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87、怪力の神獣大会 ~攻撃が当たっていないぞ~

 煽りの意味も込めて、俺は言い返した。


 そうだ、貴様はただのガキを相手に苦戦するのだ。


「ただのガキがこの大会に出ようと思うか?」


 尚も微笑を浮かべている『絶対怪力』は疑問符をつけつつ、次の攻撃に備えている。因みに、俺の持っている武器はただの剣。相手の持っている武器は大きな剣である。勿論、両方とも大会からの借り物であるから、武器の質としての違いはない。各々の戦い方にあった武器を選んだまでだ。


 しかし『絶対怪力』の初撃は拳だった。剣を背負ったまま突進してきたのだ。


 一撃だけでは未だこいつがどのような戦闘スタイルなのかを把握することはできない。もう少し様子見が必要か。


 いやその前に、彗星眼で敵の能力を――


 やめておこう。


 この大会のルールで許されている魔法は自身に関するもののみ。偽勇者の眼が果たして魔法にあたるのか、そして彗星眼が自分以外に影響を与えているのか、そういうことはよく分からないが、これを使ってしまうのは何だか覗き見をしている感じがして嫌だ。


 未来眼は明らかに自身の戦闘補助のためのものである。でも、相手の戦闘能力を盗み見るのはどうにも違う気がしてならない。


 ならば、やはり様子を見て自分自身で相手の行動パターンを掴もうではないか。


「さあ、どうだろう。そう言えばあんた、前回は三位だったんだってな」


 動き出す前に、こちらからも一つ質問をする。言葉のやりとりで戦況に変化があるかどうかは分からないけれど、ただ無骨に剣を振り回すよりはましだろう。


「俺を知らないのか?」


「有名人なのか?」


 質問に質問で返す。


 あれ、何だろう。今俺凄く嫌な子じゃない?


 とってもむかつく子だよね。


 よくいるじゃないか。小中学校の時に、やけに人を煽るような性格のやつが。


 今の俺は正にそんな感じである。


 うわー、嫌なやつ。


 18782。


 そう言えば、18782+18782=37564になるって言うけどさ、あれって嫌な奴二人しかいなくない? 足している嫌な奴が二人ずつとか三人ずつとか、そういうことはあり得ると思うんだけど、だったらわざわざ嫌な奴を足す必要はないと思う。


 ご丁寧に嫌な奴同士を足しているということは、おそらく嫌な奴は二人しかいないのだろう。ならば、何故皆殺しと言うのだろうか。二人しかいないのだから、「皆」とは言わないはずである。


 と考えると、どうやらこの式においての「皆殺し」というのは嫌な奴じゃない人間も巻き込んでいるということになる。


 怖いね。回りに嫌な奴が二人いただけで皆殺しなんて。まるで明日木さんのようである。


 ああ、彼女は今、どうしているのだろうか――


「……まあ良い。面倒な相手のようだが、新参にやられるほど、この『絶対怪力』の名は安くない!」


 俺が考え事をしていると(戦闘中に何やってるんだか)『絶対怪力』が俺の発言のウザさに痺れを切らしたのか、再び戦闘の構えを取った。


 ついに大剣を手に取ったのだ。いや、ついにとか言ってもまだ戦闘は始まったばかりなのだけれど。考え事をしているとつい時が経ったかのように思えてしまう。


「ふん、自分で二つ名を言ってしまう所、実に痛々しいな。負けた時の面が楽しみだ」


 俺も腰に差してある剣を取って応戦の意志を見せた。


 そして未来眼により相手の行動を先読みする。


 どうやら最初の一撃は言葉通り先手必勝を謡ったものであったようで、今度の攻撃はそれほど早くはない。




(右斜め振り下ろし、後、腰を低くして剣と足の二連撃)




 瞬間的にそう読み取った俺はその場で跳躍し、振り下ろしを回避した後、相手が体をかがめた瞬間を狙って急降下を試みた。


「なっ!?」


 目の前から急に俺の姿が見えなくなったことに気づいた『絶対怪力』はほんの一瞬揺らいだが、その程度で隙を見せる男ではないようである。




(後方跳躍、着地点を狙って右拳)




 俺の急降下に対応した『絶対怪力』は俺から距離を取ると、俺の着地と同時に拳を繰り出してくる。


 そんなことは分かっている。


 だから俺は自分の剣を振りかざすことによってその攻撃を退ける。拳で来るのなら、剣には勝てない。故にその攻撃はキャンセルするしかない。


 そのタイミングを見計らって俺は着地と同時に大きくかがむと奴の足を狙って剣を水平方向に振った。水平斬りは得意である。レイピアでも何でも、俺は取り敢えず水平に振る。ほら、素直だから。


 が、男の反応速度はさすが三位と言った所か、俺の剣が当たる前に左横にずれた。俺は右手で剣を振っているため、剣の軌道は必然的に俺の左側から右側に流れることとなる。その剣が動き始める前に、彼は剣の軌跡が届かない程左に跳躍したのである。


 そしてそのまま回避だけで済むはずがない。




(大剣叩き付け、横薙ぎ払い)




『絶対怪力』の攻撃は必ず単発ではない。素早い動きで組み合わせてくる。大きな剣を振り回し、絶対的な怪力で相手を圧倒する。二つ名は正に適切という訳か。


 しかし、それなら俺だってやったことがあるじゃないか。最初の戦いとか。


 それに、こんな戦い方はあまり美しくない。俺はあまり好めない。


「どうした、『絶対怪力』。攻撃が当たっていないぞ」


「それはお前も同じことっ!」


 予測通りの軌道をもって、『絶対怪力』の剣が振り下ろされる。


 俺は余裕をもってそれを躱すことができる。うむ、実に便利な能力だ。


「ただ闇雲に振り回すだけでは勝負にならないぜ!」


 相手の動きをよく見ながらそう言う。


『絶対怪力』の行動の途中に、必ず一瞬だけ対象から目を離すタイミングがある。


 攻撃のつなぎ目の時である。


 彼の攻撃は複数の技が繋がった状態であるので、その切り替えの時だけ一瞬俺から視線が外されるのだ。それが大剣ともなれば、隙の大きさは普通の武器程では済まない。


 しかしこの『絶対怪力』はその隙を最小限に抑えている。それこそ彼の『怪力』が成せる技なのだろう。


 重量感のある武器を存分に振るうことによって相手に恐怖を与え、行動を遅らせる。その遅れの分のみで、自分の隙を埋める。


 思い切った力の使い方と、細かいタイミングの調整が上手くできる男なのかもしれない。


 だがその大胆かつ器用な策も、俺には通用しない。


 確かに剣は怖いけれど、ここは闘技場で、この勝負は殺し合いではない。武器にも安全措置が施されている。加えて、俺には相手の攻撃が先読みできる。こう来る、と分かっているレプリカ剣の動きなど、恐るるに足りない。


 故に『絶対怪力』の動きは――単純ではないにせよ――読みやすい。連撃が来ると分かっていれば十分に対処可能である。


「せああっ!」


 相手の下がった瞬間を、俺は逃さない。


 逃さないというよりは、下がるのを先読みしている、と言った方が正しいかも知れない。


 本来下がるという行為、すなわち相手との間合いを取るという行為は、互いの攻撃の停止を意味する。


 下がることによって、相手の攻撃を躱し、自分の体勢を整え、そして仕切り直す。だから下がる時はスピードが大事なのだ。


 素早く下がることで、リセットできる。


 しかし俺には相手がいつ下がるのかを予測できる。


 本来防衛の為に行った後退という行為が、逆に隙を与える結果となる。


 俺が相手の後退と同時に前進すれば、相手は驚いて体勢を崩すだろう。そこに隙が生まれる。


「っ!?」


 案の定、『絶対怪力』が下がったタイミングで俺が剣を振りかざすと、その速さに驚いたのか、相手は大剣で俺の攻撃を防いだ。


 武器を使って相手の攻撃を止めるというのはあまり良い選択ではない。自分の回避行動が間に合わなかったということだからである。


 体力の消費を抑える為に、もしくは相手のバランスを崩す為に敢えて剣で受けるという選択肢もあるが、『絶対怪力』にはそのようなことは必要ないはずだ。彼は圧倒的物量で、敵を翻弄するタイプなのだから。


『絶対怪力』を見ていると、第一試合のおっさんなんかまだまだ可愛いものである。


「どうした? 下がってばかりだな」


 鍔迫り合いついでに挑発を入れる。『絶対怪力』が挑発の効くタイプかどうかは分からないけれど、まあ一応である。



「こ、これは、どういうことでしょうか!? 全大会三位の『絶対怪力』が押されています!」



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