089 : ハイデベルク・7・アンデッドヴァルキリー戦・4
待ての勇者と急ぎの姫騎士
089 : ハイデベルク・7・アンデッドヴァルキリー戦・4
ヒルデは赤、グズルーンは暗紫色、二筋の血を引きながらぶつかり、ぶつかった衝撃で血の筋は霧となって戦場と化したハイデベルクの空を不穏に染め上げる。
ヴァルキリーどもに飛翔の能力は無いようなのだが、アンデッド化したことが能力を向上させたのか、元々そういうスキルを持っていたのか、家々の屋根やアリュール(城壁上の通路)に駆け上がる。そして、女騎士たちの接近を待って、巧みに矢を射かけ槍を投げ上げる。間近に迫ったとみるや、一気に跳躍してヒルデを妨げ、時にはヒルデに薄い傷をつけていく。
俺も二人の高みに飛べるはずもなく、ブァルキリー共を追いかけ、付き伏せ切り伏せしてヒルデの動きを助ける。
しかし、これではいくらも敵を倒すことができず、ヒルデのトランス状態も続かなくなって、やがては数に押し切られてしまう!
くそ!
あと少し追随できれば……自分の鈍重さに唇を噛む!
ウォーー チュインチュイン チュインチュイン
と、その時、街の南側に剣戟の響き!?
「あ、みんな!」
手薄になった南門をぶち割ったのか乗り越えたのか、親指姫を先頭にビアンカとカリーナが剣を抜き、背後の門の上では、エマが回復魔法の準備姿勢をとっている。そのスカートの陰に隠れてギギまで。
くそ、みんな敵わぬまでも、俺を助けようと……ギギの口がパクパク開いて……あれは『げんこつ山のたぬきさん』!
そうか、聞こえないまでも、ギギなりに応援してくれて……だめだ、あいつらに無理をさせては!
メキメキメキ!
骨が軋むような音がしたかと思うと、全身に力が漲ってくる!
これはやれるかも!
セイッ!
思い切って地面を蹴る!
すると、唇の大化け物(076~077)と戦った時以上の高さに飛び上がる!
やった!!
「ヒルデ! 加勢するぞ!」
呼びかけに応えは無い。
いっぱいいっぱいのトランス状態、それも、そろそろ尽きかけている。
応えを待たずに、反対側からグズルーンに打ちかかる!
ジャキーーン!
僅かだが手ごたえ、奴の小手に切れ目が入って細く血を曳く。
「きさまあ!」
グズルーンが怒りの目を向けて、僅かに隙ができる。
ガキンガキン! ズガン! ズガン! ドガン!
続けてヒルデの斬撃!
肩鎧が変形し、ヘルムのバイザーが吹き飛び、片目は血が入ったんだろう、苦し気に閉じられ、額と頬には血の筋が引いている。
「ブァルキリーども! 我を助けよ!」
ザザザザザザザ
グズルーンの呼びかけに、数百のブァルキリーが眼下に集まり、屋根の上や城壁にとりつく。
数百……ちょっと少ない。
目を南門に向けると、なにかTの形をしたものが飛び回って、ブァルキリーたちを次々にぶちのめしていく。
南のブァルキリーたちは、Tの字にぶちのめされ、グズルーンの救援には駆け付けられないのだ。
あれはミョルニルのハンマー?
「今のうちだ!」
ヒルデにも伝わったんだろう、クワッと震えたかと思うと、剣と甲冑が真っ赤に輝きヒルデの姿が一回り大きくなった。
キュピーーーーーーン!
鋭い音をさせてエクスカリバーが振り下ろされ、グズルーンの甲冑はヘルムから腰鎧まで切り裂かれ、暗紫色の血が壊れた噴水のようになって虹を映した。
そして、グズルーンは無数のポリゴンに分裂して、それも数秒のうちに霧消してしまった。
残ったブァルキリーたちも、グズルーンに紐づけられていたのか、次々、蒸発するように消えてしまった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物 グズルーン(魔王に魂を売ったジークフリートの王妃)




