四十八日目
今日、フェリシティはウィリアム邸に帰る――そんなとき、モンロン男爵邸に一人の来客者がいた。
「久しぶりだな」
フェリシティのいとこであるチャーリーだ。チャーリーはどんな用があって来たのだろうか。
「やっといい考えが思いついたんだ」
突然、チャーリーがそのようなことを言うものなので、フェリシティは首を傾げた。何かチャーリーに相談でもしただろうか。
「覚えていないのか? ウィリアムの元から離れるためのやつだよ」
フェリシティはそこでハッと思い出した。確か、ウィリアム邸で過ごし始めてからの最初のパーティーのときだ。フェリシティがうさぎの姿でウィリアム邸で生活していることを知ったチャーリーが何かすると言っていた。
すっかり忘れていた。フェリシティはウィリアム邸の日々が楽しくて、ウィリアムの傍にいるだけで幸せを感じていたからだろう。
「ええっとね、そのことなんだけど……」
その問題はすでに解決してしまっている。ウィリアムに獣人だとバレてしまっているからだ。
フェリシティはその旨を伝えた。そうすると、チャーリーはええっと驚いたのと同時にはぁっと落胆した。
「長い時間考えたのに……」
チャーリーは脳筋である。あまり考えないチャーリーは一ヶ月ほど頑張って考えていたのだ。だからこそ、ショックなのだ。
「本当にごめんなさい。でもウィリアム様といたいから……」
「ふーん。ああ、婚約者だったか」
チャーリーが納得したようだ。しかし、フェリシティは勢いよく否定した。フェリシティとウィリアムはそんな関係ではないのだ。
「違う、違うわ!」
フェリシティはズキッと胸が痛んだ。自分で言ったにも関わらず、二人の関係が婚約者ではないということに深く傷つけられた。自分はウィリアムの特別ではないということを思い出したのだ。
確かにウィリアムはフェリシティに好意を持っているような行動をする。
フェリシティは少し期待しまっている。その一方で頭がそれを止めるのだ。本当にそうなのか、と。期待して裏切られる可能性もあるのだ、と。
「はぁ? 昨日、あんなにイチャイチャしていたのに? 見てるこっちが恥ずかしかったんだぞ!」
(い、イチャイチャなんてしてない!)
昨日のウィリアムとのやり取りが周りから見て、そんな風に見られているとは思いもしなかった。フェリシティは恥ずかしくて言葉が出ない。
「本当に違うの!」
フェリシティは自分にも言い聞かせるように大きな声で言った。心ではウィリアムを期待しているのに、頭は怖がってしまっている。
「ウィリアムはそんな感じじゃなかったか? 俺の気の所為? いや、でもなぁ」
チャーリーはぶつぶつと呟き始めた。だが、フェリシティにはチャーリーが言っていることが全く聞こえなかった。
「まぁ、いいか。俺はそろそろ帰るよ」
チャーリーは立ち上がり、部屋の扉を開けた。そうすると、チャーリーは立ち止まった。
「申し訳ありません。お嬢様、キャメロン伯爵様がお出でになりました」
フェリシティとチャーリーがいる応接室の前には一人の執事が立っていたのだ。
「ウィリアムが来ているのか! 俺も会おう」
こんなことを許されるのはチャーリーがフェリシティのいとこであり、尚且、ウィリアムの友人だからだ。
「あ!」
フェリシティが何か言う前にチャーリーは歩いていった。それにつられて、フェリシティも急いで歩く。
「リシティ、うさぎの姿にならないの?」
歩いている途中で、母がフェリシティに声をかけた。うさぎになると、ドレスや下着を放ったままにしてしまう。
フェリシティは急いで自身の部屋に戻り、獣化した。そして、ウィリアムを待たせてはいけない、と走り始めた。
「もううさぎになってるんだな」
チャーリーはそう言うと、フェリシティを持ち上げた。フェリシティはというと、離してと言うようにジタバタと暴れた。
そのとき、声がかけられた。
「フェリシティ、元気にしていたかい?」
ウィリアムだ。扉が開くと、微笑んだウィリアムがフェリシティに話しかけた。しかし、チャーリーに触られているフェリシティを見て固まった。
「チャーリー? どうしてここに……」
「まぁ、いとこだしな。俺たちは仲いいんだぜ」
チャーリーは同意を求めるようにフェリシティを見つめた。フェリシティは何言ってるの、と思いながら、チャーリーをペシペシと叩く。
「フェリシティ、こっちにおいで」
ウィリアムが腕を広げた。まるでフェリシティが飛び込むのを待つように。
もちろん、フェリシティはその腕に飛び込んだ。フェリシティが一番大好きな温もりはここだ。
その横でチャーリーが笑いをこらえるような顔をしていた。
「あのウィリアムがな」
フェリシティは笑いそうになっているチャーリーに不信感を抱いた。その一方でウィリアムは微妙な顔でチャーリーを見つめていたのだった。




