


 ザンッ


「.......は?」


 振り抜いたはずのアイリスの右手がボトリと地に落ちる。同時に焼けるような激痛がアイリスを襲った。



「がっ、ぎゃぁぁぁぁあ!!痛いっ、痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」



 腕を切り落とされたアイリスが地を転がる。


 う、腕を切られた!?あの位置から!?しかも私が反応できない速さで!?


「くそっ、くそおおおおおおおお!!スルトオオオオオオオオオ!!!!!」


 アイリスは血が吹き出す腕を抑えながら叫ぶ。


「ゴオオオオオオオオオオ!!!」


 スルトはその怒りに応えるようにシーナに向けて剣を投げつけた。


「うっ...」


 魔法による超加速を終えたシーナはその場にうずくまる。


 体が軋むように痛い。


 シーナはこれまで経験したことの無い程の放出のマナに体がついて来れず、動けなかった。


 だ、だめだ。回避できない。


 ファンッ


 その時、シーナの眼前に青い光の球が現れた。見るともう2つスルトの脇に同様の光の球が見える。


「させ……るかよ……!」


 倒れたままのソウルがポセイディアにマナを送り込み。魔法を発動させた。




「もうシーナに指1本触れさせやしねぇ!必ず守ってみせる!!【トライデント・レイ】!!」




 光の球から青い閃光が放たれ、スルトの剣を撃ち抜く。


 バシュン!!


 同時にスルトの脇の光の玉からも同様の閃光が放たれ、スルトの体を撃ち抜いた。


 ポセイディアの固有デバイス・マナ【トライデント】と【レーザー】の合わせ技【トライデント・レイ】。


 トライデントが3つの球体へと変化しそれぞれからレーザーが放たれる、ポセイディアの必殺技だった。


 アイリスがソウルをいたぶっている間にもソウルはマナを溜め続けた。


 そして、シーナが決定的な隙を作ってくれたのだ。


 全く、助けに来たはずなのに逆に助けられてしまった。


「グ、ゴアアアアァァァ.......」


 攻撃を受けて限界を迎えたスルトの体がボロボロと崩れ落ち、塵へと還っていく。


「あ.......あぁ.......そんな.......私の.......私の計画が.......!」


 アイリスは地を這いながら塵に還っていくスルトを掴もうとする。


「なんで.......?どうしてこうなるの!?なんでなんだよおおおおおおおお!!」


 アイリスが絶叫した。ここまで、姉を殺すために様々な準備をしてきた。この遺跡に姉を連れてくるために様々な工作もしたというのに、なぜ.......なぜ!?



「貴様が欲を出しすぎたからだ」



「「!?」」


 突然聞きなれない声が辺りに響く。


 ソウルとシーナは声の方に目をやると、そこには漆黒の鎧に身を包んだ男が立っていた。顔は兜を被っていてよく分からない。


 男は漆黒のマントを翻しながらつかつかとアイリスの側へと歩いてくる。


「くっ」


 ソウルはポセイディアに臨戦態勢をとらせる。


 シーナも震える手で朧村正を握った。



「安心したまえ。今は君たちと争う気は無いよ」



 すると男は意外なことに手をあげて降参のポーズをとる。


「そこの女を回収に来たんだ。それを受け入れてくれるのであれば君たちとこの遺跡にいるもの達に手は出さない」


「.......っ!?」


 その瞬間、男は空気が凍るような殺気を放つ。今のソウルでは勝てる相手ではないと本能が告げている。


「まぁ、今の君たちでは動けまいがね」


 そう言うと男はアイリスとその右手を拾い上げた。


「ま、待て」


「そうだな。お前たちとはまたいずれ相見えるだろう」


 そう言って男はこちらを向く。


「自己紹介だけしておこうか。私の名は【黒騎士】。世界を導く者だ」


「おい。それは一体どういう意味だ!?」


 そして黒騎士が、腕を振ると黒い渦のような物が現れる。


「また会おう、召喚士よ」


 そう言って黒騎士は渦の中に消えていった。


「待てよ、おい!」


 その時だった。ソウルの視界がグラりと揺れる。足がもつれて立ってられず、その場に倒れ込んだ。もう体力の限界だった。



「ソウル!?嫌だ!目を開けて!ソウルっ!ソウルーー!!!!」


 遠くでシーナが自分を呼ぶ声がする。それを聞きながらソウルの意識は闇の中へと落ちていった。

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