三十九日目
空高く昇る太陽があらゆるものを照らしている。また、より一段と寒く感じる陰が出来上がる。
フェリシティはというと、鳥が来ないかなと思いながら部屋の日向の部分で寝そべっていた。
まだ寒い季節であり、本格的な冬が始まったばかりだ。そのため、フェリシティは日向ぼっこをして体を温めていた。
暖炉があり、そちらの方が暖かいのだが、フェリシティは日向ぼっこをしている。暖炉は火が間近に感じ、怖くなってしまうのだ。また、日向ぼっこをした方が昨日の鳥が来たときにすぐに窓を開けることができる。
(鳥さんはまだかな……)
今日は昨日や一昨日よりも随分遅い。このままではフェリシティが昼寝をしていると思っている世話係のアンナとアイラがやって来てしまう。
早く来い、早く来いとフェリシティは願った。
(あ!)
それが願ったのか、向こうの方で何かがこちらに向かって飛んでいるのが見えた。きっと鳥だ。
(やっと来てくれた!)
フェリシティは鳥がここに到着する前に窓を開けた。冷たい風が入ってきてブルリと体が震える。
『……イ、…………ダ!』
鳥が何かを叫んでいるようだが、フェリシティには聞こえない。フェリシティと鳥の距離が遠すぎるのだ。
『……タイヘンナンダヨ!』
鳥はものすごいスピードで飛んでいる。ぐんぐんとフェリシティに近づき、あっという間に窓の近くに到着した。
鳥は着地するなり、羽をバサッバサッと広げて慌て始めた。
『タイヘンダ! 主ガ……主ガ……!』
主というのはウィリアムのことだ。そうであれば、ウィリアムに何かあったのだろうか。
フェリシティは全身が氷のように冷たくなるのを感じた。
『ウィリアム様に何かあったの……?』
そうでありませんように、と願いながら縋るように鳥を見つめた。
『主ガ、ケガヲシタンダ! ジコダ! ウエカラ物ガオチテキタンダ!!』
――怪我をした。それもウィリアムが。
フェリシティは居ても立っても居られず、急いで扉の方に向かった。そして、うさぎ用の扉から廊下に出た。
扉の近くには外で待機していたアンナとアイラがいた。
『大変なの! ウィリアム様が……!』
フェリシティの言葉が分かるアンナは目を丸くした。一方でアイラはフェリシティが何を言っているのか分からなかったが、慌てている様子から何かを感じたようだ。
『鳥さんが来てくれて……ウィリアム様が怪我を……!』
アンナはそれを聞くと、すぐに部屋の中に入った。アイラもそれに続いた。
「この鳥は……」
どちらが声を発したのかは分からないが、どちらもこの大きな鳥を見て驚いた顔をした。少しの間、鳥と二人は見つめ合っていた。
「これは……!」
そのとき、アイラが何かに気づいたようだ。
アイラは鳥の足に付いている筒のようなものから丸められた白い紙を取り出した。そして、すぐにそれを見た。
そこにはウィリアムが怪我をしてしまったことが書かれている。
アイラは急いで誰かを呼びに行った。
数分もしない内に騎士の副団長と執事長が慌ただしくやって来た。
「今からウィリアム様の元に向かいます。この伝播鳥に向かう有無を知らせさせます。アンナとアイラはフェリシティ様のことをよろしくお願いします」
(私は置いていかれるの……?)
フェリシティは嫌で必死になって執事長の足を掴んだ。
『私も行く!』
動物の言葉など分かるはずもないのに、フェリシティは何度も何度も行くと叫んだ。ウィリアムが生きているかどうかを確認しないとウィリアムがどこかに行ってしまいそうな気がするのだ。
「フェリシティ様、我々にお任せください」
うさぎの力では人間に勝つこともできず、呆気なく足から離されてしまった。そして、騎士の副団長と執事長は足早に部屋を出ていってしまった。
『私も連れてって……! アンナ、お願い! ウィリアム様の元に連れてって!』
何度も何度もフェリシティは言葉の分かるアンナに訴えた。うさぎの自分には何もすることがないかもしれない。しかし、フェリシティはウィリアムの無事を確認したかった。
『アンナ……!』
アンナが一歩、また一歩、歩き始めた。徐々に歩くスピードは速くなっていく。後ろからアンナを呼ぶアイラの声が聞こえたが、アンナは振り返らなかった。
そして、ある場所で止まった。
そこには何個か鞄が置かれている。
「私にはこれくらいのことしかできません。申し訳ありません」
アンナはフェリシティを鞄の中に入れた。鞄の中は少し窮屈だが、我慢だ。
「絶対にバレないようにしてください。……この中にいればウィリアム様に会うことができます」
『アンナ……ありがとう……!』
フェリシティは嬉しくて目が潤んだ。
「そろそろ人が来るので行きます。幸運を祈っています」
パタパタパタとアンナが去る音が聞こえると、すぐに何人かの足音が聞こえた。先程までこれからのことについて話し合っていた騎士の副団長と執事長だろう。
そのとき、急にグラングランと揺れた。この鞄を誰かが持ったのだ。
フェリシティは静かにじっと鞄の中にいた。
どうかバレませんように――と願いながら。
ウィリアムが行った視察の場所はここから半日ほどかかる。フェリシティは明日の朝になるまで鞄の中にいないといけない。
それでもフェリシティはじっと耐え忍んだ。
その心にはウィリアムのことしかなかったのだった。




