060 : ヒルデが先導させてほしいと提案する
待ての勇者と急ぎの姫騎士
060 : ヒルデが先導させてほしいと提案する
「歩きながらだが、話してもいいか?」
切通しを抜けるとヒルデが切り出した。
「え、ああ、いいよ。なあ」「はい」
「これからの旅は、わたしに先導させてくれないか」
「「え?」」
ここまでの旅、特にリーダーというか先導など決めていない。まあ、エマはメイドの立場で一歩引いているところがあるが、道中、話題を提供してくれたり休憩のタイミングを言ってくれたり、マネージャー的。俺とヒルデは、その時の状況で前に出たり後ろになったり。これもまあ、成り行きでやってきたので、改まって言われると微妙。
「理由は簡単だ、一刻も早くヴァルキリーの名簿を取り返さなければならんのでな」
「あ、ああ」「そうでございますね」
エマと声が揃ったので「ああ、いいよ」と応えると、エマも大きく頷いて、たった二秒で決まってしまった。三人だけのパーティーは風通しがいい。
「かたじけない、感謝する!」
「よせよ、他人行儀な」「そうでございますヒルデさま(^^;)」
「実は、河原の風呂で髪を洗っていると、視線を感じてな(-_-;)」
「え、だれか覗いていたのか(# ゜Д゜#)」
「なんでスグルが赤くなる?」
「え、あ、いや」
瞬間、ズィッヒャーブルグの宿を思い出してしまった。風呂付の部屋が一つしかなくて同室、寝るときもダブルベッドでいっしょ。たまたま飛んでいた蚊を、ヒルデが敵の使い魔と勘違いして大剣で突き殺した。俺を跨ぐかたちだったので、風呂上がりのヒルデが覆いかぶさってしまい、ちょっとドキッとした(010: 初めてのダブルベッド初めての襲撃)。
「それがな……チラリと見るとアキ、すぐにグズルーンに変わった」
「「え!?」」
「いや、すぐに消えた。挑発か警告か……いずれにせよ、早く取り戻さなければならん」
「そうなんだ」
「カメラを前に飛ばします」
慣れた手際でドローンを飛ばすエマ。
「お、アップデートしたのか!?」
いつもなら二機か三機のドローンを飛ばすのだが、今回は一機だけ。
「はい、カメラが三つついております。それぞれ独立して飛ばすこともできますが、通常はこれ一機で間に合います」
「では、インタフェイスを分担しよう。エマが正面、スグルは右、わたしは左だ」
「了解」「承知しました」
前方警戒の邪魔にならないよう視野の端に仮想インタフェイスが来るようにして進む。
ドローンが高度10メートルを超えたところで、道の先が分岐しているのが見えた。
「左は、おそらくシュタイル峠からの道でございますね」
「ああ、遠回りだが安全だという道だな」
「あ、だれかこっちに来るぞ」
左の道の向こうから二人連れの女騎士がやってくるのが見えた。
距離があってはっきりしないが、小柄と中肉中背、背格好や歩き方からまだ若い騎士のようだ。
「ズームするにはどうしたらいい?」
「はい、指でつまんで広げるようにすれば……」
「ん、つまむ?」
「ああ、こうするんだよ……」
「ああ、アキバでオタク共が写真を撮るときにやっていた仕草だな」
「写真を撮られていたのでございますか?」
「ああ、不本意であったが、コスプレ会場に紛れるのだから仕方がない。なんだ、その目つきは、好き好んで撮らせていたのではないぞ」
「あ、いや……」
俺も撮りたかった……とは言えない。
え、今なら自由に撮り放題だろうって?
そうはいかない。コスプレ会場というシバリがあるからこそ自由なんだ。レイヤーも期待に応えてテンションアゲアゲで、注文通りの……いや、俺は注文なんかしないけどな。たいていのポーズや雰囲気は他のカメラ小僧が注文してくれる。え、あ、いや、なんか言い訳じみて……おや?
距離が詰まってクリアーになった二人の女騎士……なんだか見覚えが。
ええ!…………いや、まさかな……。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物




