085 : ハイデベルク・4・北東の壁
待ての勇者と急ぎの姫騎士
085 : ハイデベルク・4・北東の壁
ヒルデは名簿を、エマはストレージを盗られてしまった。
名簿はラグナロク(最終戦争)に徴兵されるヴァルキリーたちの名簿。詳しくは触れないがヒルデは、このヴァルキリーの名簿を守るため、たびたび日本のコスプレ会場に逃げてきていた。
バンシー(家事妖精)のエマは攻撃系の魔法はからっきしだけど、彼女のストレージ(収納)はデフォルトのものだけでも東京ドームほどもあって、俺たちの旅を支える備品や消耗品がしまい込んである。ヒルデには悪いが、名簿を盗られるよりも深刻だ。
俺は自在にトイレを出せるが、トイレだけあっても旅はできないからな(-_-;)。
…………魔王にとんずらされた森の前、うかつに動けずに、ハイデベルクの街を遠望している。
「あれが魔王なら、もう魔王城まで逃げてしまったでしょうか……」
魔王城はライズゼニヒ山のさらなる奥、北の最果て、あまり考えたくはない。
「いや、出現の頻度から言って、そこまで奥には戻ってはいないと思うぞ」
エマの不安を打ち消すヒルデ。
「ということは……」「あのハイデベルクに……」「ゴクン」
ビアンカとカリーナが冒険者らしい見通しを言い、親指姫は息を呑んだ。
ヒルデは冷静に分析を続ける。
「……我々を釘付け、あるいは撃滅するなら留まって指揮を執る。指揮官先頭は戦いの基本、邪悪な魔王であろうとそこは外さんだろう……ここを迂回して北に進んだら挟撃されてしまう……やはり……まずはハイデベルクの敵を撃滅することだ」
「でも、エリクサーもエーテルも……ポーションもポケットに入っている分しかありません」
目を伏せるエマ。
「一回戦分くらいなら……」「うん」
自分のリュックを叩く魔術師姉妹。
「お前たちは、ここで弱い者たちを守っていてくれ。裏をかかれてお前たちが攻撃されてはいけないからな」
あ、ヒルデは行く気満々。それも、俺と二人だけで(^^;)。
「敵は巧妙に姿を隠している。そうだな、ビアンカたちも敵の姿は見なかっただろ」
「うん、でも、気配はビンビンした」「隠れているんだ」
「ということは……配置について体制を整えるには若干の時間がいる」
「……今しかないということだな」
俺が呟いて決定。
「無理しないでね(><)」
ギギが縋りついてくる。仲間を失うことに恐怖心があるんだ。
「ああ、大丈夫だ」
ギギをエマたちに任せると、ヒルデが前に出る。
「行くぞ!」「おお!」
ヒルデと二人、草に身を隠しながら街を目指して走った。
「鳥の目で探れないか?」
「……だめだ、気づかれている。街中の動物にアンチ魔法がかけられている」
「仕方ない、自分の目で確かめるか……」
俺たちは大手門にあたる正門をパスし、東に周って北東の城壁に向かった。
「……跳躍すれば半分……までなら取りつけるだろう。あとはよじ登ろう」
「半分まで……自信ない」
「ロープを垂らしてやる」
「ロープ持ってるのか?」
「ああ、エマのには及びもつかないが、並みのリュック程度のストレージはある……」
「どうした?」
「ポーションとエーテルが入っている……エマのやつ……」
なけなしのアイテムをこっそり入れたんだ。
「俺も、少しくらいストレージを持つべきだな」
何気にポケットを叩いてみると何か入っている。
「スグルはポケットか」
「……ギギの飴ちゃんだ」
「そうか……いくぞ」
音もなく跳躍したヒルデは、城壁の半分のところに取りつく。俺は、やっと1/3のところに取りつき、先に上がったヒルデにロープを垂らしてもらう。
よいしょ!
静かに
すまん
それから一分近く、息をひそめ気づかれていないことを確認して街の様子を探る。
いつの間にか陽が傾いて街の中は薄暗い。
あちこちに魔族兵が配置に着く気配。敵は警戒して見張りを厳しくし始めている。
灯りも制限して、容易には中の様子を探れないようにしている。
ほとんどシルエットでしか見えない敵兵。
「グ!」
え?
その敵兵のシルエットを窺って、ヒルデは息をのんだ。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物




