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年の差の紡ぎ  作者: 翠凛
6/7

青信号にはご注意を。

以前、フォレストノベルに掲載した作品です。年上の彼の急な転勤に彼女はどうするのかーー。

「……ごめん」

 ハンドルを握る隣の彼は、唐突にそう言葉を溢した。その言葉の意味は、考えなくても分かるもので、私は苦笑するしかない。

「謝らなくていいよ」

「…でも」

「あのねえ、仕事なんだからしょうがないでしょ?」

 窓の外を見ながらのんびりと言うと、彼は沈黙を返した。外はもう薄暗く、時の流れの早さを感じる。でも、だって、ほんとにしょうがないよ。


――恋人である彼の転勤。それがこの妙な空気の原因。


「……相変わらず聞き分けが良すぎるね」

 静かに止まった振動と共に発せられた言葉。つられるように、隣を見れば赤信号を見つめる寂しげな顔があった。まるで、何かを諦めるような。なんで、そんな顔するかな……。

「私、そんなに聞き分けいい?」

「良すぎるよ。いつもしょうがないって言って僕を許す」

「仕事なんだから許すも何もないでしょ?」

「……君らしいね」

 小さく息を吐き、彼は再びアクセルを踏んだ。音楽も、ラジオも、何の音もない車内の空気は重い。でも私は、至って冷静でいつもと変わらなかった。だって、付き合うことになった時から決めてたから。

「……僕達」

「私、遠距離だけは絶対無理」

 気まずそうに切り出された言葉を遮って、素早くはっきりと告げた。息を吸った音が聞こえたあとに、小さな、うん、という声に私はすぐさま言葉を紡ぐ。

「会いにきてもらうとか、会いに行くとか、面倒くさい」

「そう、言うと思ってた……」

「うん。だから」

――再び現れた赤信号。静かなブレーキ音。そう、決めてた。だから、だからね。

「そっちにある大学行くことした」

「は?」

 空気が大きく変わった。

「……え、今なんて」

「ぷは……っ!なんて顔してんの?間抜け面―」

 真ん丸と目を開き、こっちを向くアホ面に思わず噴き出す。珍しいくらいに、動揺してる。でも、これくらいしてやらないと。聞き分けがいい?だって?残念ながら、私はそんなにいい子ちゃんじゃないんだよ。この際、このお人好しなアホ彼氏くんに分からせてやろう。

「転勤で別れるなんて選択肢は私にはないよ。そんな生半可な気持ちで付き合ってるわけじゃないし、私の気持ちを無視されたら困る。仕事なんだから仕方ない。だから私が追っかけるだけ。元々、まだ志望大とかないし、無理して合わせてるとか思わないでね。私が大学考えようとしてるときにうまく重なっただけ。分かった?私はどこまでもついていく女なんだからね。それが嫌なら今すぐにでも、どーぞ振って下さいな」

 ツンと人差し指で彼の額を突き、一気に言い切った。もちろん、最後にはとびっきりの笑顔もつけて。不純だと思われるかもしれない。でも、いい。決めてたんだから。

「……あ、青信号」

「え……っ、あ!」

 後ろの車にクラクションを鳴らされ、慌てて車を発進させる姿に、ただただ笑う。

「もう、安全運転してよねー」

 のんびりと、いつもと変わらない口調でそう言えば、彼はやっと笑って。

「君がとなりにいる限り安全運転しかできないよ」

 それは、いつもと変わらない優しい声。だから私は、離れられない。

「僕は幸せ者だね」



いつだって

いつまでもそばにいて

そばにいてあげる

私は



「私の方が幸せ者ですー」



――あなたの隣にいたいから。




fin


読んでいただきありがとうございました。誰が隣にいても安全運転しましょうーねー。

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