パート17
「さ、さっきから何するのよぉ……」
「お前がいちいち騒ぐからだ。少しは隣人への配慮というものをしておけ。この寮の壁はあんまり厚くないんだから」
涙目になって叩かれた頭を押さえているネネを放置して、再び晩飯作りに専念することにする。まったく、こいつが来てからロクな事が起きないな……。
「心配しなくとも、きちんとお前の分も用意している。大人しく待ってろ」
「え、あ、うん……」
さすがにフライパンで叩くのはやりすぎたかと思った俺は、水で冷やしたタオルでネネの頭に乗せてやる。それを受け取ったネネは、素直に戻って行った。
やれやれ。腹が減っているというならそう言えば良かったのに。
これ以上迷惑をかけられないように、俺はさっさと今日の晩飯を完成させるために少し急ぐことにする。
「……あたし、あいつに何を言おうとしたんだっけ?」
頭を少し強めに叩かれたネネは、ラットに投げかけようとしていた疑問をすっかりと忘れてしまっていた。まあ、いずれ思い出すだろうと深く考えないようにしていると、買ったばかりの本を読んでいるサラがいた。
(この子……本当に幻獣なのかしら?)
幻獣であるネネには、サラから感じられる気配が少しだけ違和感を感じていた。同じヒューマン型だというのに、どこか根本的な何かが違うのだと、幻獣としての本能が伝えてくる。
(もし幻獣じゃない何かだとするなら……ラットが戦闘カリキュラムとやらにサラを戦闘に参加させていないのは分かるんだけど……)
けれども、違和感を感じてはいるが同じ幻獣ということを、本能は云ってくる。
どこか矛盾しているけれど、確かにサラからは幻獣としての力がある。ラットにはサラとの契約紋章が存在しているから、幻獣であることには間違いないだろう。
だとしたらこの違和感を果たして、なにから感じているのだろうか?
「ねえ、サラ。あんたってラットのなんなの?」
本当はそのサラから感じられる違和感について聞きたかったが、どういう訳かサラとラットの関係について聞いてしまった。サラとラットの関係は傍から見ていると、ただの契約関係だけとはまったく思えないほどに親密で、深かったからだ。
「…………ラットは、命の恩人」
「恩人?」
「あと恋人」
「恋人ぉ!?」
「おいこら。何を勝手にねつ造してるんだ、サラ」
どうやら晩飯が出来たらしく、いつの間にか三人分のお皿が並ばれていた。
「……事実を述べただけ」
「全然違うからな。いいからさっさと手を洗って食べろ。ネネ、お前もだ」
「はーい」
ラットの命令に従い、二人は手を洗いに洗面台へと向かった。