第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第2話
「そうだ。今日はあの美人で有名なラテス女王に会える日なんだ」
ハーケンはシシーリをぐいっと飲み干すと、着替え始めた。
彼は一等上等な服を着込むとホテルを出てタクシーをとめた。
「宮殿へやってくれ」
彼はタクシーの中で服のシワを直し始める。
彼、宇宙商人ハーケンは金髪で鋭い目を持つ29歳の青年である。
なかなかの美形。生まれは恒星Me-5のダルティ。
彼は上気した顔で運転者に話しかける。
「おい、運転手。今、俺は何しに宮殿へ行くと思う?」
「はい、今日は宮殿ではパーティが開かれます。それにいらっしゃるのでしょう」
答えたのはロボット運転手だ。
人口減少のため、働く者はロボットだけになったのである。
ロボットであっても、彼らは人間のような意思を持ち、まるで人間と違わない受け答えをする。
中には人間と普通に恋愛をするロボットもいるのだ。
だから、ハーケンも普通にロボット運転手と雑談をして、興奮冷めやらない自分の気持ちを安定させようとしていた。
そうこうしているうちにタクシーは宮殿の近くまでやってきた。
彼の目には、しだいしだいに大きくラテスの宮殿が映し出されていく。
ブラッド星の女王ラテスは、この星唯一の王族だ。
彼女の両親であるかつての王と王妃は生殖機能を持つ稀有な存在ではあったのだが、ラテスを生み出した後に相次いで病で亡くなってしまった。
そして、生まれたばかりの彼女は検査の結果、両性具有で、つまり、一人で生命を生み出す能力がある、前代未聞な人間だったのだ。
当然、彼女は女王であると同時にその存在は神のごとく奉られることとなった。
彼女が大人になるその時まで、とても大切に育てられてきた。
「確か、女王は俺と同じくらいの年だったな」
とすれば、すでに子供が産めるはずだ。
だが、今までに女王が子供を産んだという話は聞いたことがない。
下世話な噂では、生殖機能のある数少ない男達と子作りに励んでいるとか、そういう話も聞いたことがあるが、それが真実なのかどうかは一般人にはわからない。
だが、それが本当だとしても、女王に子供ができたとなれば祝い事ではあると思うので、そういった話が出ないということは、本当の話ではないのだろう。もっとも、子供ができなくてもやることはやってるかもしれないが。まあそれも、本人とその相手にしかわからないことではあるのだが。
「俺も生殖機能があれば間違いなく女王と寝れるんだがなあ」
と、不謹慎なことを呟くハーケンだった。
さて、宮殿についたハーケンはタクシーを降りると、服についた埃を払うようにパンパンと叩いた。
そして、宮殿を見上げる。
ラテスの宮殿は、さほど大きなものではない。
せいぜい多少大きな邸宅といった類だ。
すると、ロボット召使いがやってきて、彼は大広間に案内された。
そこにはすでに大勢の人々が集っていた。
ハーケンは眩しそうにあたりを見回す。
その彼の目が、一際人の集まりの多い場所を捉えた。
そこには、中心に女王ラテスがいた。
彼女はハーケンに気づいて、彼の傍まで優雅に歩きながらやってきた。
「キャプテン・ハーケン、ようこそいらっしゃいました」
彼女のその言葉に、その場の人々が一斉に彼に視線を向けた。
「おお、キャプテン・ハーケンだ」
「あのハヤブサトニー号の……」
「命知らずの英雄ハーケンだ」
「素敵な人ねぇ」
「お近づきになりたいわ」
人々の口から称賛の声が上がる。
ハーケンはラテスの手を取ると優雅に唇を寄せ、言った。
「お招き有難うございます、陛下」
女王はとびきり美しい微笑を彼に向けた。
「あなたのお噂はよく聞きますよ。ハーケン殿」
「いや、それほどでもありません」
彼は少し照れながら答えた。
女王はもう一度微笑むと、少し硬い声で言葉を続けた。
「あなたは請け負った仕事に失敗したことがないと聞きました」
「………」
彼は空気を読んだかのように、一瞬その瞳をキラつかせ「命に代えても、というのが私の仕事に対するモットーですから」と言い切る。
すると、女王は真顔になった。
「こちらへ。あなたに話があります」
ラテス女王はハーケンを奥の別室に誘う。
彼は、訝しげに思いながらも女王についていった。
「………」
ハーケンはエレベータにラテスと一緒に乗った。
(もしかして招待されたのは仕事の依頼をしたかったからなのか)
自分個人に興味を持ってくれたわけではなかったのか、まあそうだよな、生殖機能のある稀有な存在なのだから、男なんて選り取り見取りだろうな、と彼は自嘲気味に思いながら女王の美しい横顔を見つめた。
そうこうしているうちにエレベータが止まり、彼らはエレベータを出て豪華なカーペットを敷き詰めた廊下を歩きだした。
しばらく歩いていると、突き当りにドアが見えてきた。
女王はキーを取り出すとそれでドアを開けた。
そこはそんなに広くない部屋だった。
しかし、窓がなかった。
家具らしい家具も置かれてなかった。
そして、少女がいた。
その少女を見た瞬間、ハーケンはひどく驚いたのだった。




