そこにあると判っている地雷は誰だって踏みたくない
ヒカレクリスと共に買い物をした後、夕飯前にはみんなと合流。ゲートを開いて全員一緒に帰って来た。甲板では既に夕飯の準備をしていて、仲間がどんどん集まって来ていた。
アダマスオーロの街や町は地下に店が並んでいて、買い物をしていると時間経過に疎くなってしまう。だから予定ではもう少し早い時間に戻る予定だったんだけど……特に急ぐ約束は無かったから問題ないとも言えた。……まぁ、若干モヤモヤしている人もいるかもだけど。
「おかえり」と声を掛けてくれた人に挨拶しつつ、見通しの良い場所に陣取る。
「みんな、聞いて欲しい」
賑やかだった甲板が一瞬で静まる。
「彼女はスカウト枠のヒカレクリス。よろしく頼むね」
彼女が紹介されて自己紹介をしようとしたタイミングで、ミナコールの鞄の中から他の中位精霊同様の大きさで全身桃色の兎が現れて、メンバーの全員がそちらに意識を奪われた。
「居た! 【計桃騎士】の君!! ボクは時の中位精霊クロノ。契約して相棒になってよ」
サチカーラに近づいて、懇願する。
「あぁ、貴女がわたしに念話してきた方ね? する気は満々だけど、念のためにちゃんと契約内容を聞いてから……ね?」
結局、サチカーラは内容に問題ないので、自分の天職の力を引き出すためにも契約を結んだ。
時の中位精霊クロノは目的を果たすと姿を消してしまったが、どうやらサチカーラにだけは見えているらしい。契約内容も他の精霊同様だと予想通りだったので本人も結構好意的に契約を結んだようだ。
……という事を今聞いた。
ちなみに現在はヒカレクリスのチーム入り記念で恒例の女子会の最中。
「それで、ヒカレクリスさんの天職って?」
「わたしの天職は【影法士】。結構強いスキルが揃っているよ」
丁度、ユニーク職のスキルについての話になった。
「具体的には闇属性の魔法のような効果をスキルで使える感じだよ」
影から影に移動する事や影縫いという拘束能力もあるという。
「でも、これの一番大きなポイントは魔法じゃないって事ね。魔法じゃないから呪文詠唱も不要だし、精霊の影響も無い」
例えば魔術系であれば呪文詠唱は必須。即時効果は無理だし、詠唱妨害されれば発動失敗に終わる。精霊系であれば闇がある所には闇精霊は存在するけれど、自然にできた闇でないと精霊は存在しない。……スキルはその影響が無い。
「だから、魔法の力でも何でも影さえあればスキルは発動するの。ただ、リスクもあるから種仕掛けがバレる前に決着を付けたい。長期戦には不向きなスキルだとは思う」
うろ覚えだけど、影には闇精霊は存在せず、闇精霊は闇にしか存在しない。それを考えると発動条件が違う事が何か問題あるのかもしれない。……思いつかないけれど。
もちろん初めて聞く天職だし、どう成長するのか推測もできなかった。
「ところで、サッチンも契約したんでしょ? その【計桃騎士】ってどんな事ができるの?」
サチカーラは時の中位精霊クロノと契約をした。つまり、精霊魔法が使えるようになったという事になる。
「主にできる事は魔法で対象の処理速度を下げる、停止する……かな」
「速度を上げるのは?」
「魔法としては存在するけれど、身体が壊れるって。使うなら奥の手みたい」
……多分5%アップくらいなら大丈夫な気がするけれどね。
「そういえば、さっき念話が云々言ってなかった?」
「実は砂漠で戦闘したでしょ? あの時からクロノには話し掛けられていたの」
「精霊って自分の意思で移動は可能だろうに、何故動かなかったんだろう?」
素朴な疑問。でも、その答えをサチカーラは知っていた。
「時霊石に憑いていたらしいんだけど、城の宝物庫には封印が施されていて、外へ出られなかったって話していたよ」
……まぁ、“霊珠の錆杖”なんて物騒なモノまで入っていたくらいだし、封印しておかないと危険なのは間違いない。それも、もう問題ないんだけどね……。
そんな事より、残りの転生者2名をどうするべきかをずっと悩んでいた。
何も考えずに感情のまま決断するならば、2人は仲間に加えない。
サヤカーラはユーマオロと結婚できなければ死ぬ運命にある事を知りつつ、折角転生した2度目の人生をしっかり謳歌したいと考えている。何より、今の自分の周囲の人間関係を捨ててでも生き残りたいと考えているタイプではない。
……何より、シャワールとの前世の因縁がある。
一方、モモニウレーラは割と自分本位で【杯の乙女】というチートの可能性を秘めた優秀な天職と『次期国王の初恋の人』という美味しいポジションを最大限に活かして、スローライフの真似事のようなモノに憧れている。
多分、戦記モノより開拓モノの異世界転生作品が好きなのだろう。
……何より、素の彼女と仲良くできる自信がない。
そんな2人を仲間に入れたいと思う理由がない。それでも悩んでいるのは、2人とも仲間に加えないという選択をした結果、攻略が詰んでしまう可能性があるかもしれないから。
それに結構面倒なのが、ユーマオロは2人を大切にしていて、1人でも引き抜けばユーマオロ本人は当然ながら、アダマスオーロ国民にも恨まれるかもしれない。
時間も迫っているし責任を1人で背負いきれない俺は、それをこの場で相談してみた。
「……という状況でずっと悩んでいるんですわ」
女子会も終盤。多分最後のお題となるだろう。俺の悩んでいる状況を説明した。みんな複雑な表情で話を聞いている。……重い話をしている事は重々承知ではある。
「『邪竜討伐軍』の進み具合から考えて、そろそろタイムリミット。そして、どちらを選んでも死人の出る可能性は高い」
ここには転生者しか居ないからこそ相談できる内容で、このタイミングを逃せば出国するまで相談する機会はできないだろう。
「もちろん、ルートによっては死から回避できなくもないけれどさ」
幸いにも2人は『竜騎幻想』の未プレイヤー。正規ルートを知らないから固定観点に縛られていない。知っているのは薄い情報のみ。
……死んでしまうルートも知らないから、回避する事も難しい。
「難しいね。2人とも助かる正規ルートは無い。2人とも助かる方法は2人のユニーク職の力を駆使する事くらい?」
サチカーラの問いに頷く。
「良いんじゃない? 今回は選ばなくて。……だって、話を聞いている限り誘っても来ないよ」
ヒカレクリスの一言。確かに誘って付いて来るタイプではないんだよね。
出国準備は着々と進んでいる。それでも、俺は最後の決断ができない。
……人の命が懸かっているのだから、最後まで悩んだって良い。だって、懸かっているのは2人の命だけではなくて、下手したらナッツリブア大陸に住む全ての命だから
「まだ悩んでいるの?」
「そりゃ、悩むよ。ヒカチこそ、どうした?」
甲板で考えに耽っているとヒカレクリスに話し掛けられた。
「みんな忙しそうで、所在に困っているだけ」
そんな彼女に気分転換として船旅の退屈具合は前世より大変だと教えてあげた。
準備は今日中に完了し、明日には出国する。
ちなみに俺はただ悩んでいたわけではなく、新たに判った事もある。
“霊珠の錆杖”とは『竜騎幻想』において敵ユニットのアンデッドを統べる冥王の代行者……ボスキャラが持つ超強力なNPC専用の杖という認識だった。だから、アンデッドがそれを奪いに王都へ攻め込んだのだと思っていた。
違った。合っていたのはアンデッドを呼び寄せていたのは、“霊珠の錆杖”だったという推測だけ。普通に他の人も持っていた事もあって、ただの強力な杖という認識だったのに……手に取った瞬間、聞こえたんだよ……[種族確認……適正確認……思考同期成功。これにより所有権が正式にユニット名『サクリウス=サイファリオ』へ移行されました。適応を開始します。個体名を変更して下さい]って。
……だって、これまでのパターンから神器は誰も持てないって思うじゃん?
そんな事を考えていたら、街中なのにドッスドッスと甲板の上からでも音が聞こえてきそうなくらいの勢いと土煙でドラゴニュートが走ってきたかと思うと、跳躍して看板の上に飛び乗る。橙色の鱗が日の光を浴びてキラキラ輝いて、その上に武装したシューリアと、背後に黄髪黄瞳の少女が乗っていた。
「サクリウス様、間に合った?」
「うん、出発は明日」
出国準備で営業していなくて良かった。もし、お客様がいたらと思うと事故っていたかもしれない。
「この子は、わたし直属のメイド予定の見習いで友人のサトミサーナ。2人でチーム入りしたいの。姉さん達も連れて来ているし、良いよね?」
「多分大丈夫。でも、正式には全員の許可を得てから。まずは、ドラゴニュートを厩舎に入れないと」
予知夢に見ていた事もあり、シューリア達は無事に仲間へ加わった。
結局、シューリアとサトミサーナの部屋の準備をしていて時間が潰れた事もあって、2人を誘うのを諦めた。
特にサトミサーナは彼女と同じ歳だけど、まだ誕生日前。未成年な事を知ったのが冒険者カードを作りに行った時だったから、驚きもあって誘いに行くタイミングを完全に失っていた。
……国王に詰められるのが怖かったわけじゃないよ? ……本当だよ?
でも、腰が重かった理由もある。1つは2人とも『竜騎幻想』とは違って、国にとって重要な人材になっていた事。もう1つが2人とも冒険者になる事に対して関心がない事だった。
最後の決め手は、ベヒーモスの言葉なんだけどね。
「出航!」
マリリシャが指示を出すと船はゆっくりと離岸していく。その様子を甲板から見つめているわけだけど、今回は少し不安だった。
「まだ悩んでいるの?」
「いや、悩んでいるというより、俺の選択は正しかったのか不安でさ」
シャワールの問いに答えるも、今更どうしようもない。悩むだけ無駄なのも知っている。
「2人の命に関わる事だしね」
「でも、2人はユニーク職なんでしょ? 自分の道は自分で開けると思うよ」
……まぁ、俺もそう思っている。
そんな事を考えている間にも船は東の隣国、イグニファイ王国へと向かい始めていた。
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