第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第1話
そのスペースシップはハヤブサトニー号といった。乗っているのはキャプテンであるハーケンという名の30代前半の男と20人の男たち。ジルベスター星のある太陽系のごく近場の別の太陽系のデイモス星の宇宙艇に拘束されそうになっていた。
それを助けたのが希望号だった。
ハヤブサトニー号は希望号の船内に収納され、ハーケン以外の男達はそれぞれに部屋をあてがわれて、ハーケン一人がコンピュータールームに招かれ、希望号のキャプテンと相見えることとなったのだった。
「本当にありがとうございます。あの惑星の総統はどうにもこうにも頭が固いらしくて、こちらがどんなに宙域を通り抜けるだけだと訴えても聞く耳持たずでね。拘束されて困ってたんですよ」
金髪で鋭い瞳を持つ美丈夫な男がため息をつきながらそう言った。
「それは大変でしたね。心中お察しいたします」
ハーケンにそう言いつつ、握手を求めてきた男性がにっこり微笑んだ。
そして、その傍にもう一人、黒髪の美しい男が一人いた。
「私はキラドと言います。この宇宙船希望号の船長です。そして、この男が副長のギル・バート」
キラドがそう言うと、ギルは「どうも」と軽く会釈する。
そう、キラドはノンである。そして、言わずと知れたギル・バートはトミーだ。
二人は、ハヤブサトニー号を救助するにあたり、女二人より男性として接したほうが都合がいいと考えたのだ。
ジルベスター星から一番近い惑星であるデイモス星はダートンからよく聞かされていた、かなり凶暴な戦闘民族であり、どうも昔からジルベスターを敵視していたようなのである。そういう話を以前聞いていたので、ノンも、もしデイモス星の総統に接触してしまった時のことを考え、足元を見られない為にも男としてしばらく過ごしたほうがいいかと考えたのである。
「失礼ながら、ハーケン船長。あなた方はどちらの出身となりますか。ジルベスターやデイモスのご出身というわけではないようですが、ここら辺では他に人が住む惑星はなかったように思うのですが」
「ああ、不思議に思われるでしょうね。私はもともとオンディラーダ……いや、アンドロメダだったか…そのアンドロメダ星雲にある恒星Me-5の唯一の惑星ダルティの出身です。そして、乗組員の皆はミラキウィ、じゃなかった、ミルキーウェイ星雲にある地球という惑星の出身者たちです。我々はワームホールを使い、こちらの宙域にやってきたのです」
彼の言葉に驚愕するキラド。
「なんと、地球からいらしたのですか。実は私たちも以前、地球にいたことがあるのですよ。ただ、私たちは今から何万年も前に地球を出発してコールドスリープでこちらにやってきたので、当然、今の地球はあの頃よりは様変わりしているのでしょうね」
「そうでしたか!」
ハーケンが興奮して言った。
「コールドスリープですか。確かに、大昔、まだワームホールの存在が見つかっていなかった時代はそういう移動方法があるというのは知ってはいましたが、経験者に会うことができるとは!」
(ワームホールか…そういうものが出来始めたということは…)
キラドは難しい表情で考え込む。
すると、キラドに代わってギルが口を出した。
「それにしても、あなた方はどうしてこちらの宙域にいらしたのですか。何か目的があって地球から来られたのだと思ったのですが」
「ああ……そうですよね、不思議に思われるのも当然でしょう」
ハーケンが苦悶の表情でそう言った。
ソファに座る彼は膝に両手をのせていたのだが、それをギュッと握ると、思いつめたような声を出した。
「恐らく、今の地球はあなた方の知る地球とはまったく違う様相をしていると思います。かなり長い話になると思いますが、私たちが地球を出てきた話を聞いていただけますか。というか、私が誰かに聞いてもらいたいのだろうと思います」
(助けて……私を……ここから……出して……助けて……)
誰かの声でハーケンは目を覚ました。
頭がクラクラする。
彼は起き上がると、そばにあるテーブルに置いてあるグラスに手をのばし、ブラッド星特産のシシーリを注いだ。
一口すする。
ピリッとした味が口いっぱいに広がる。
「ここのとこ変な夢ばかり見る。会ったこともない少女が、助けて、と言うばかり…何か意味でもあるのか。それに、必ずといっていいほど、彼女のバックには青い美しい惑星がある。何となく懐かしいような……少女と惑星……か」
彼は窓に近づき、カーテンを一気に開けた。
眩しいばかりのブラッド星の朝日が彼の部屋に射し込んだ。
ここはエアポートのホテル。
そして、彼の部屋から、彼の愛機トニー号が見える。
ブラッド星は恒星チャリオッツの第4惑星である。
今から約5000年前、ブラッド星のある星雲オンディラーダの隣の星雲ミラキウィに、それは広大な帝国が栄えていたという。その帝国の中心はテイア星といい、恒星チャリオッツと同じくらいの等級の恒星を持ち、その第3番目の星だったといわれている。そして、その帝国はこのオンディラーダの植民を始めた。
しかし、ある日、突然ミラキウィの帝国は一瞬のうちに滅亡してしまった。
オンディラーダに散らばったテイア星人たちは、自分たちで植民していかなければならなくなった。
その過酷な試練と突然の環境の変化で、彼らの遺伝子が変わってしまった。
彼らは生殖機能が著しく低下してしまったのだ。
そのため、彼らは生命を必要以上に大切にするようになった。
かろうじて一子をもうけることのできる人間は50組の夫婦のうち一組という具合だったのだ。
オンディラーダのテイア星子孫は今や絶滅寸前なのであった。




