41、エンヴィ anti 大天使 ~完全に嫉妬じゃねえか~
おおっ!? びっくりした! ま、またかよ。マジで怖い。っていうか本当に怖い。言うまでもなく怖い。それに超怖い。あと怖い。とにかく怖い。加えて怖い。まだ怖い。
「そうですね! 私と一緒にこれからいろんな旅をしましょう!」
俺が表情に出さないで全力で怖がっていると、ルテティアが楽しそうな声でそう言った。その言葉に少し癒される。
美少女の笑顔というのは本当に強力なものであるのだ。
「ああ――あ、ところでさ、ルテティアを追っていた獣人達はどうしたんだろうな」
「さあ、知りませんね。追ってこないのですからもう諦めたのではないでしょうか」
ふと俺が気になったことを言うと、ルテティアはそう答えた。結構適当だな。あんた怖くないのか。さっきまで追われてたんだろ。
「そうか? 案外この街にいたりするかもしれないぞ?」
「え!?」
ちょっと脅かしてみる。
「いや、だってさ。その獣人達の進路がどうだったのかは知らないけど、空からルテティアの兄ちゃんが大きな声でルテティアを呼んでただろ? もしかしたらそれに気づいてこの街まで探しに来ているかもしれない。うん、可能性としては十分ある。何せものを盗まれた訳だからな。それに、その獣人達がもし商人だったなら、物は商売道具だ。盗まれて黙っているはずがない」
「ええ!? え、ちょっ、それマジですか!?」
「おい、女の子がマジですかとか言うな」
「マジですか!?」
どうやらマジでビビっているらしかった。
「ああ」
「そんな…………あ、でもそんな時はキエルさんが守ってくれるんですよね! いやあ頼もしいです」
「いや、獣人の方が強かったら俺は逃げるぞ」
「マジですかっ!?」
「マジだ」
だって三人組って言ってたじゃないですか。それに獣人って何だかちから強そうだし。俺みたいな貧弱な人間じゃ相手になるとは思わないし、相手にしたくない。
三対一なんて怖くてできない。
それを言ったらさっきの戦いも三人対一人だったかもしれないけれど、あの場合は幼女が手を出してこなかったことと、お兄様がルテティアのことを気にして本気で暴れていなかったということがあるので真の三対一ではない。
本当の三対一で異世界初心者の俺が勝てるはずがない。マジで異世界なめんなよ。……と言ってもこの世界が異世界であるのはあくまでも俺と俺のクラスメイトにとってだけであるのでルテティアは何も悪くないのだが。
しかし、どちらにしても俺が三対一で勝つというのはそうそうない。これから訓練して強くなれば可能かもしれないが、少なくとも今の段階では無理である。
「それでも、まあ、その時は一緒に逃げてやるよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
流石に俺もルテティアを放置して逃げるというような真似はしないよ?
「ああ、そう言えばルテティアはあのグレイって人のことをお兄ちゃんって呼んでたけど、あれは本当の兄だよな?」
三対一のことを考えていたらあの三人の有翼人のことが今更ながらに気になってきたので聞いてみることにした。
「あれ? 何でお兄ちゃんの名前知ってるんですか?」
俺が聞いた所、そう質問し返されてしまった。あ、しまった。
ルテティアには俺が勇者であるということを言っていないためそうやって誤魔化すこともできない。
「ああ、それはお兄さんの短剣にそう彫ってあったからだよ」
「よく見えましたね」
本当は見ていないのだが、言い訳としてはこの辺が妥当であろう。
「あれは実の兄ですよ。横にいた美人さんは実のお姉ちゃんです」
「ルテティア、お姉ちゃんのことは好きそうだな」
「はい! もう大好きです。あの里にある心残りと言ったらお姉ちゃんと別れてしまったことくらいです」
「そうなの? お兄さんは嫌い?」
一緒に旅行するくらいだから、心の底から嫌いってことはないと思うけど。
「そうですね、お兄ちゃんは子供扱いするので嫌いです。でもお姉ちゃんはいつも優しくてそれでいて私のことを一人の女の子として扱ってくれるので嬉しいです!」
「なるほど、いいお姉ちゃんなんだな」
俺には姉はいないから、どういう存在なのかはいまいち分からない。親というのとも違うだろうし、年下の兄弟というのとも違うであろう兄、姉というのは何だか不思議な存在であるように感じられる。
ルテティアの話を聞く限り兄も姉も面倒見がいいようなので少し羨ましかったりする。
「あそこに一緒にいた小さい女の子は誰だ? 妹か?」
妹じゃないような気がするのは今も変わらずである。だって外見も中身も全然違うもの。
「あんなのは妹でも何でもないです! ただのガキですよ、ガキ」
「女の子がガキとか言うんじゃありません」
急に乱暴な口調になったルテティア。どうやらあの幼女との仲は良くないらしい。
「いいや、ガキですよ。ちょっと色々できるからって――」
と、小声でぐちぐち言い始めた。これはいわゆる、嫉妬というやつなのだろうか。
年下の癖に能力が高くて皆からもてはやされる、みたいな。
「あの子は何か凄い子なのか?」
「……ええ、まあ。ネルファっていうんですけど、何せ里長の孫でして、それに加えて天性の才能として大天使になる素質を持っているんですよ。その他にも生まれつきの才能で有翼人特有の術や魔法もあの歳で全て使えますし、大人しいですし、良い子ですし……うう……」
スペックで劣っていると自分で認めてしまっているようで、ルテティアは悔しそうに言い籠る。
「ん? 大天使って、何だ?」
「大天使というのはですね、有翼人の最高位と言うべき存在なのです。古の戦いでも各地で多くの戦果を挙げたそうです。それに大天使は有翼人のリーダーでもあって、一つの里どころか一つの国や地域に存在する有翼人をまとめる権力を持ちます。大天使達は定期的にある場所に集い会議を行うのです。現在大天使は四人いまして、世襲制ではなく、実力でその座を勝ち取るものなので、本当に実力のあるものしかなれないのですが……」
「なるほど、彼女にはその才能があると」
「はい……」
残念そうに言う。っていうか……
完全に嫉妬じゃねえか。
仲が悪いのかなと思ったら完全に妬みだった。まあそういうのは可愛いからいいんだが。
「じゃああの時俺に手を出さなかったのは何故だ? 三人がかりだったらルテティアを取り戻せただろうに」
「ええ、でもあいつが戦うと味方にも被害が出てしまうのであくまでも抑止力なんだそうです。まあ、お姉ちゃん達についてきたのはただ単に命令されたからだと思いますけど。ほら、次期大天使候補ですから様々な経験を積まされているのですよ」
「そうか、色々大変なんだな」
と口では言いながらも、俺はそのオーバースペックに驚いていた。
いや、だって味方にまで危害が及ぶってやばいだろ。優秀ならその辺もちゃんとコントロールできるようになりたまえよ。とは言え、まだ幼いのだからそこまでは難しいのだろう。これから成長していく内に力の使い方も覚えていくのだと思う。……うわ、何か力の使い方とか中二っぽいな。
それにしても、そのネルファとかいう幼女が戦わなくて良かった。幼女が力の制御までできるようだったら俺はどうなっていたことか。
「ほら、あいつの羽、身長は小さいくせに相当大きかったでしょう? それに純白で輝いています。有翼人はですね、羽の大きさと色でその力とタイプが変わるのです」
羨ましそうにそう言った。
「確かに羽は大きくてすごく綺麗だったけど……あれか? ルテティアは大天使になりたかったのか?」
「いえ? そんな面倒なことはしたくないです」
あれ、随分あっさりしてるな。
「私は自由気ままに旅をしたいタイプです。もう、絶対に後悔させてやります。私も旅に出たかった~ってあいつに言わせてみせます」
……が、何か只ならぬ対抗心を持っているのは確かなようだ。




