プロローグ「300年前の夜」
初投稿です。
初回10話(プロローグ+9話)を一挙公開し、
その後は当面毎日投稿していく予定です。
怒号と悲鳴が、夜の闇を切り裂いていた。
剣と剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。
馬の蹄の音、燃え盛る炎の爆ぜる音、死にゆく者の断末魔。
ここウォーケン領はその夜、修羅の巷と化していた。
少女は、血に染まった地面に膝をついていた。
「お父様……」
横たわる領主の体は、もう微かにしか動かなかった。
傍らに寄り添う少女は、必死にその大きな手を握りしめていた。
冷たい。
けれど、まだ、わずかな温もりは残っている。
「私も……私も共に……」
領主は震える手で、娘の頬に触れた。
苦痛に歪んだ顔に、微かな微笑みが浮かぶ。
「生意気な……ことを……。子供は……」
その言葉は、戦場の狂騒にかき消され、他の誰にも届かなかった。
最期の言葉。
父から娘へ、ただ二人だけの、儚い約束。
領主の手が、ゆっくりと落ちる。
地面に、血の音を立てて。
世界から、音が消えた。
少女は空虚な瞳で、天を仰いだ。
少しの間。
血の涙が、一滴、ポタリと領主の手に落ちた。
その瞬間ーー
「ーーーーーーーーーーーーーー!!」
地を震わせ、天にまで届く慟哭が響き渡った。
眩い閃光が、少女の小さな体から迸り出る。
白銀の光が、周囲一帯を包み込んだ。
父の亡骸。戦場の屍。敵軍の将兵。
想い出の詰まった領地。
楽しかった日々。
森や山ーー
すべてが、光の中に飲み込まれていく。
光が消えたとき、そこに残っていたのは、ただの荒野だけだった。
何もかもが、跡形もなく消え失せていた
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