五十一日目
ウィリアムと気持ちが通じ合って一日、フェリシティはウィリアムの祖父であるオルコット公爵の家に来ていた。それも、うさぎ姿ではなく、人の姿で。
「ふぇ、フェリシティ・ロンバークと申します」
フェリシティはガッチガチに緊張していた。
それもそうだろう。あの三大公爵の一人、オルコット公爵が目の前にいるからだ。
フェリシティは一度だけうさぎ姿でオルコット公爵に会ったことがある。しかし、そのときとは状況が全く違う。
今日、フェリシティとウィリアムは結婚を許してもらうためにオルコット公爵に会いに来たのだ。
「彼女との結婚をお許しになっていただきたく、参上しました」
「その者と結婚を、か」
オルコット公爵は顔をしかめ、腕組みをした。そのときに放つ威圧感にフェリシティは圧倒してしまう。
「その者は男爵令嬢だ。獣人であるから結婚させてもいいが、身分差がな」
フェリシティはオルコット公爵の言葉にびっくりしてしまった。結婚させてやってもいいということが出たからではない。オルコット公爵がフェリシティが獣人であることを知っていることに驚いたのだ。
フェリシティはウィリアムがうさぎを飼い始めた経緯を知らない。まさか自分の家族が獣人だと疑われているとは思ってもいないだろう。
「身分差がある以上、結婚はさせん」
オルコット公爵はフェリシティとウィリアムの結婚を認めない。それはフェリシティにも分かっていたことだ。
しかし、実際に認められないと心が傷つく。何を言っても許してくれなさそうなオルコット公爵の態度に怖気づいてしまう。
だが、負けてはいられない。折角掴んだウィリアムとの未来を諦められるはずもない。諦められるほど、小さな気持ちではないのだ。
「おじい様は身分の差がどうにかなれば、結婚を認めてくださいますか?」
「認めよう。まあ、男爵家の娘と身分差をなくすのは無理な話だがな」
オルコット公爵がそう言うと、ウィリアムが勝利を確信したように微笑んだ。しかし、ウィリアムを見ていないオルコット公爵にはそれに気がつかず、フェリシティに話し始めた。
「身分差は社交界の中でも一番厄介だ。どうか、ウィリアムのことは諦めてくれ」
フェリシティはそう言われてしまって、言葉を失う。確かに、身分の壁は決して越えられない。それは身をもって知っている。だからといって、諦められない。
フェリシティとウィリアムの関係は他の誰かが決める者ではない。自分たちで決めるのだ。
「諦めません」
だから、フェリシティは誓うようにそう言った。この先、茨の道でも、ウィリアムのそばにいられない未来は想像もできない。
「決して諦めません」
もう一度、フェリシティは伝えた。そうすると、フェリシティはウィリアムに肩を引き寄せられた。
「僕も諦めません。それに、身分差だけが問題なら、すぐに解決できます」
ウィリアムはそう言うと、懐から一通の手紙を出し、オルコット公爵に手渡した。
「ポラック公爵からか」
ポラック公爵も三大公爵の一人である。そんな人からの手紙とは何だろう。
オルコット公爵は手紙を読み始めると、すぐに顔色を変えた。
「これが本当なら、結婚を認めよう」
こんなにも早く結婚を認めてもらえるとは。フェリシティは嬉しさが迫り上がってきた。
ただ、一つ疑問がある。あの手紙がオルコット公爵の考えを一瞬で変えた理由だ。
「見てみるといい」
フェリシティが首を傾げていると、オルコット公爵がそう言った。フェリシティは人の手紙を見ることを躊躇った。しかし、自身に関係あることが書いてあること、そしてウィリアムにまで勧められたので、手紙を見ることにした。
そこにはこのようなことが書いてあった。
ポラック公爵の領地繁栄のために、モンロン男爵の店をポラック公爵領に展開すること。また、モンロン男爵夫人――フェリシティの母の生家はポラック公爵家の分家にあたるので、モンロン男爵一家が獣人であるとバレないようにすること。その二つが守られれば、結婚を認めさせるのを手伝う。
その手紙に書かれていることは衝撃だった。まさか母の生家がポラック公爵の分家とは。
「そこに書いてあることは事実だよ」
「とても驚いています……」
「良かったではないか」
オルコット公爵はがらりと雰囲気を変えている。まるでうさぎ姿で会ったときのように。
「結婚は認める。その代わりに、偶にはうさぎ姿で会いに来てほしい」
オルコット公爵は照れくさそうに言った。どうやら、うさぎがお気に召したようだ。
「はい!」
フェリシティはウィリアムの家族に認めてもらえたことに喜びを感じた。
この後、フェリシティとウィリアムはモンロン男爵家に行き、結婚することを伝えた。すでにモンロン男爵一家は知っていたようで、盛大に祝ってくれた。特にフェリシティの母は子どものようにはしゃいでいた。
そして、二人は婚約証書にサインした。これで二人は婚約した。
二人の幸せを祝うように、空に虹が架かっていた。




