三十四日目
あの雪の日が嘘のように今日は良い天気だ。そんな中、フェリシティはウィリアムに連れられ、墓地に来ていた。
どうやら今日はウィリアムの大切な人の命日らしい。フェリシティをその人に紹介したいからというウィリアムの思いから、フェリシティも行くことになったのだ。
一方でフェリシティの思いは複雑だった。
ウィリアムの大切な人に紹介してもらえる喜びとその大切な人がウィリアムの好きな人ではないかという悲しみがあるのだ。
フェリシティはウィリアムのことが好きだ。ご主人として好きなのではなく、恋愛的な意味で、だ。だからこそ、ウィリアムが忘れられないくらい好きな人がいることは胸が張り裂けるくらい苦しかった。
無情にも馬車はその人がいる墓地へと着いてしまった。その人とウィリアムは結婚をしていないのでハーシェル家の墓地ではないはずだ。
それがまたフェリシティの心を複雑にした。ウィリアムと同じ墓地に入れないその人に対する哀れな気持ちとほんの少しの喜びだ。
「ここは出るかもしれないから絶対に離れてはいけないよ」
ウィリアムはフェリシティを抱き上げ、花束を持ち、墓地へと入ってく。
フェリシティは“出る”ということに怯えていると、墓地の入口に家の名前が書いてある石の看板を見つけた。それを見て、フェリシティは目を丸くした。
――ハーシェル家
そう書かれている。
これはどういうことだろうか。まさかフェリシティが知らないだけで、ウィリアムは結婚していたのだろうか。
ゴンと大きな石が頭を打ったように痛い。もしそうであれば、身分も低く、獣人であるフェリシティはどんなに足掻いてもウィリアムと結ばれることはない。一パーセントの確率もなくなってしまう。
一度結婚しているなら、もう一度結婚する必要がない。子どもがいない場合は一概には言えないが、どうしても結婚したくなければ同じ高貴な血筋から養子を貰えばいい。
(この恋は叶わないって分かってたのに……)
獣人だと明かしていないフェリシティがウィリアムと結ばれることがないというのは好きになったときから分かっていた。しかし、それでも苦しくて辛くて仕方なかった。
「ここだよ」
ついにウィリアムの大切な人が眠る場所まで来てしまった。フェリシティは見たくないとすら思ってしまった。
(こんなことを思ってごめんなさい……)
こんなことを思うべきではないということくらい分かっているが、心は拒絶していた。
「僕の大切な人が亡くなったって話したよね。その人がここに眠っているんだ」
ウィリアムは悲しそうに言った。きっとまだ傷が癒えていないのだろう。
「僕の大切な人――父上のことを今でも尊敬しているよ」
父上――ウィリアムは今そう言ったのだろうか。
そのときフェリシティは好きな人ではなかったという事実にほっと一安心した。そしてそれと同時にウィリアムの父親に対する申し訳無さとすでに父親が亡くなってしまっているということが辛さが生まれた。
「父上、今飼っているうさぎのフェリシティです。とても可愛くてきっと父上も好きになってくれると思います」
ウィリアムは花束を墓の上に置き、フェリシティを紹介し始めた。
(ウィリアム様のお父様……私は貴方様に対して嫉妬をしてしまいました。お許しください)
フェリシティは心の中で謝罪した。
(もしよろしければもう少しだけウィリアム様の側にいる権利をください)
そしてそう願った。願える立場にないことは分かっている。しかし、もうフェリシティはウィリアムなしの生活は考えられない。だから、ウィリアムの父親に願うようなことをしたのだ。
そのとき、柔らかい風が吹いた。
――もちろんだ!
ウィリアムの父親にそう言われているような気がした。




