88、速決の神獣大会 ~強くなりたいのは、自分の為~
おおっ、という音で表せそうな声が観客席に広がる。
これは、どういう「おおっ」なのだろうか。
おおっ、新参すげえ、の「おおっ」なのか。
それとも、おおっ、まい、がー、の「おおっ」なのか。
うん、どうでもいいな。
「何者なのでしょうか!? キエル選手!」
今度はおおっ! という音で表せそうな声が広がった。
先程のものとの違いは――そうだな、声のトーンが上がったな。
よりポジティブな感じの声になった。
「貴様……何者だ……!」
「だから、ただのガキだ」
司会者の言うことを繰り返す『絶対怪力』。だから俺もさっきの言葉を流用した。
この男、確かに強いのだが、何かに欠けているような気がする。
圧倒的パワー。気づかれない程度の繊細さ。経験。
それらはおそらく持っている。
しかし俺はこの男を、凄まじい強者だとは思えなかった。強者が集まる『神獣大会』の三位を勝ち取った男であるのに。
「そんなはずが、あるか!」
俺の返答が気に食わなかったのか、『絶対怪力』は競り合いの状態から思い切り大剣を振った。その威力によって、俺は後方に大きく下がる。
(ジャンプ、回転斬り、突進)
次に来る攻撃を読み取り、俺はそれに合った動きをする。
ジャンプの際にはわざと隙を見せて、回転斬りの際にその動きを回避して待つ。そしてそこから突進に移行する隙を狙って、大きく剣を振る。
俺に突進しようとしていた『絶対怪力』は、その行動を変更せざるを得ない。そして変更後の最初の動きは決まって後退である。これは未来眼がなくとも大体分かる。そしてその次の行動は裏を掻いて攻撃してくるか、回避に専念するか、どちらかである。しかし攻撃を加えてくる場合、剣を使うことが多い。
「くっ!」
「読みが甘いな! 『絶対怪力』!」
俺はマントを翻して相手の攻撃を回避しつつ、『絶対怪力』を追い詰める。
俺は今、戦っている。
追い詰めている。
楽しい。
これだ。これこそが戦い。
対人戦である。
「どうした。一度も攻撃が当たっていないぜ」
「……」
体力を切らしている訳ではなさそうだが、『絶対怪力』は苦しそうな顔をしている。俺の攻撃もまともには当たっていないものの、かすったり、相手の動きを大きく揺さぶったりはしている。
押されているのはどう考えても『絶対怪力』の方だった。
(な、何だ……?)
『絶対怪力』の目の色が変わった。
そして未来眼の示す次なる攻撃のラインは、俺の前方全体にわたっていた。
つまり、超多段攻撃。
剣の軌道で俺の目の前が覆い隠されるような感じ。
あまりの多さ故に、順番が分からない。
どこからどのように振り下ろされ、回旋し、振り上げられるのか。分からない。
ちっ。この期に及んでまだ隠し玉を用意していやがったのか。
あれだけの大きさを誇る大剣を何度も連続で振るのは普通無理がある。
しかし彼は『絶対怪力』。その『絶対的な怪力』をもって、常人では成せないことも成してみせるのだろう。
さて、どう対処したものか。
大剣の重量と共に高速で振られる訳だから、俺の持つ細い剣ではどうにも対処がしづらい。一撃一撃が相当な重さとなって降りかかるだろう。
仕方ない。まだ数は少ないが、ここで勝負を決めるしかなさそうだ。
「覚悟っ!」
刹那の思考の後、『絶対怪力』の攻撃が繰り出される。
「この構えは、『絶対怪力』の奥義、『多重剣旋』!」
だが、そこに俺はいない。
彼の攻撃の先に、俺はいないのだ。
「な、どこへ消えた!?」
言うまでもない。透明化である。
この大会では自己にのみ作用する魔法は使用可能。自己を「強化」する魔法、ではなく、自己に「作用」する魔法、である所が大事だ。だから自分の能力を落とす魔法でも、自分自身に何か変化を及ぼすものは何でもありということなのである。
「こ、これは!? 『ゴーストソード』と同じ戦法か!?」
おおおおっ! という音で表せそうな声が、辺りを包んだ。
誰だよ、ゴーストソードって。
あれか、同じ戦法ってことは、透明化魔法を使う奴が他にもいるってことか。何だ、かぶっちゃったなあ。
でもぶっちゃけ、この戦法ってずるいよね。相手が見えないんじゃどうしようもないし。
しかし、俺の今まで得た情報によると、透明化というのは何も最強の手という訳でもないらしい。
そもそも透明化自体、使用が非常に難しいらしく、使えても短時間だったり、持っているものまでは透明化できなかったりするそうだ。
加えて、ここは砂埃漂う闘技場である。歩けば跡がつく。
さらに、透明化というのはどうやら、非常に精神を使う魔法であるらしい。だから透明化した状態で戦うのはほぼ不可能であるそうだ。つまりそのゴーストソードさんも、常に透明化しているという訳ではないのだろう。攻撃する時には姿を現すはずである。
そして、最も重要なこと。この世界の強者は、強者になればなる程、相手の気配を感じられるようになるらしい。だから本当の強者にはあまり通じないということだ。
だが、それでも十分錯乱にはなる。
「ふふふふ……」
「そこかっ!」
おおっ、危ないな。
流石三位。気配は読めるようだ。だが、まだまだだな。
「な、何っ!?」
「終わりだ」
俺は『絶対怪力』の首元に剣を押し当てた。
「な、何故だ……! さっきまでそこに……」
そう、普通なら真後ろを取られることはあり得ない。それが歴戦の勇士ともなれば、いくら相手が透明状態であろうとも、完全に背後を取られることは起こり得るはずがないのである。
「しょ、勝者! A―8、キエル選手! こ、これは、新しい時代の到来かーっ!?」
今までにないくらい観客が盛り上がる。おう、盛り上がってくれてありがとな。
「悪くない勝負だった」
勝負の合図があった後で、そっと首元から剣を話す。
そして俺がそう言い残して去ろうとすると、
「ま、待て! さっきは何が起きたのだ!?」
「自分で考えた方が、身になるんじゃないか?」
因みに、俺が完全に後ろを取ることができたのは、事前にしておいた準備のおかげだ。いやいや、戦闘前に仕掛けておくだとか、そんなことはしていない。戦闘中である。
剣と剣、拳と拳の戦いを繰り広げている最中に、俺は地面に加速魔法を配置しておいたのだ。この闘技場の至る所に配置してから目一杯攪乱して決めようと思ったのだけれど、沢山配置する前に使うこととなってしまった。
この大会のルールは「自身にのみ作用する魔法の使用は可能」である。つまり自分にのみ発動するものであれば、それが闘技場内に残されていようと問題ない。発動することによって短距離を物凄い速度で移動できるようにしておき、それらを沢山用意しておくことで、さながらピンボールの球のように移動できるという訳だ。
ほら、ポ○モンの洞窟とかで氷の床みたいなのがあるじゃん? あんなイメージ。……ん、ちょっと違うか。
元々は透明化するつもりはなかったのだが、何分用意した個数が少なくて攪乱できそうになかったから、こういう使い方にしたのである。
『絶対怪力』の攻撃開始と同時に自分のいる点に超速魔法をかけることで俺の体は用意された箇所を渡り、ほぼ一瞬間の内に『絶対怪力』の背後につけたという訳であった。
想像魔法。実に便利なものだ。
どうやら、アギルの言っていたことは間違いないようだ。
俺は、戦える。
この大会を、勝ち上がれる。
最初から、勝ち上がる気があったのだろうか。
この俺が。
だったら、それは何の為に?
もしくは、誰の為に?
自分の力を知らしめたいのは、自分の為だ。
勝ち上がりたいのも、自分の為だ。
自分の優越感の為であり、自分の享楽の為でもあり、自分の存在の為でもある。
完全に自分の為。
強くなりたいのは、自分の為。
では、強くありたいのは、誰の為なのだろう。
強くなければいけないのは、何故なのだろう。
第四試合 勝者 A―8 キエル




