あの時に逃がした巨人族の少女は無事に里へ辿り着く
早朝、単身で王都へ向かう。移動時間短縮の為だ。
漆黒の天馬シャドウメイデンでの移動は天気が良い日に限り、寒さと引き換えに国内の移動であれば1日以内に移動が可能。シャドウメイデン固有特性ではあるが闇耐性があって夜間飛行も耐えられる……得意ではないけれどね。
ゴムのない世界はタイヤが固く遠距離移動が大変だ。代替素材は心当たりがあるけれど普及には時間が掛かるだろうし、俺が率先して世界観を壊す気にもなれない。
……それにしても。
ユイリーナの予知夢を見たから尚更だけど、今回のユーマオロからの依頼は高確率でメインシナリオのオネーサンドへの護衛依頼。これ、本当はムッチミラがやるべき仕事のはずだ。
「……アイツ等、何してるんだ?」
そりゃ、ゲームじゃないんだからシナリオの強制進行のようなモノは無いけれど……これまではストーリーをなぞるように進行していたのに。
そんな事を考えている内にエレツテーレに到着。ペトラフェルゼンに比べればスエロランドに近いので、数時間で到着した。
町の中央にある王城グランダイナ。門番に声を掛けると胡散臭いモノを見る態度だった彼が血相を変えて戻って来て、中へと通される。
……常識的に考えて、連絡した翌日に来るわけがないんだよね。
「やぁ、サクリウス君。近くに居た……いや、昨日の夜はスエロランドに居たよな?」
「そうですね。場所によりますが、単身であれば高速移動が可能でして……」
無事にユーマオロと再会して、世間話を少しした後で早々に本題を切り出された。
「オネーサンドは古くからジャイアント族との交渉に使われている村なんだが、それ故に治安が良くない。そこで冒険者を雇うことまでは確定していたんだが……急遽、モモニウレーラも行かなければならなくなったので、頼める相手を探して君にお願いする事になったんだ」
……台詞は似ている。違いは2つ。1つはモモニウレーラが同行する事になった事。もう1つが頼む相手が俺になった事。……本来頼むべき『邪竜討伐軍』が居ないからだろう。
「大丈夫ですよ。ただの輸送護衛ですよね?」
「あ~……あはは……最初に頼んだ時はそのつもりだったんだけど……」
「えっ?」
……まだ内容が変わるのか?
ガチャ。
ノックも無く扉が開かれる。……ここは個室の1つとはいえ王城内。そんな不作法は普通許されない。例外は緊急時……でも、俺にとっては緊急でも何でもなく、普通に不作法なだけだったと直ぐに気付いた。
「サクリウス様!」
俺を見つけると入ってきた彼女は俺が座っているソファーの隣に腰を下ろすとそのまま腕を回して抱き着いてきた。……1年くらい前の俺なら動揺しているところだが、慣れとは恐ろしいものだと悟る自分がいた。
「姉さん。はしたないですよ」
「あら? そんな生意気なことを言うなんて……『お姉ちゃん』って呼ばせるわよ?」
「……姉さん、今は仕事の話をしているんです。悪ふざけは控えて下さい」
「しょうがないわねぇ……」
入ってきたのは、アヤルンゼール姫。俺より5歳上の第一王女なのだが、何も情報がなければ年下の可憐な美少女に見えるロリ姉さんだ。……もちろん、それは俺視点の話。身内からはどう見えているのか、想像するとユーマオロが少々気の毒ではある。
「サクリウス様。明日から宜しくお願いしますね」
「……今、それを伝えるところだったんだよ。サクリウス君、実は更に姉さんも同行する事が決定したんだ」
「先に伝えてくれれば良かったのに」
「いや、昨晩の通信の後、その通信を姉様が聞いてしまって急遽決まったんだ」
……あ~……なんか、大変だな……いや、俺のせいでもあるか? ……ないよね?
「失礼します」
……はい?
俺は自分の目を疑う。そこに居たのはメイド服姿のユイリーナだったから。リョーコロンもだけど、ユニットの成人後の進路、変わり過ぎてない? これも転生者達の仕業なのか?
思うところは多々あるが、どれも根拠がない言いがかりである事は解っている。……それでも口に出しさえしなければ、疑う自由はある。
「紹介するね。彼女はわたしの専属メイドでユイリーナ。彼女の実家がオネーサンドにあるから一緒に付いて行くの。地元の人がいる方が都合は良いでしょ?」
予定されていた話と違うのだから、もしかしたら彼女の生い立ちも変化があったかもしれない。……聞いてみたいけれど今は難しいか。
「専属メイドのユイリーナです。姫様の護衛も兼ねています。宜しくお願いします」
「サクリウスです。よろしくお願いします」
その後打ち合わせをして、翌朝にはエレツテーレを出発し、オネーサンドへ向かった。
道中は何も無かった。何と治安の良い街道なのかと……クリスタークは見習うべきだとは思うが……多分無理だろう。
アヤルンゼールが言うには、街道を外れれば国内であっても野獣や魔獣に襲われる可能性はあるらしい。……いや、冒険者の立場からすれば街道が安全なら問題ないって話。
「到着か……」
エレツテーレから西北西に馬車移動で1泊2日。その一泊も近隣の村で家を借りて休んだため、実質野宿無しで着いた。
幸いだったのは、夜間の見張りをユーマオロが連れて来た王国兵団がしてくれた事。おかげで夜間はぐっすり眠る事ができた。
でも、もしも『竜騎幻想』と同じストーリー進行であれば問題はこれから。
砂漠の村オネーサンドに到着。でも、多分セルケティオ族の襲撃があるはず。
……先に呼んでおくか……。
少し席を外す旨を告げてから〈マーク〉したチャクラムを村外れのサボテンに突き立て、船に帰る。
レベル上げが必要そうな人材を優先という事で、マミルリーヌ、リョーコロン、ルイ―リス、アイナッツ、ミハーナル、アヤカシア、ミューディア、サチカーラ、ナツキヨノ、コトリスティナ、カナエアリィとニチリカ……それに本人の強い希望でイクミコットを連れて戻る。
どうせセルケティオ族相手なので物理戦闘系メインで大丈夫だろうという読みで。
「お帰りなさい、サクリウス様。王子がお呼びです」
戻ってきた俺を見つけたユイリーナから聞き、ユーマオロ達が話し合いをしている建物へと向かうと入るようにと兵士にも促された。
「失礼します。サクリウス様が参りました」
「入ってくれ」
部屋の入り口にも見張りの兵が立っていて、俺が行くと兵士が扉を少し開け確認すると直接聞こえるユーマオロの声で呼ばれたので、中に入る。入れ替わりで兵士が外へと出た。
「君がサクリウス=サイファリオか?」
そう声を掛けてきたのは大柄な男性だった。身長は2メートル越えの大男。
「そうか……なら、是非里へ招かなければならない。新しいヒューム族の代表一行を招待する」
俺が肯定すると、彼はそう言って席を立ちあがった。
……どういう事?
説明無く彼等は席を立ちあがると建物から出て行く。その後に続いてユーマオロを含むこちら側の面々も出て行く。……どうやら、俺が部屋に入る前から段取りは決められていたようで。
外に出ると仲間も王国兵団も砂漠の淵に集められていた。
ジャイアント族の3名はこちらに背を向け、砂漠の方を向いて羽織っていた服を脱ぎ……全裸になる。布一枚の下が下着なしの全裸である事に内心動揺しつつも、彼等は砂漠へ一歩踏み出す。
その瞬間、身体が徐々に大きくなり、10メートルオーバーの巨人となった。
……一瞬、ユイリーナの怖い顔を見てしまったが……見なかった事にしよう。やっぱり過去の設定までは改変されていないのか。
彼等は屈み、掌をこちらに出す。それを見てユーマオロが掌に乗ると、他もそれに倣って乗っていく。
個人的にはシャドウメイデンに乗って行けば平気なのだが……貴重な体験なので便乗して乗せて貰う。みんなの所に行こうとしたが、アヤルンゼールに止められて王家の方々と一緒に移動する事になってしまった。
「凄いな……」
まさに圧巻。移動速度も速い。上下の揺れが少ないのはジャイアント族の人達が気をつけて歩いてくれているのだろう。
「キャッ」
少し揺れる。……いや、一定リズムで歩いているのだから揺れるという表現が過剰に思える程の微妙なもの。それなのにアヤルンゼールは大袈裟に俺に抱き着いてきた。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。流石冒険者、体幹がしっかりしているのね。……フラフラして怖いので、こうしていて良いですか?」
上目遣いで頼まれる。……断れないので了承するけれど、色々想定と違い過ぎていた。
砂漠を移動する先に最初はオアシスが見えた。蜃気楼かと思ったけれど、本当にオアシスらしく、近づくと集落も見えてきた。
……もちろん、『竜騎幻想』には無い。というか、アダマスオーロの砂漠には遺跡『土霊王の古祠』直通ルートのみ。
集落の傍まで来ると、ゆっくりと地上へ下ろされる。つまり、その集落がジャイアント族の里なのだろう。
……そういえば、ジャイアント族の皆さんは何故移動中話さなかったのだろう?
ジャイアント族の彼等は後ろを向いて、ゆっくりと陸地に上がる。すると、身体がどんどん縮小し、会った時のサイズに落ち着いて上から服を羽織る。……あぁ、巨大化した際に服を破かないようにするためか。
そんな事に感心しつつ里長と紹介されたジャイアント族の女性とユーマオロによる挨拶が行われている。……うん、やっぱり畏まった公の場は苦手だ。行動を制限されるのも、敬語を使うのも、何かあったら大事になってしまう重圧も嫌いだ。……自業自得の自己責任で納得できる範囲でしか行動したくない。
……このまま一言も発する事なく、空気のような存在のままで堅苦しい挨拶が早々に終わってくれれば良い……そう思っていた。
「見つけた!」
結構な勢いで抱き着かれ、女性に抱き着かれた事は即理解したのだが、思ったよりも運動エネルギーが大きくて、その勢いのまま吹き飛んだ。
仰向けに地面に転がされ、覆いかぶさるように大きな女の子が四つん這いに跨っている。
「わたしの名はマリアキラ。グラヴィアスパシオで貴方に助けられたジャイアント族です」
……お、おぅ……当然憶えているけれど可愛くなっていて見違えた……無事に帰れたか。
「ありがとう、サクリウスさん」
「いや、助かって良かった」
「……わたしからも娘を助けて頂き、ありがとうございました」
「いや、俺は檻から出しただけですよ」
いつの間にか里長が近付いて来て礼を言われたので恐縮する……あれ? 娘?!
里長自ら手を差し出してくれて、手を取ると引っ張り上げられる。すると、背後から軽い力でぶつかられ、今度は随分小さな女の子に抱き着かれ、それには周囲も驚いていた。
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