23.誘拐⑤〜秘匿地図
ーーーシドの酒場−ーーー
誘拐団のリーダー格の男は、酒場の片隅のテーブルで、ひとり酒をチビチビと口にしていた。
くそ、ついてねえ。
マヌケどもがパクられたせいで、今じゃあ検問の厳しさがダンチじゃねえか。
コトがデカくなり過ぎて、今さらカーチスでガキども集めるのも無理だし、かといって、ここでいつまでも立ち往生って訳にもいかねえ。
今いるガキどもが、昨日捕まえたメスガキで
ようやく7人…予定の半分か…。
見込んでた儲けにゃ全然足らねえが、このままガキども捨ててトンズラこいても丸損だ。
早いとこ、この街抜けて、ガキどもカネに変えにゃ、こっちが干上がっちまう。
しかし、運び屋連中が集まる酒場なら、なんかイイ話が転がってるかもと思ったが……、なんでい、いつになったら通れんだ、遅れちまうって、みんな愚痴ばっかりじゃねぇかよ。
こちとら、飲みてえ酒をチビチビやって、酔わねえようにがまんして情報集めしてんのによお。
ああ、ついてねえや。
苛立ちげにため息をつく男。
その横に、妖艶な笑みを浮かべたエヴァが、するりと座った。
「どうしたの、お兄さん。思案顔だねぇ」
微笑むエヴァに、男の不機嫌さも、緊張感も、
またたく間に氷解していく。
「お兄さんも運び屋かい。まぁ、ここで呑んでる連中はみんなそうだけどね。検問が厳しくなって、みんな足止め食らってんだよ」
「お、おぅ、まぁ、そんなトコだ」
ふぅ〜ん、と男の顔を舐めるように見つめるエヴァ。
「大変だよねぇ、納期に間に合わなきゃ、1日で1割、
3日遅れたら3割って、日ごとに代金減らされたりするんだろ。アンタらのせいじゃないのにねぇ」
「おお、そうだぜ、真っ当にやるってのは辛えもんよ。俺らの都合なんかお構いなしさ」
「ウチは、この街にお客さんが長くいてくれるんで、別に困りゃしないけどさ、ハッハッハ」
酒を注がれ、気分も良くなり、運送業者の体でなんとか話を合わせる男。
しばらくの談笑の後、スゥっとエヴァが寄り添い、
そっと耳元で囁いた。
「……少しはずんでくれたら……アンタに、いい事教えてあげるよ……」
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【誘拐団リーダー視点】
翌朝、俺は運送業組合の前にいた。
昨夜の酒場の女の言葉を思い出す。
〃いいかい、明日朝一番に運送業組合に行きな
一番奥のテーブルに、ヒゲ面の大男が座ってる
そいつはシドって名前の職員なんだが、コイツがとんでもない酒乱の乱暴モンでね
職員からも嫌われてる鼻つまみモンさ
あちこちに借金抱えてるし、ウチにもだいぶツケが溜まってて、二進も三進も行かなくてねぇ。
酒代稼ぐために、ある事を思いついたんだ
『裏の輸送用側道地図』の横流しさ
組合じゃあ、極々たまにだが『ヤバイけど、受けなきゃならない』案件ってのがあるらしくてね
そういうのを、昔っから、組合直轄にして、この秘密の裏ルート使って捌いてるらしい
組合謹製の永年の極秘ルートだ
騎士団ですら知りやしないよ
そいつんトコ行って、「酒場で聞いた」って、
そう言ってみな
地図を渡してくれるはずさ
ああ、それだけだ
他に何にも喋んなくていい
必ず朝一番だよ
アイツは朝組合に顔出したら、それで出勤扱いになるから、すぐにいなくなっちまう
いいよねぇ、勤め人はさ
それで毎月の給金が貰えるんだ
羨ましい限りさね〃
あの酒場の女は、間違いなく、俺らの同類だ。
裏仕事やってきた奴の匂いがプンプンしてやがった。
だからこそ信用して、ココに来てみたんだが…
まぁ、ウソだったら…、それなりの落とし前つけさせりゃいいだけだ。
酒場の女の言葉を反芻しながら、組合の扉を開く。
ホールにはもう何人か、業者らしい奴らがいた。
かなり狼狽えてやがる。
検問強化で切羽詰まってんだな。
その向こう、一番奥のテーブルにーーー
いた!あの男だ!
ヒゲ面、大男
あの風体じゃあ、見間違えようがねえ。
しかし、なんだよ、アイツは……
アイツの雰囲気、ありゃヤバすぎんぞ。
ありゃぁ、相当な場数踏んでやがる。
そうじゃなきゃあんなヤベェ感じ、出せるわけがねえ。
別にビビるわけじゃねえが、下手に刺激することもねえやな。
俺は意識して静かに大男の前に座った。
おいおい…、間近で見ると、ヤバさがハンパねえぞ!
ホントはコイツ、どこぞの山賊の頭目かなんかなんじゃねぇのか。
絶対ヤベェ犯罪踏んでやがるぜ。
こんな事をモタモタ考えてたら、大男がギロリと俺を睨みやがった。
俺は、なんとか心を落ち着かせ、冷静に、平静に、奴に話し掛けた。
「さ…酒場で聞いた…」
大男の眉が、ピクッと動いた。
だけど、コイツ、全っ然喋りやがらねえ。
俺も大男も黙ったまま、時間だけ過ぎてく。
…この空気が…辛え……
どれくらい時間が過ぎたか、全くわかんねえが
ようやく大男が、懐から紙を出して、俺の前に置いた。
地図だ。
こりゃ、絶対ホンモノだ!
こんなヤベェ奴が、わざわざ人にガセかますなんて、そんなおちゃらけた事するわけがねえ。
俺は地図を受け取り、そそくさと出口に向かった。
背中に刺さる奴の視線に、俺の心臓がバックンバックン言ってたが、俺は振り返らず、そのまま外へ出た。
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シドはしばらく椅子に座ったままだったが、人が増えてきた頃合いで立ち上がった。
「あれ、シドさん、奥さんのお使い、済んだんですか?また甘味食べにおじゃましますからヨロシク〜」
受付の女の子が明るく声を掛ける。
コクンと頷き、ヒゲ面の大男は、妻に頼まれたお使いを完遂して、家路に着いた。
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末永くお付き合い下さいませ。
次回、アルベルトの仕掛けた罠の全貌が
明かされます。
タイトル予告「罠」




