40、食事 like ピザ ~え、ルテティアって実は上品?~
お腹が鳴るのは恥ずかしいのに食べる時は元気なんだなあ、と思った。
と言うのも、料理がやってきていざ「いただきます」をする時の顔があまりにも嬉しそうだからである。
相当お腹が空いているようだったのでなるべく近くの店にしたのだが、その店の雰囲気は結構お洒落であり開放的な造りになっているから街の空気を感じやすい。良い場所を選んだな。
このレストラン(と言うのか酒場というのか)の名前は『コレジーニョ』と言って、この街では中々の有名どころらしい。コレジーニョというワードの由来はさっぱりだけれど。
そんな訳でこのレストランを選び、注文をしたのだった。ウエイター、ウエイトレスさんは若い人が多く、この世界にもバイトとかあるのかなぁとか思ってしまう。
俺が頼んだのはピザっぽい何かである。何かというのは勿論、それがピザでないことが明らかで、ピザでは絶対ないからである……あれ、何か今二回言っちゃった?
そう、とにかく俺が頼んだのは断じてピザではなかった。
その理由として挙げられるのは、まず、もっちりとしているからだ。これはピザの生地的なもっちり、という意味ではなく、言葉の通り、餅のようなもっちり感のことを言う。
それに合わせ、具が沢山乗っているということも挙げられる。これもまたピザ的な具沢山という意味ではない。何せ平面上に収まっていないのだから。ぺちゃんこの髪をワックスで盛ったような具合で具が乗っている。
ピザとの共通点としたら丸いということくらいしかない。
じゃあ全然ピザじゃないじゃないか、と思うかもしれないが、これが不思議とピザのように見えてしまうのだった。もしかしたら現実の食事が恋しいだけなのかも。
そしてルテティアが頼んだのはパスタのような何かだった。
が、こちらの場合はパスタと言っても通るのではないだろうか。
麺が異常に太く、料理の半分を具が占めているという点は大きく異なるが、盛り付け方等、パスタに似ているように思う。
「いただきまーす!」
そう言ってルテティアが思い切り食事に――と思ったら案外静かに食べ始めた。
フォークのような何かで麺のような何かを上品に巻き、もう片方の手を添えながら食べる。
すっかり大食い系のキャラだと思っていたら、何ととんでもない誤りであった。
え、何、ルテティアって結構上品なキャラなの?
普段の姿からはあまり想像できないが、ルテティアは今も大人しく食べている。実に女の子らしい食べ方だった。
ああ、もしかするとあの兄貴達に色々躾けられたのかもしれないな。皆良家の子って感じだったし。
「ルテティア、綺麗に食べるんだな」
こぼしたりもしないルテティアにそう言ってみた。
「な、何ですか? もしかして私が散々食い散らかすような、そんな女に見えたんですか!?」
おい、口にものを入れたまま喋るな。
「そうだな。案外大人しそうで良かった。これでもし大食いとかだったら食費が馬鹿でかいことになるよな。…………っていうかルテティアお金持ってるの?」
「え!? 奢ってくれないんですか!?」
……奢ってもらう気満々のルテティアであった。まあ、そうだよね。身一つで抜け出して盗みも働くような子だもの、そりゃお金持ってる訳ないわ。
「いや、勿論お金は俺が出すけど」
正確に言えば、国王から貰ったお金を俺が出す、である。
「ほんとですか! ありがとうございます!」
現金なやつ、かつ素直なやつであるルテティアはそう言うとまた丁寧に食べ始めた。
「あのお兄さん達に躾けられたりしたのか?」
あまりにも少しずつしか食べないものだからつい聞いてしまう。
「え? ああ、確かにいろんなことを躾けられましたけど、食べるのがゆっくりなのはですね、あまり大きく口が開けられないからなのです。元々口は小さい方でして。えへ」
頬張りながらニコッと笑う。にしても中々可愛い理由だな。
「あれ、キエルさんはそれ好物なんですか?」
ふと俺の料理に目が行ったのか、ルテティアは俺のピザもどきを指さした。
「いや、別に俺これ食べたことないし。何ていう食べ物なんだ?」
「知らないんですかキエルさん。本当に何も知らない旅人さんなんですか」
「ああ、まあな」
「それはどこにでもある一般的な料理ですよ? 勿論味は何種類もありますけど。『ピザ』って言うんです」
え、そうなの? これピザなの? ……いやいや、これもまた太陽と同じパターンだろう。とにかくこの食べ物は郷土料理とかそういう類のものではないということだ。
メニューには『ダブラスカイザーの肉とトマト盛り合わせ』と書いてある。ピザとは書いていない。ま、いっか。
因みに俺は異世界転生のお決まりパターンとして文字は読めないと思っていたのだが、勇者の異世界眼(偽)とかいうやつで何か分かるようになった。何か面白味に欠けるな。
ルテティアの頼んだ料理は『リタールの海鮮麺』と書かれている。ダブラス何ちゃらやリタールとかいうのが何の生き物なのかは知らないけれど。
このように結構謎の料理名ではあるものの、味自体は全く申し分ない。どころか相当美味しい。どうやらこの店が有名というのは嘘ではないようだ。
「ところでルテティア、この後はどうしたい? せっかくだから色々見て回ってもいいよ。この街には数日いるつもりだし」
食事が美味しいせいか少し上機嫌になった俺はそんなことを言ってみた。流石に疲れが吹っ飛んだとは言わないけれど、元気が出たのは確かだ。少しくらい遊んでみるのもいいような気がする。
「本当ですか! ……はっ! まさか、これがキエルさんの言う「ろうらく」とやらの一種なのですか!? 危うく騙される所でした……」
「おい、人が親切で言ってることなんだから素直に受け取っとけよ」
「あれ? ろうらくじゃないんですか?」
「そんなこと言ってると俺は宿を探しに行っちまうけど」
「だ、駄目です駄目です! 一緒に行きましょう? ね? もうキエルさんのこと絶対に疑いませんから!」
必死にルテティアが訴えかけてくる。どう転んでもこいつは素直なようだ。今疑ったのも俺が教えたからだし、自分が遊びたいということも隠さないし謝るのも早いし。
単純過ぎて放っておけない。
「んー、そうだな。じゃあどこに行きたいか考えておいてくれ」
「了解です! ……と言っても私、この街に来たのは初めてですからどんなものがあるのか、とかよく分からないんですよね」
麺を吸いながらルテティアが困った顔をする。確かに初めて来たのなら何があるのかも分からないか。
が、この街に来たのは、ということは――
「ルテティアは自分達の里? っていうか街みたいな所から出たことがあるのか?」
「はい、結構ありますよ。国を出たのはそれこそ逃亡の時くらいですが、よく里のみんなと隣町に遊びに行ったり少し遠くの都市に旅行に行ったりしてました」
過去を思い出すようにルテティアが語る。その喋り方はとても暖かく、まさに仲間との思い出、という感じだ。なんだ、別に兄妹が嫌いって訳じゃないんだな。
少なくともルテティアは皆が嫌で里を抜け出したのではないのだろう。
「そっか。俺もこれからいろんな街に行ってみたいな」
せっかくの異世界なのだから観光は必須である。それに『魔王戦』までには相当時間があるので、それまでは楽しんだっていいだろう。そもそも俺は『偽』だから『魔王戦』に直接関係がある訳ではないのだから――
実況者報告 だからそんなことはありませんよ?




