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七日目




 ウィリアム邸に来てから一週間が経った。最初の一週間は本当に濃かった。


 ノアという男と出会ったり、ウィリアムが三代公爵の孫だと知ったり、フェリシティが逃亡したり、世話係のアンナが休職になったり、友達ができたり。色々なことがあった。


 ウィリアム邸に来て一週間、逃亡してから二日目の今日は特に何もすることがなく、ぼーっと過ごしていた。いつもはフェリシティのところに来るウィリアムは仕事で王宮に行っており、いない。


 アンナはあと六日で帰ってくる。アンナはフェリシティの逃亡に加担したとして休まされている。ウィリアムはアンナに一ヶ月の減給、一週間仕事を休むように命じた。


 本来ならアンナは解雇されていただろう。しかし、早々にウィリアムに伝えたこと、逃亡をしたのはフェリシティのためだということ、そして、やはりフェリシティを世話するのはアンナが適任だということで解雇は免れた。


(暇ね……。暇すぎるわ)


 フェリシティが少し部屋の外に出るだけでも、皆心配して、逃げないかと注意深くフェリシティを見つめている。なので、外に出ようにも出れなかった。


 他に何かすることはないのか、考えてみた。部屋の散策は逃亡前にした。本を読もうにも、本が重すぎて運べない。令嬢の嗜みである刺繍もうさぎの姿ではできない。と言っても、フェリシティは壊滅的に刺繍ができないので、しようとも思わないのだが。


 今、誰も部屋にいないので、人間の姿に戻ろうかという考えが過ぎった。しかし、突然誰かが入ってくる可能性は否めない。


 喋れるアンナもいつも構ってくるウィリアムもいないと、何もすることがないのだと初めて知った。


(……寝ようかな)


 何もすることがなければ、寝て時間を過ごせばいい。ウィリアム邸に来てから人としてダメになっている気がするが、本当に何もすることがないのだ。寝ること以外。


 フェリシティはウィリアムのベッドの上に乗った。いつもは枕の隣で縮こまって寝るが、今は誰もいない。そうなれば、真ん中で布団に包まって寝るしかない。


 謎の考えが浮かんだフェリシティは、モンロン男爵邸の自室のベッドよりふかふかなベッドに入った。うさぎ一匹では有り余り、贅沢をしている気分になる。


 ウィリアムのベッドはふかふかで、すぐに睡魔が襲った。数分後にはぐっすりと眠るフェリシティの姿があった。





 ガチャリという音がして、フェリシティは目を覚ました。


 すでに空は真っ赤になっており、フェリシティが寝ていたこの部屋の窓から太陽が沈みかけている様子が見える。


「あれ、フェリシティ?」


 部屋の扉からこのベッドは見えず、入ってきた人――ウィリアムは、フェリシティがどこにいるのか分からなかった。フェリシティは逃亡したと勘違いさせないように急いでベッドから降り、ウィリアムの元に向かった。


「良かった、いたんだね」


 ウィリアムはほっと安心しながら、フェリシティの頭を撫でた。


「もうそろそろ夕食だから行こうか」


 フェリシティはウィリアムの横を歩き、食堂に行った。 


 食堂は白色のテーブルクロスがかけられた机が一つと少なくとも十脚の磨かれた椅子があり、上には豪華なシャンデリア、机の上には花が生けられた花瓶、銀色のキャンドルが三つほど置かれている。


 上座にスプーンやフォーク、ナイフが一つずつ置かれている。その右横の席に上質な座布団が何個も重ねられた椅子がある。


 上座にウィリアム、その隣にフェリシティが座った。


 二人――一人と一匹が座ると、料理が運ばれてきた。ウィリアムにはスープやステーキなど人間が食べる豪勢な料理が、フェリシティには大好きなカリフラワーやトマトの野菜が運ばれた。


 それらを食べ終えると、デザートが運ばれた。


 今日のデザートは人参のケーキだ。


 すでに人参を克服しているフェリシティは、躊躇いもなく食べることができる。おいしい、と思いながら、パクパクと食べた。


 その横で、ウィリアムが微笑ましいものを見るようにフェリシティを眺めていた。




 

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