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一
土曜課外の帰りに百貨店二階の売場を幾つか巡った。刑務所外で奉仕作業中の受刑者のように、無言できびきびした歩調が揺らしている紙袋の中身は、安物のマグカップとインスタントコーヒーの包装、替えのノートと数学の参考書、週刊少年漫画雑誌と月刊映画評論誌である。
用事を終えて、一階の正面出口を出るとき、私は思い出したようにその脇のATMコーナーに寄って、タッチパネルに四桁の数列を打ち込んで、業者からの今月分の振り込み額を確認した。
両開きの大型自動ドアを通り抜けるのと同時に、そのすぐそばの服飾品エリアから出てきた陽気な雑沓に追い抜かれる。霧吹きで吹いたような昼日の陽光の中に、やや遅れてオー・ド・トワレの薄い匂いが漂ったかと思うと、そのまま春の和やかなアーケードの人並みを目指して逃げてゆく。
私は人前にも関わらず思わず鼻をつまみそうになって、恐々と顔を背けた。