三日目
「お! こんなとこにうさぎがいるじゃん」
(だ、誰!?)
何もすることがなく、昨日案内された庭園の一角で日向ぼっこをしていた昼頃、ウィリアム邸に侵入者がいた。茶髪で薄い茶色の目の男はフェリシティを見つけた。
(や、こないで!!)
男はフェリシティを襲った盗賊たちに似てがたいがよく、茶色の髪をしている。そのため、フェリシティは嫌な記憶を呼び戻した。それを思い出すだけで勝手に体は震え始めた。
「お、おい! 大丈夫か!?」
この男も己を見ただけで震え始めたうさぎに焦り始めた。
「そこで何をしているんだい」
フェリシティも男もどうしようもないとき、この家の主であるウィリアムが駆けつけた。そして、二人の様子を見て驚いた顔をした。
「ノアか? フェリシティに何を……」
フェリシティとノアと呼ばれた男の様子を傍から見ると、男がフェリシティをいじめているようだ。ウィリアムも少し勘違いをしてしまったのかもしれない。
「いや! 勘違いだからな!!」
男は勢いよく首を振り、自分の潔白さを証明しようとする。
フェリシティは日は浅いものの、まだウィリアムの方が安心できるので、ウィリアムのところに駆け寄った。そして、ズボンの裾あたりをぎゅっと掴んだ。
「それよりもどうしたんだ? ここにやって来るなんて珍しいじゃないか」
「あー、ウィリアムがペットを飼い始めたと聞いたから見に来た」
「ああ。フェリシティのことだね」
「紹介してくれよ」
男は軽いノリでそう言った。それとは反対に、フェリシティはあの盗賊たちの仲間ではないのかと疑っている。
「この子はフェリシティ。三日前から飼い始めたんだ」
「じゃあ、俺からも言うぞ。俺はノアだ。ウィリアムとは仲良いから、また会うと思うぜ」
(え! うそ!!)
優しいウィリアムとフェリシティを襲った盗賊に似ているノアが友達だとは思えないのだ。この二人がどういう経緯で仲良くなったのか気になってしまう。フェリシティには夜会で会っても二人が絶対に関わらないようなタイプに見えたのだ。
「寒くなってきたし、中に入ろう。ノアもどうだ?」
「そうだな。お邪魔させてもらうよ」
部屋の中に入る間ずっと、フェリシティはウィリアムの側を離れず、ノアとは一定の距離を保って歩いたのだった。
応接室の二人がけのソファーにフェリシティとウィリアムが座り、その向かいにあるソファーにノアが座った。二人分のお茶が運ばれ、フェリシティにはお菓子が置かれた。
フェリシティがこの三日間で分かったことは、ウィリアム邸で出されるお菓子はとてもおいしいということだ。昨日や一昨日ならパクパクと食べただろうが、今はそんな気分ではなかった。
ウィリアムとノアは二人で楽しく談笑していた。時折、フェリシティの話も出てドキッとしたりもした。
話からもノアは盗賊たちの仲間ではなさそうな人だと分かった。分かると、心の中でこっそりと謝った。
そうすると、次は別のことで不安になってきた。
(お菓子をバクバク食べるうさぎって獣人に見えたりするのかな……)
昨日と一昨日はウィリアムはおらず、アンナだけがいるときに食べていたので、全くそんなことを気にしなかった。だが、ウィリアムとノアはフェリシティが獣人だということを知らない。だから、それが気になって仕方なかった。
「すまない。少し席を外すよ」
仕事の件でウィリアムは席を外してしまった。
今、あまりよく知らないノアと二人っきりだ。バレたらどうしようという気持ちが頭の中を巡り、ウィリアムが早く帰ってくることを願うばかりだ。
「おい」
突然、ノアがフェリシティを呼んだことに勝手に体がびくっとなった。
「お前……獣人じゃないだろうな」
もうバレてしまったのかと思い、フェリシティは慌てた。何かしてしまったのだろうかと焦る。
(と、とぼけよう……!)
ただのうさぎのように「あなたの話なんて分かりません」という風な態度をとる。顔は引きつってしまっているが。ただ、幸いなことに人間からしたら、うさぎの顔は無表情のように見えるようで、変化には気づけない。
「……んなわけねぇか」
(ばれてない……? よ、良かった!)
「聞いてくれよ」
ノアははあっと大きなため息をついた。それにフェリシティは不審そうにノアを見つめた。
「前、ウィリアムはペットを飼ってたんだよ。……だけどよ」
自然とゴクリと喉が動く。ノアが深刻そうに話すからだ。
「そいつ、獣人だったんだぜ!? 既成事実を作ろうとしたんだぜ!?」
ノアはキッとフェリシティを見た。フェリシティはそれに怖じ気づく。
「そんときは何事もなく終わったがな! だが、もし! もしお前が獣人だったら、俺が追い出してやるからな!!」
ひっと悲鳴が出るところだった。うさぎだから声が出ないので、悲鳴が出なくて良かった。出ていたらバレていたかもしれない。
「全部の獣人が悪いとは思わないがな! ……まあ、お前は違うと思うけど」
ノアはソファーから立ち上がり、びしっと指をフェリシティの方に差したと思うと、ふっと笑ってもう一度座り直した。
(この人にバレたら絶対にダメだ……)
絶対にバレないようにするためにも、早々とウィリアム邸を出ようと決意するフェリシティであった。




