条件付き再開
どうやらドラゴンは、本格的に南の大陸に住み着くつもりのようです。
南の大陸の最高峰の山頂付近を、居心地の良いように削ったり、均したりの作業を続け、地形まで変えてしまっています。
このとばっちりを受けたのは、山の斜面に住み着いていたグリフォンたちです。
なにせ山頂付近で地形が変わるほどの工事をすれば、落石が降り注いで来たっておかしくないですからね。
ドラゴンの巣作りのせいで、グリフォンの巣が壊され、腹を立てて襲い掛かればブレスで一掃されてしまう。
この数日の間で、グリフォンはかなり数を減らしたようです。
「ラインハルト、ドラゴンとグリフォンって、こんな近い距離で共生できるものなの?」
『さて、こればかりは分かりませんな。何しろ、ドラゴンもグリフォンも、滅多に見れる魔物ではありませんからな』
「それもそうか……でも、この感じだとグリフォンは我慢するしかないんだろうなぁ……」
『グリフォン押し出されて、ヴォルザードの方へ飛来しなければ良いのですが……』
「それは考えたくないなぁ……」
これまで観察した結果、ドラゴンの方からグリフォンに対して攻撃を仕掛けたことは無いそうです。
ブレスを使ったのは、あくまでもグリフォンから攻撃してきた場合に限られるようです。
『グリフォンも数を減らしたようですし、これ以上は自分たちから攻撃はしないのではありませぬか』
「だと良いけどね。ドラゴンの狩りの様子は、以前と変わらないのかな?」
『そのようですな。狩りをするのは大陸の南側が殆どだそうです』
「もしかして、北側で狩りをすると、ヴォルザードやラストックに影響が出ると分かっているのかな?」
『さて、そこまでは考えていないではありませぬか。グリフォンへの態度があのような感じですし、我関せずと思っておるのでしょう』
「そうかぁ……少しぐらい考慮してくれれば有難いんだけどねぇ……」
ドラゴンは、この星の食物連鎖の頂点に立つ生き物です。
自分は生きたいように生きる、何かあってもそっちで何とかしろ……ぐらいの気持ちなのでしょう。
いいや、それすらも考えていないのかもしれませんね。
『ケント様もドラゴンのように生きられたらどうですかな』
「えっ、ぼくが? いやいや、無理無理、僕は獲物を丸かじりで我慢できないからね。着るものだって、寝るための布団だって、自分では用意できないから、ドラゴンみたいな生き方はできないよ」
お嫁さんを五人も貰っている時点で、結構好き勝手やっている自覚はあるし、これ以上を望んだら罰が当たりそうです。
ドラゴンの余波は限定的のようですし、そろそろ街道の通行再開を検討した方が良さそうです。
「その前に……」
『どこへ行かれるのですかな』
「地震で崩れて、繋がりかけているところを切り離しておこうと思ってね」
『そうですな、少しでも繋がっていると、大きな影響が出る可能性がありますからな』
こちらの大陸と南の大陸の間、僕が切り離した場所が先日の地震で崩れて繋がりかけています。
確認しに行くと、潮の流れに揉まれて、殆どが海の下になっていますが、干潮になれば繋がる可能性が残っています。
「ではでは、送還!」
崖が崩れて繋がりかけた部分を送還術でぶっ飛ばしました。
これでまた切り立った断崖と深い海峡が出来上がったので、もう魔物が渡って来られる可能性はほぼほぼ無くなりました。
続いて向かった先は、クラウスさんの執務室です。
「ケントです、入ります」
「おぅ、ドラゴンの様子はどうだ?」
「本格的に住み着くつもりみたいです」
この数日、自分で見たり眷属に監視してもらった結果をクラウスさんに伝えました。
「なるほどなぁ、我関せずか……腹は立つが相手がドラゴンともなれば、文句を言うのも命懸けだからな」
「街道の通行再開はどうしますか?」
「条件付きでの再開だな」
「条件付きと言いますと?」
「魔物の大量発生が起こる可能性は残されている。それを覚悟で行くならば止めないという感じだ」
現在、ヴォルザードからはラストックへと向かう魔の森を抜ける街道の他に、マールブルグへと向かう街道も止められている状態です。
以前のヴォルザードだと、この状態になると何も物資が入って来ない危機的な状況です。
勿論、ヴォルザードには有事を考えて小麦が備蓄されているので、住民が飢えるような事態は起こりません。
それに、闇の盾を利用してブライヒベルグとの間を繋いだ輸送システムも稼働しているので、完全に孤立するような事態にはなりませんが、輸出入をして稼いでいる人たちが困ります。
今回、突然街道の通行を止めたので、ラストックに行ったまま、マールブルグに行ったまま、戻れずに足止めされている人もいるでしょう。
そうした人たちのためにも、早期の通行再開が望まれています。
「それじゃあ、城門に伝えに行きますね」
「いや待て、俺が行く」
「クラウスさんが……ですか?」
「門を開きました、もう大丈夫です. なったら困るからな。俺が行って、俺の口から伝える」
普段はチャラいクラウスさんですが、住民の安全に関わることとなると態度が一変します。
城門を閉じて往来を止めるのは、住民の安全を確保するための策ですし、ためらう必要なんてありません。
一方、城門を開いて往来を回復させるのは、場合によっては住民を危険に晒す行為なので、それだけ慎重になっているのでしょう。
「クラウスさん、ラストックへの通達はどうされますか?」
「ちょっと待ってろ、今書簡をしたためる」
クラウスさんは机に向かうと、さらさらと書簡を書き始めました。
意外ですけど、クラウスさんって綺麗な字を書くんですよねぇ。
以前、書類を見て、その感想を伝えたら、汚い字だと教養を疑われて舐められるから、字は練習を重ねたそうです。
さすがは領主様と言うべきなのか、見栄を張るのには労を惜しまないというか、クラウスさんらしいと感じました。
「よし、こんな感じでどうだ?」
クラウスさんは書き終えた手紙を僕に見せました。
内容は街道の通行を再開するが、ドラゴンは本格的に住み着く可能性が高く、魔物の大量発生が起こる危機は去っていない。
それを承知で街道を通行するならば止めないが、大量発生が起こった時には救援は行われないものだと覚悟するように通達を出すと書かれていました。
「ケント、こいつを持って、ラストックのヴィンセントに会って来い。ドラゴンの状況を伝えて、依然として危機は去っていない事を強調しろ。その上で、ヴォルザードは通行を再開するが、護衛のランクを当面の間一つ上げることも言い添えておけ」
「分かりました。ランクを上げるとなると、Bランクってことですね?」
「そうだが、形ばかりのBランクでなく、応用が利くBランクが望ましいと伝えろ」
「当面の間とは? どの程度を想定していますか?」
「そうだな、実際に森を抜けた連中から話を聞いてから決めたい。ラストックまでの往復なら四日以上掛かるからな、複数の話を聞きたいから、十日ぐらいは掛かるだろうな」
「分かりました。聞かれたら、十日程度と答えておきます」
この後、クラウスさんの書簡を携えてラストックへと向かい、ヴィンセントさんに面談を申し込みました。
書簡を手渡し、補足となるドラゴンの現状などを説明し、条件付きの通行再開の話も伝えました。
ラストックとしても、往来の再開を待っている状況だったので、ヴィンセントさんはヴォルザードと歩調を合わせて条件付きの通行再開を決めました。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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