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推しに殺される大罪人に転生。推しのために……  作者: 流庵
一章

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第〇二八話 木材

 この世界シンクロリアの通貨はクローといい、価値は日本円とほぼ同じぐらいだが、ゲームでは最初に設定した通貨でプレイできる。俺は円でプレイしていてクローという通貨は存在していなかったはずなので、ゲームとは異なる部分もあるようだ。

 

 色付き魔石の回収方法について両親と話し合った結果、ゲームをやらせるという俺の案が採用された。


 ゲームの内容は簡単に言えば水中コイン落としだ。一回百クローを払い、水槽に沈めたお椀の中に色付き魔石を入れることができれば千クローを得られるという仕組みだ。


 成否に関係なくこちらが得をする仕組みだ。実際に試してみたところ、大きな魔石のほうが成功率が高かったので、勘のいい冒険者たちは大きめの魔石でチャレンジするだろう。ただ、ゲームのみを開催すると怪しまれる可能性があるため、シャドウブレイズ家系列の魔石買取所で魔石を十個売るごとに一枚チャレンジ券を配ることにしたらしい。


 支払額と成功報酬額は調整する予定だということなので、色付き魔石がどんどん集まることを期待したい。


 

 ◆ ◆ ◆



 今日は魔道具店に向かうため、久しぶりに馬車に乗ったのだが、レティシアが傍にいないので馬車移動が辛いことをすっかり忘れていた。母様の言う通り、店主を呼びつければ良かったと少し後悔している。


 ゲームと違うところがあると分かると、実際に魔道具店の商品を見たくなってしまうのは仕方がないだろう。


 魔道具店は町中にあり、十分ほどで着くと聞いていた。十分なら問題ないと思ったが、移動を始めて五分ほどで具合が悪くなってきた。今度、父に剣術でも習って体力づくりをするか? 一ヶ月ぐらい動けなくなりそうなのでやめておこう。


「ルシャ様、到着しましたが、顔が真っ白です。大丈夫ですか?」


「何とか持ち堪えたようだな……降りるぞ……」

 

 リリアナに支えられて何とか馬車を降りる。


「……これが魔道具屋なのか?」


 ゲーム内で訪れた店はもっと暗くて怪しい外観だったが、これはまるで家電量販店だ。


「そうですが、問題ありましたか?」


「いや、大丈夫だ。入ろう」


 中に入るとたくさんの魔道具が並べられているが、客はいない。


「もしかして、貸し切りか?」


「もちろんでございます。ここにはさまざまな客が訪れますから」


 気になる物は多いが、まずは目的のマリオネットだ。


「これはルーシャス様、このような粗末な商いの場にわざわざお運びいただき、身に余る光栄です」


 現れたのは五十代くらいの白髪混じりの頭に顎髭を生やした男。


「ルシャ様、この者はこの店の店主アルカリオです」


「そうか。アルカリオ、よろしく頼む」


「ルーシャス様に名を呼んでいただけるとは光栄でございます」


 ……この男、胡散臭いな。一見丁寧だが、最近俺と接した人々と明らかに違う。警戒しておこう。


「ルシャ様、少し魔力を抑えたほうがよろしいかと」


「気をつける」


 警戒したせいで魔力の放出が増えたようだ。気をつけないとな。


 結局、店主とは三メートルほど距離を取って話すことにした。


「ある程度、要件は聞いていると思うので手短にいくぞ。そうだな……形はそこにあるマリオネット人形と同じで糸は不要、木材の種類を変えたものを作ってほしい」


「糸のないマリオネット人形でございますか? ただの人形になってしまいます」


「構わん。ところで、ここにあるマリオネット人形は何の木で作られている?」


「木の種類でございますか? 今、当店にあるのは一番安価なシナ製と、少し高価なヒノキ製の二種類でございます」


 なるほど、安価で加工しやすい木材を使っているのか。


「スギのほうが安価で加工しやすいと聞いたが、使わないのか?」


「ルーシャス様は木材に詳しいようでございますな。おっしゃる通りですが、スギは乾燥時に割れやすく、柔らかい木のため凹みやすく、マリオネット人形には適しません」


「なるほど。店にないだけで、もっと硬い木材で作られたものはあるのか?」


「帝都の劇で使われるような人形はオーダーメイドで作られるため、製作に時間がかかりますが、丈夫な木材や人形のイメージに合った質感の木材が使われます」


 アルカリオという男、胡散臭いが受け答えはしっかりしており、素材にも詳しい。


「もしかしてアルカリオ、自分で人形を作るのか?」


「――! どうして分かったのかお伺いしても?」


「これだけ品揃いの良い魔道具屋の店主にしては、この辺りで主力ではないマリオネット人形に詳しすぎるな。その手も明らかに職人の手だな」


「ルシャ様、このアルカリオは大きな町なら必ず支店があるクシャール商会を作った男です。現在は息子に会頭を任せ、なぜかこの地の店主をしています」


 そんな大きな商会、ゲームの中にはなかった。ゲーム開始前に潰れたのか? いや、クシャールという名前には聞き覚えがある。どこで聞いたか思い出せないけど。


「簡単な理由でございます。私の命の恩人であるリリアナ様が使えている人物が気になっただけでございます」


 俺を挑発しているのか? リリアナの表情が険しくなった。


「リリアナ、気にするな。おかげで腕利きの職人がいて助かる。今回頼んだものが良ければ、もっと複雑なものを依頼しよう」


「……承知しました。手に入るすべての木材でマリオネット人形を作れば良いのですね?」


「そうだ。ところで、シャドウブレイズ領に生えているリグナムバイタという木を加工したことはあるか?」


「リグナムバイタでございますか? 初めて耳にしました」


「なるほど、情報に疎いのは職人を辞めて長いからか? その木材でマリオネット人形を作れるなら追加で頼む」


「……畏まりました。完成次第お届けに伺います」


「リリアナ、行くぞ」


「畏まりました」


 唇を強く噛みしめ、眉間に皺を寄せたアルカリオを残し、店を後にした。


 

 ◆ ◆ ◆



「ルシャ様、お見事でした。あの男、仕事はできますが、口が達者で扱いづらいのです。最後の一言は気分が良かったです」


「命の恩人のリリアナでも扱いにくいのか?」


「以前聞いたときには濁していたこの地にいる理由を、ルシャ様の前ではあっさり明かすあたり、このタイミングを七年間待っていたのでしょうね」


「七年間がけの嫌味か……それだけリリアナが俺の侍女でいるのが気に食わないのだろう……しまった!」


「どうしました!?」


「いや、せっかく魔道具屋に行ったのに魔道具を見るのを忘れた」

 

「そんなことでしたか。欲しいものがあれば私が購入してきますよ」


「ああ、頼む」


 どんな魔道具があるのか見たかっただけなのだが、また次回でいいだろう。

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