第9章「宇宙で一番うるわしい美女たち」第2話
アーシェラは二人の部屋に軽食を携えてやってきた。
「さて、と」
満と愛が二人掛けのソファに座り、その向かい側のソファにアーシェラが座ると、そのアーシェラがまず口を開いた。
「まず自己紹介しましょうか。私はアーシェラ・サイレーン」
「知ってます。カフェ・サイレーンのオーナーですよね?」
満が目をキラキラさせて言った。
「あら、知ってたのね。そうよ、その通り」
「あの、失礼を承知で聞きますが、どうしてこのホテルに?」
今度は愛がおずおずと聞く。
「知ってるかもしれないけれど、私の出身地がこの地方なのね。で、よくこちらのホテルに御厄介になってるの」
「御親戚かなんかですか?」
愛がさらに聞くと、アーシェラは首を振る。
「私はね、もともとは孤児なの。それをこの地方の葡萄農園に引き取られたのね。そこの御夫婦にはなかなかお子さんが出来なくて。それで私を跡継ぎにと引き取ってくれたのだけど、その後に息子さんが生まれて、私は後継ぎにはならなかったの。それでも義両親は息子さんと分け隔てなく育ててくださったのだけど……」
彼女はそこでいったん言葉を切ると、遠くを見つめるような視線を中空に向ける。
「……若かったのね。こんな田舎から出たいと思うようになって、それで、ちょうどこの地方で開かれた喉自慢大会に出たの。歌には自信があったから」
「喉自慢大会…ですか」
満がびっくりした顔をする。
「まるで日本の田舎で開かれるような大会ですね」
「ええまあ、そうね。喉自慢大会と言ったのはあなたたちにわかりやすく、だったのだけど。いわゆる芸能事務所のオーディションみたいなものだったのよ、その大会は。定期的にここだけに限らず、世界中の地方で開かれてたみたい。ただ、公にはやってなくて、口コミってやつで開かれていたみたいよ。私はたまたまとある人に誘われて、それで参加したのだけど、すぐに合格して、しばらくこの土地を離れて歌っていたの」
「え…アーシェラさん、歌手だったのですか?」
満がそう言うと愛が不思議そうに首を傾げた。
「それにしても、アーシェラさんって名前の歌手って聞いたことなかったですけど」
「………」
対してアーシェラは深い微笑を浮かべた。
「私、歌姫と言われたこともあったわ」
「え……」
「私ね、地球じゃないところで歌ってたの」
ギャラクティック・ドリーム・カンパニーは銀河連邦に属するボイス星で一番有名な芸能関連の会社である。そこでは定期的に銀河系中のヒューマノイド型の才能のある生命体をスカウトしてきては、カンパニーで育てあげ、一流の芸能人へと仕立て上げるのだ。そして、アーシェラはそのカンパニーが地球でスカウトしたかつての売れっ子歌手だったのだ。
「素敵!」
満が手を叩いて叫んだ。
「あたしもそのオーディション受けてみたい!」
「出たわ、満のいつものやつ」
愛がやれやれといったふうに呟いた。
「ミツルちゃんだっけ、歌うの好きなの?」
アーシェラはニコニコしつつ聞く。
「そうなの、大好きなの。ずっと歌ってたいくらい」
「そうなんですよ、アーシェラさん。この子、歌手になりたかったみたいなんです。まあ、歌手というか、音大に行きたかったみたいなんですけど、歌以外は赤点で、大学は無理だったんですよね。それでピアノとかできる幼児教育のある短大に入ったんですけど、別に幼稚園教諭になりたかったわけじゃなくて、それで無難な会社に入ったんですけど、やっぱり諦めきれなかったみたいで」
「よくデモテープなんか芸能事務所に送ったりして、そこからデビューっていうのもあるだろうけど、あたしにはそういうの無理だったのよねえ。でも、最近では仕事帰りのカラオケが唯一の楽しみで、毎日そうやって歌ってたら、やっぱこういうのやっていきたいなあって思って」
満は両手を組んで目を閉じ、まるで神に祈りを捧げるような恰好をしてみせる。
「あら、そうなの。じゃあ、今度そのオーディション受けてみる?」
「ええっ、受けれるんですかっ?」
満が驚いて叫んだ。
「ええ」
アーシェラが頷きながら説明した。
「私は歌手を辞めてこちらに戻ってきたのだけど、時々、この地方で行われるカンパニーのオーディションの人選を任される時があるの。だから、今度こちらで開かれるオーディションを受けられるようしてあげるわね」
そして、その後。
「アーシェラから話は聞いている。僕はギャラクティック・ドリーム・カンパニーのシェルだ」
その男は柔らかい物腰の青年だった。
年の頃は10代後半か、どこからどう見ても地球の西洋人といった風体だ。茶髪で茶色の瞳のごく普通のちょっと見栄えのいい感じの青年。
「あのお…」
すると、愛がそろそろと手を挙げる。
「なんだい?」
シェルという宇宙人は普通に日本語で喋っている。
「宇宙人さんなんですよね?」
「え?」
愛の言葉に目を丸くするシェル。
「日本語がお上手ですね。まあ、アーシェラさんもペラペラでしたけど」
「ああ、僕はアーシェラと同じでもともとは地球人なんだよ」
「えっ、そうなんですかっ?」
愛だけでなく、満もびっくりして大声を上げた。
「僕も地球のフランス出身でね、赤ちゃんの時に捨てられていたところをカンパニーのエージェントに拾われたんだよ。僕はそのままカンパニーで育てられ、そしてカンパニーで働くようになっていったんだ」
「へー、そんなシェルは何歳なの?」
今度は満が聞く。
するとシェルはまるでえっへんとでも言いそうに胸を張って言い切った。
「25歳さ!」
「ええっ? 年上だったのっ?」
驚愕の声を上げたのは愛だった。
「私、てっきり18歳くらいなのかと思ってたっ!」
「し、失礼なっ。これでも立派な大人なんだよっ!」
いやいやいや、そこでそういう過剰反応見せるところが大人に見えないって、この人わかってんのかな、と満は心で突っ込み入れていたのだが。
「はいはい、そこまでにして」
言い合いをしている彼らを冷静に止めたのがアーシェラだった。
彼らは今、シェルが乗ってきた宇宙船の中にいた。
あれからアーシェラはオーディションにやってきているシェルに連絡を取り、満と愛を彼に紹介したのだった。
それで、一度二人に会いたいとシェルが言うので、アーシェラ含めて彼女らはシェルの乗ってきた宇宙船にやってきていたのだった。
「アイ、ミツル、彼シェルはね、地球のフランスでオーディションがある時のスカウトを任されてるのよ」
「以前は僕の上司がここの担当だったんだけどね…」
彼がそう言うと、アーシェラが複雑な表情を見せた。
だが、それに気づかず、満が言う。
「へえ、その上司さんも地球の出身なの?」
「いや、違うよ。もともとはサイレーンという星の出身なんだけどね」
「ふーん」
満は気のない返事をしつつも、心で「あれ?」と思った。
サイレーン?
どこかで聞いたよなあ、と。
すると、彼女の思考を遮るかのように、アーシェラが言葉を発した。
「それよりも、シェル、二人の技能調査よろしくね」
「あ、ああ、わかったよ」
そうして、愛と満はオーディションに臨むこととなったのだった。




