精一杯の愛をあなたに。
ツイッターの診断メーカーお題より「気付いてほしい/(もうこどものままじゃ、いられない。)/ずっと甘やかしていて」
いい加減、気付いて欲しい。
「ねえ」
「んー?」
黒を基調とした一人暮らしには少し広い彼のリビング。ガラスのローテーブルを挟んで置かれてあるふたつのソファー。隣に並ぶわけではなく、それぞれのソファーに座る彼と私。
彼の部屋に来るのはもう何度目のことか。
「どうして私に触れないの?」 彼の部屋に来る度に繰り返す質問。
「……またそれか」
「またって…」
難しそうなタイトルの分厚い本の奥から聞こえる溜息に唇を噛む。同じ空間にいるはずなのに、彼は遠くて遠くて。見えない壁が何年経っても彼の前にある。
「私…もう18だよ?」
「まだ未成年だな」
「でも結婚できる歳でしょ?」
「まだ学生だろ」
「そうだけど……っ」
『未成年』『学生』――目を合わせることなく、お決まりのように並べられる言葉。確かに年上の彼からしたら私は子供だ。分かってる。そんなの分かってるけど、でももうただの子供じゃない。ただの女の子じゃない。もっともっと彼の近くにいたい。触れたい。好きって愛してるって言って欲しい。(もうこどものままじゃ、いられないんだよ)
「いつまでそうやって逃げるの」
本に顔を隠し、表情を隠そうとする彼に問い掛ける。いつもだったらあの会話で引く私だけど、今日は引かない。逃がさない。
「逃げてない」
「逃げてる。怖がってる。私は壊れたりなんかしないよ?お母さんとは違う」
広げていた雑誌をソファーに置いて彼にゆっくり近付く。ギシと鳴った床の音に彼の肩がピクリと動いたのが見えた。
「私が柔な女じゃないのは知ってるでしょう?」
「……でも女だ。女は弱い」
ソファーに体を伸ばしていた彼は起き上がり、近付いてきた私から距離を取るように端へと体を移動させた。大人なのに、怯えが隠し切れてない子供のような人……。
「それ偏見。世の中の女の人敵に回すよ?私は全部受け止められる。受け止める自信があるの」
昔、聞いたことがある彼の家庭事情。きっと彼の中にある大きな錘は、夫に捨てられた母親の存在。捨てられた後、多くの男に走った彼の母親。最終的に彼を手放した彼の母親。
――愛情を知らない彼。自分の感情を分かろうとしない彼。でも、だからこそ守りたくて仕方ない。好きな人を守りたい。ただそれだけ。年の差?そんなの知らない。だって、こんなにも溢れてる。器の中に溢れる愛を溢れさせたままでどうするの?伝えなくてどうするの。
「大丈夫。いっぱい触れて?」 私より遥かに大きな体は震えていて、今日は小さく見える。来るな近寄るな、とくぐもった声で繰り返す彼の言葉なんてもう聞かない。
ソファーに腰を下ろして、手をついて。ちょっとずつ彼の方へ身を寄せる。
「私をずっと愛して」
「――っ」
「愛していいんだよ?」
「……っお前は、馬鹿だ」
伸びた前髪の中に隠れた雫に気付かないふりをして私は笑ってみせる。
「はーい、赤点常習犯でーす」
「自慢げに言うな、勉強しろ!なんでこんな男を……」
「だって好きなんだもん。好きになっちゃったんだもん。好きになりすぎて困ってるのは私なんだよ?どうしてくれるの」
俯いたままの彼の太股に片手をついて、髪へと手を伸ばす。クセのある髪は柔らかくて、頬が緩む。
「だから、ね?いっぱい抱きしめて、いっぱいキスして?」
髪の隙間から覗いた瞳は僅かに熱を帯びていて、女としての喜びが大きくなる。
「……後悔しても知らないぞ」
「後悔なら好きになった時点でしてるよ」
「やっぱり馬鹿だ」
「もー、馬鹿馬鹿言わないで」
「ばーか」
「もうっ」
子供みたいな会話の中でじゃれるように触れる初めての温もりに本当は緊張していて。一種の賭けのような行動に本当は泣きたくなっていて。初めて触れた彼の髪、頬、肩、腕、手。私の手からそのまま全部気持ちが伝わればたくさんの愛情を捧げることができるのに。もどかしくてもどかしくて。
「心臓うるさい」
「そっちだって手震えてる」
存在を確かめるように触れてくる手は優しくて、彼の緊張を直に伝える。顔中に降ってくるキスも優しくて、まだ互いの唇が触れることはなく額と額をくっつけて笑う。
「お互い様だね」
「お互い様だな」 初めて間近で見る笑顔はいつもの皮肉なものじゃない。何年も願ったこの顔。守ろうなんて思わなくていい。怖がらなくていい。私が守るから。何年も知らなかった愛情を教えるから。
「大好き」
「ああ」
「私の愛を受け止めて」
「俺のも受け取れよ」
「もちろん」
「……いっぱい愛してやる」
近付いてくる吐息に、私は瞼を閉じた――。
どうかあなたに、伝わりますように。
fin
読んでいただきありがとうございました。ツイッターの診断メーカーのお題からついのべとして書いてたものを加筆修正しました。もうちょっと、しっとりした風に書きたかったなあ・・・と。まだまだですね。




