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錬金屋

「お、お待たせしました」


 約束の時間の5分前。待たせるのも悪いと思って先に広場で待っていたソウルにオリビアが声をかける。


「お 、おぉ」


 思わず目を逸らしてしまう。


 これまでのオリビアは地味目な服を着ていた。しかし、目の前のオリビアは薄手の白いワンピース。それにトレードマークの頭の三角巾もそれに合わせて綺麗に整えられていた。


 胸元も少し開けて目のやり場に困る。白い肌が太陽の輝きを受けてより輝いているようだ。


 周りの男も「おぉ」とオリビアを振り返っている。


「えーと.......どうですか?」


 モジモジした様子のオリビアが尋ねる。


「え、えーと.......その.......似合って.......る」


 ソウルは照れくささに負けそうになりながらもかろうじて応える。言ってからかえって失礼だったか、と少し後悔した。


「っ。やった!」


 しかしオリビアはとても嬉しそうに小さくガッツポーズをする。うん、可愛らしい。


「じゃ、じゃあ、行こうか」


「はいっ」


 こうしてソウルは満面の笑みを浮かべるオリビアと街へ繰り出した。


ーーーーーーー


「この辺りは食材関係であっちが魚介類、こっちが野菜関係ですね。それとこの辺に行くと衣料品が揃ってますよ」


 オリビアがテキパキと説明してくれる。この手際の良さ、オリビアもよくこの辺りで買い物をしているのかもしれない。


「じゃあ、この辺のものはここで手に入りそうだな」


 マルコに手渡されたメモを指差しながらソウルは頷く。


「はい。ただ、食材は後にしましょう。今買っても回ってる間に傷んでしまうので」


 春の暖かな日差しの中で生ものを持ち歩くのは良くないだろう。ちなみに店の商品は水のマナが込められた魔石で冷やされて痛まないようになっているらしい。


 こう言った魔石やソウルの持っていたマナを付与された装備は【錬金術】と呼ばれる魔法で錬成される。


 デバイス・マナの要素が強く、数々のデバイス・マナを組み込んで発現する【錬金術】は本当にそれに長けた才能がある者にしか扱えないと言われているのだ。


 本来デバイス・マナは常人には一度に使えても2つ3つが限度らしい。その限界を超えて10、20と組み合わせる素質とその修行を超えた者にしか扱えない至高の術式。


 まぁ、魔法がほとんど使えないソウルにとってはそれがどれほど凄いことか検討もつかないわけだが.......。


「先に、ソウルさんの装備を見に行きませんか?」


「そうだな」


 そう言ってオリビアは近くの錬金屋にソウルを招き入れる。


 その錬金屋は全体が濃い紫のテントのやつになっており、一際目を引く派手な作りになっていた。


 暖簾(のれん)をくぐって店の中に入ると全体は薄暗く、何やら薬品の匂いが立ち込めている。そして所狭しとさまざまな錬金術のアイテムが並べられていた。


「いらっしゃい」


 そして声をかけてきたのは今にも倒れそうなほどフラフラしている老婆だった。この店大丈夫か?と不安になる。


「安心してください、この店の店主はとても腕がいいんですよ?」


 するとオリビアはソウルの気持ちを察してかボソリとそう告げた。


「兄さんや、何を探してるんだ?」


「や、闇の力を付与したマントと、その他適当にもろもろ」


 ソウルは冷や汗をかきながら答える。


「ふむ。それではこちらでいかがだい?」


 老婆は震える手で側にあった黒いマントを広げた。


「おぉ!?」


 ソウルは驚愕する。


 前のマントはシナツにかなり吟味して選んでもらったおかげで値段の割に強い力を有していたが、このマントはそれよりも更に強い力を持っているように感じた。


「すげぇな、婆さん!?いくらだ!?」


 ソウルは財布を引っ張り出す。


「ふむ」


 すると、老婆はソウルと腰の剣を見比べ始めた。


「.......えーと、何か?」


 ソウルはじっくりと観察されているようで居心地が悪くなる。


「.......いや、何でもないさね。マントは25万ベルだ」


「うげ.......」


 ソウルは頭を抱える。とても手が出せる金額ではない。


「だが、今回はこいつをくれてやってもいい」


「え、なんで!?」


 ソウルは怪しさ満点の提案に警戒する。


「条件を2つ飲むなら、ね」


 すると老婆は震える指を2本立てた。


「じょ、条件?」


 ソウルはゴクリと固唾を飲む。


「1つは、これから何か錬金術の品が必要になった時は、うちによること。可能な限り品を揃えてやる」


 そう言って指を1つ折った。


「.......え、そんなこと?」


 この老婆怪しい、怪しすぎる。


「2つは、わしが言った品を買っていくこと。ぼったくったりしないし、お前さんの予算内で収まるように工面してやる」


「お、おぅ?」


 ますます分からなくなる。何故、ここまでしてくれるんだ?何の意図があるのだろう。


「意図なんかないさね」


「心を読むな、婆さん」


 ソウルはすかさずツッコミを入れる。


「なに、ちょっと昔にした約束があるだけさ。あまり気にする事はないよ」


「???」


 もうソウルは目の前の婆さんが何を考えているかさっぱり分からなかった。


「さてどうする、兄さんや」


 そんなソウルを置いてけぼりにして婆さんはソウルの目を見る。


「.......」


 ソウルに人を見る目があるとは思えないが、この婆さんはなにか企んでいるようには見えなかった。.......信じて、みようか?


「.......分かった。条件を飲むよ」


 悩んだ末にソウルは頷く。


「よし、じゃあこいつはあんたにくれてやる」


 そう言って老婆はソウルにマントを手渡した。


「あと、こいつも一緒に渡しておくよ」


 そう言って老婆は2つの粉末と鉄の管のようなものを渡してくる。


「ん?なんだこれ?」


 ソウルはそれらをプルプルと振りながら尋ねた。


「火の魔石と風の魔石を砕いたものさね。後はただの鉄の筒だよ」


「な、何に使うんだよ、これ?」


「その2つは混ぜると爆発する」


「ば、爆発ぅ!?」


 ソウルはうっかり手を滑らせそうになる。そんな危ねぇもんなら先に言えや!?


「後は、あんた次第さね」


 そして最後に老婆は意味深な言葉を残した。


ーーーーーーー


 2人が店を出た後、老婆は1人思案する。


「あの剣を持った召喚士がここを訪ねてくるとはね」


 お茶を啜りながらかつての友人のことを思い出す。


「あの子が運命の子なのかねぇ。ゼロ」


 そう言って1人ため息をつくのだった。


ーーーーーーー


「すっかり遅くなっちまったな」


「そうですね」


 日が傾きかけてきた頃にようやくマルコの酒場が見えてくる。


「悪いな、いろいろ付き合わせちゃって」


 ソウルは新調したマントや薬品、その他の装備の袋を見せた。


「いえ、私も新鮮で楽しかったです」


 オリビアは屈託のない笑顔を見せてくれる。


「ありがとうな。オリビアがいなかったら、きっとこれだけ揃えられなかったよ」


「それは良かったです」


 そしてマルコの酒場の前。


「よかったら、このままご飯奢るけど?」


 少し気恥しさを感じながらオリビアに提案してみる。1日付き合ってもらったんだ。これぐらいしないとバチが当たるだろう。


「あ.......ごめんなさい。今日明日は外せない予定があるんです」


 しかしオリビアはしょんぼりしながら告げる。


「け、決してソウルさんの誘いが嫌な訳ではなくて、その.......ごめんなさい」


「いいよ、また任務から戻ったら飯でも行こう」


 ソウルは少し残念に感じながらも笑顔でオリビアを送り出す。


「えっと.......ソウルさん、これ」


 すると、オリビアが何か小さな包みを手渡してきた。


「ん?」


 中を開けてみるとそこには小さなペンダントが入っていた。


「さっきの錬金術屋さんで買ったんです。魔法耐性のあるお守りです。......その、ソウルさんが無事に帰って来れるように」


「大丈夫だよ、何の危険もない遺跡の調査だから」


「そ、それでも、残される側は不安なんです!」


 オリビアが強い口調で告げる。


「私の知ってる騎士で.......帰ってこなかった人を沢山知ってます。ソウルさんには.......そうなって欲しくない」


 オリビアは泣きそうな顔をしていた。


 彼女は仕事でよく城を出入りしていると言っていた。きっと親しい騎士も沢山いるのだろう。


 そして、失う気持ちの辛さはソウルも身をもって知っている。


「.......分かった。絶対に帰ってくるよ」


 ソウルはオリビアが安心できるように笑顔で答える。


「はい、待ってますからね!」


 オリビアは安心したように答えた。


 そして笑顔で手を振って走っていくオリビアを眺める。


「.......忘れてたなぁ」


 自分を心配してくれる存在がいる事の幸せと、その存在の大切さを噛み締めながらソウルはマルコの店へと戻るのだった。

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