74、静寂の前進 ~どうやら各地で色々と動きだしたようです~
「おお、ただいま」
時刻は、昼過ぎだろうか。うん、それくらいである。
「朝早くから行ってたんですね! どうでした?」
俺が村長宅に帰ると、居間には村長、その奥さん、ルテティア、リィサが揃って寛いでいた。おいおい、随分な余裕だな。
そして俺は村長の方を見る。
見た。
すると村長、妙に嬉しそうな顔をするではないか。何? やっぱり察してたの?
まあ、そんなことはいい。取り敢えず一日泊めてもらった訳だし、その分の恩は返せたと言っていいだろう。
「ああ、何か、いたな。亜人獣。あんな感じなんだな。何か気持ち悪かったから倒してきちゃった」
「えっ!?」
驚いたのはリィサである。椅子を立って驚愕の表情。そんなに驚くことなのか。
「ちょっ、倒してきたって、本当なの!? 三体いっぺんに?」
驚きのあまり、体が前のめりになっている。
「ん、まあ、そうだな。三体いっぺんにだな」
これ以上驚かせるのは良くないと思うので、うん、三体ということにしておこう。
「取り敢えず村長、亜人獣は倒しましたので、もう安全ですよ」
「……な、何と感謝していいのやら……」
村長はそんなことを言う。
まあまあ、よして下さいよ、そういうのは。お互い様じゃあないですか。
「あなたっ! 村の皆に知らせないと!」
村長の奥さんがそう言う。
「ああ、そうじゃな……!」
村長も腰を上げる。
「それじゃあ、俺達はこれで行きますので。ありがとうございました」
うん、用も終わったし、早く国を出ないと。
「そ、そんなことを言いなさるな。今晩も泊まっていくと良い」
「そうですよ、あなた方は私達皆の英雄なんですから」
と思ったら案の定村長夫妻に引き止められてしまった。はい、分かっていましたとも。
「そうですか。じゃあ、もう一日だけ、お邪魔させていただきます」
俺はリィサとルテティアの方に目をやった。
「き、キエルさん! 凄いです! 流石私のキエルさんです! まさか亜人獣を一人で三体も倒されるなんて! 普通の武闘家でも正面から一対一でやり合うのは危険だって言われているんですよ!?」
ルテティアが興奮気味に俺にすり寄ってくる。よしよし。
「そりゃどうも。お眼鏡にかなったようで」
ルテティアを撫でながらそう返す。
「あ、あんた、一体……」
リィサは未だに驚いているようだ。そんなに凄いことなのか? だって、弱かったぞ?
「いいじゃないの別に。リィサも亜人獣にビビッてばかりいたら駄目だぞ?」
「び、ビビッてなんかないわよ!」
「いいや、ビビッてたね」
「ビビッてないっ!」
うーん、可愛いなあ、ツンデレ。
村の人の反応は、何て言うか、テンプレだった。
ありがとうを言われた。うん、悪くない。
村の屈強な戦士達から賞賛され、村の子供達に囲まれ。
そんな感じである。
村の中心で何か歓迎会みたいなのをやってくれたりもした。素直に嬉しい。
豊かという程でもないだろうこの村で、俺の為にそこまでしてくれる村の人の気持ちは、やっぱり素直に嬉しい。きっと俺には想像もできない程、俺のしたことは良いことで、村の人々にとっては救世主のように見えたのかも知れない。ならば祝宴を開き、最大限にもてなすのも分かる。
俺に、感謝しているのだ。
俺は、感謝されているのだ。
ただ、俺は本当に何かを成したつもりはない。
誰かの為にやってあげようと、そう思ってしたんじゃない。
感謝される為にしたんじゃない。でも、彼らは俺に感謝しているのだろう。
その感情の温度差が、何だか不自然な気がした。
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白邪が注目したのは、召喚術、悪魔学、闇魔法。
そして魔力収集術。
これで、できる。
まずは、できる。
『魔王戦』開始まで あと340日→339日
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金属と金属がぶつかり合う音がする。
そしてその音は晴れ渡る空の彼方へと消えてゆく。
ここ、獣人の国『ゴルダ王国』は『レノクターン王国』の北に位置する国である。
その王都、『コロジウム』は世界的に闘技場で有名の場所である。
そこでは年に一度、大会が開催される。
己の肉体を鍛え上げてきた闘士達が一堂に会し、その技巧を試し、武勇を打ち立てるのだ。
その大会まであと少し、と迫ったこの『コロジウム』では日々武闘家達が練習を積んでいる。
その武器がぶつかる音が、空高く響いているのであった。
「今年ももう少しで始まるねぇ」
闘技場施設内の酒場でゆったりとしている女性がそう言った。椅子の下に尻尾の様なものを這わせている。向かいには中年くらいの筋骨隆々な男がいて、彼は一言で言うならば毛むくじゃらの人間だった。が、完全に獣の顔ではない。あくまでも人間の顔である。
「ああ、今年の優勝候補は多いからな。今から楽しみで仕方がねえ」
「そんなこと言っても、あんたは出ないでしょ」
小突くように女性が言う。屈強な体を持つ男のことだからいかにも大会に出場しそうなものだが、どうやらこの男は出ないらしい。
「まあな。だが今年は賭け甲斐がありそうだぜ。お前は誰に賭けるんだ?」
「あたしは賭け事なんてやらないよ。それはあんたの趣味だろう?」
「お前も一度くらいやってみればいいものを。はまるぞ」
がっはっは、と大男。典型的な酒場の男のようである。
「お前だって、目星くらいはついてるんだろ?」
「何さ、その犯人みたいな言い方は――そりゃあたしだって、応援したいやつの一人や二人はいるよ」
鉄製の杯の中身を流し込みながら女性が返す。目星、というのはつまり、優勝候補のことだろう。
「おっ、誰だ? 『剛腕』か? それとも『鉄人飛翔』か? それとも――」
「そりゃあんたの趣味だろうに」
熱く語る男を制して女性が割り込んだ。
「そんなありきたりな連中じゃないよ。今回はね、あたしの知り合いが出るのさ」
「知り合い?」
「そ。あんたも知ってるだろう? 『急獣道場』のミトラ。ミトラ・エクスキルノだよ」
この酒場には人が大勢いる。杯がぶつかり合う音もあちらこちらでするし、何かの話で大盛り上がりをする連中達の声は止むことがない。人は忙しなく移動し、加えて解放感がある。酒場であり、盛場であるこの場所に女性が何を言った所で誰も気にしない。
しかしその声を聞いていた目の前の男だけは、驚かずにはいられなかった。
「は!? あの嬢ちゃんかよ!?」
勿論、そんな大きな声を出した所でこの酒場内では何の問題もない。
「ミトラが強いのは知ってるだろう? あの歳で『ミーティア流』秘伝まで習得済みなんだ。皆伝になるのも時間の問題さ」
自分のことのような声で言う女性。つまりは、自分のことのように嬉しいのだろう。どれ程の関係なのかは分からないが。
「確かに強いっちゃ強いが……『神獣大会』はそんなに甘くないぜ? この街はレノクターン王国に近いからそっちからも腕利きの戦士が来てる。女一人で他の屈強な戦士どもを倒せるかね」
「その為の『ミーティア流』だからねぇ。数年前から、この大会に出ることを夢見てたんだ。ようやくそれだけの実力があると認められたってことさね。後は優勝するだけだって、意気込んでたよ」
「それは結構なことだ。だが……お前は近くで見てたんだろ? どうなんだ。その嬢ちゃんは勝てそうか?」
男が遠慮気味に聞く。
「良い線行ってると思うよ。去年の優勝者、『鉄人飛翔』に敵うかどうかは、やってみないと分からないけどさ。でもあたしとしちゃあ優勝してほしいもんだね」
「そうかい――俺は今回、『絶対怪力』に賭けようと思ってたんだが、よっしゃ! ここは大きく出て、その嬢ちゃんに賭けてみることにするぜ!」
「ほう、あんたにしちゃ中々大胆だねぇ。――そんじゃあたしも、賭けてみるかね。まあ、遊び感覚で、一度くらいは」
「おう! そうか! やっぱり賭けたい人間がいるとモチベーションが上がるだろ? 賭けってのはそういうもんだぜ!」
大きく乾杯し、二人はもう一度飲み交わした。
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「なあ、こんなぽっと出て来ちまったけどよ、その、ヘレヘスとかいうやつ、簡単に見つかるもんなのか?」
専用四輪操車で国外まで運んでもらった四人は、言われた通りクラソルテ王国から南西方向に向かっているのだが、確かに考えてみれば南西方向と言われただけで探せるものでもない。
「でも、ヘレヘスは大罪人なんだから、聞いて回れば案外簡単に見つかるんじゃないかな」
西治の問いに、海王がそう返す。何とも緊張感のない返答である。
「そっか。そうだよな。相当の大物なんだから、きっとどこの国でも話題になってんだろ」
「この世界に通信とかあるの~?」
西治が簡単に納得すると、今度は綾火が疑問を投げかける。
「ああ。かなり高価なものだから地方にはないみたいだけど、情報を遠くに伝える方法は、ない訳じゃないみたい。陛下が言ってたからさ。密接な関係にある国とはそういう通信網が多少はあるらしい」
これもまた海王が答える。
相変わらず、緊張感のない声である。
辺りには、敵の影もない。
豪華な装備に身を包んだ一行に、怖いものなどない。
草原を歩き、街中を歩き。大地を歩き回る彼らには、緊張感の欠片もない。




