本来ムッチミラはユーマオロを誘わないとは考え難い
シューイチェスタ登場により、アヤルンゼールは速やかに俺の膝の上から撤退していた。やはり、弟に見られるのは長女であっても嫌なのだろう。
全員が椅子に座ってくれた事で、シューイチェスタが話題を振る。
「食事、落ち着きました? 是非、話を聞かせて欲しいです」
「話か……でも、冒険譚って退屈しませんか?」
多分、シューイチェスタとユニットであるマレイゼリン、シューリアは関心が高い事は想像つくのだが……。
そう思いつつ、チラッとマミルリーヌとアヤルンゼールの表情を確認する。
「是非お伺いしたいです」
「サクリウス様のご活躍、是非お伺いしたいです」
……うーん、判らん。そりゃ、招いた冒険者に対し気分よくなって貰おうと自慢話を勧めるのは理解できる。でも、それ本心か? ただでさえ女性の表情から内心を読むのが苦手だしな。
「あ~、大丈夫ですよ。姉様達だって国外の事に興味ありますよ。それに、子供の頃に英雄を憧れるのは男女問わずですから、成人した今でも冒険譚を嫌う者なんていませんよ」
「解りました。それじゃあ、何を話したら……」
少なくともナッツリブア大陸の子供は幼い頃に1度は英雄に憧れる。英雄譚が好まれるのは聞く事で童心を思い出す事ができるから。……ただ、王家の人もそうだとは思っていなかった。
バンッ!
再び派手に扉が開かれる。
5人居るなら、最後の1人も来るだろうとは思っていた。
「1人くらいは俺を呼んでくれても良いのになぁ……」
「兄さん……お客様の前ですよ」
マレイゼリンが軽く注意するが、彼は悪びれもしない。
「君が妹を救った噂の冒険者君か! 俺はユーマオロ。よろしくな」
……よく知っているよ。アダマスオーロ王国の主人公君。
「サクリウス=サイファリオです」
立ち上がって頭を下げる。
「あ~、堅苦しい礼儀は気にしなくていい。礼をするために招いていると聞いているのに、冒険者に気を使わせるのは違うだろ?」
「そうね」
「そうそう」
ユーマオロの意見に、即マレイゼリンとシューイチェスタが同意する。
「あっ、いけね。……2人とも入ってくれ」
彼の呼びかけに女性が2人入って来る。
見た目には無いけれど、心当たりはある。
「紹介する。彼女はサヤカーラ=S=ウェイブライト。ここから北方にあるペトラフェルゼンを治めるウェイブライト家のご令嬢で婚約者だ」
紹介されるが、彼女はペコリと頭を下げるだけ。
「そして、こっちは俺の専属メイドのようなもので、モモニウレーラ」
「モモニウレーラと申します。御用の際にはモモとお呼び下さい」
そう言って、彼女は丁寧にお辞儀をした。
「……国外から来たゴールド級冒険者のサクリウス=サイファリオです」
……自己紹介を含んだ挨拶は一度で済ませたい……仕方ないのは判っているけれど。
「顔を出すのが遅くなったのはサヤカーラが城に来ていたからなんだ。ただ、俺がこっちを気にしているのがバレて、一緒に来る事になったんだ」
そう説明されると、サヤカーラは苦笑する。
……まぁ、予想通りではあったけれど……こっちも予想以上の美人さんだわ……。
『竜騎幻想』でのアダマスオーロ王国内の人気ストーリーである『ユーマオロ王子の恋の物語』。内容は連続クエストで女性人気の高いクエスト内容になっている。
……まぁ、女性プレイヤー人口そのものが少ない上に、戦略SRPG故にプレイヤーによるイメージ補正を必要とする内容にはなっているけれど。
実際、連続クエストの内容より高クオリティーな薄い本が沢山売られていた。
ここではあえて彼は言っていないけれど、王族ウェイブライト家令嬢が何故婚約者に選ばれたかというと、財政問題による政略結婚のための婚約な事と、彼女が王家の血筋ではなく嫁いできた者の連れ子だから可能となった縁だったりする。
一方、モモニウレーラは国王の専属執事の娘で、王子の初恋相手だったりした。
「そろそろ話を聞きたいな」
「それな!」
シューリアにシューイチェスタが同意する。
「じゃあ、どんなのが良いですかね?」
「サクリウス様が経験した最大規模の戦闘をした話が聞きたいです」
マレイゼリンに言われ、最大規模の戦闘とは何だったかと思い出そうとする。
「大変な戦闘は結構あったけれど、大規模となるとレイアール王国のメタルガングでのパラサイトギア大量殲滅戦かなぁ……」
「何ですか、その心躍るタイトルは?」
そう尋ねたマレイゼリンだけでなく、姉妹4人ともにグイグイと俺に迫って来る。距離が近すぎてドギマギするけど、多分これって〈女運の加護〉の影響だろうしなぁ。
一番派手な戦闘になったと思われる話を飽きさせないように微妙に脚色して喜劇調にして話す。【話術士】の見様見真似だったりするが、楽しんで貰えたようだ。……1人を除いて。
「……とまぁ、こんな感じで無事に町を守り切る事に成功したんですけど、かなりギリギリな感じでした」
「凄い」
「……4人による超広域殲滅級魔法……想像するだけでゾクッとするね」
マミルリーヌとアヤルンゼールだけ感想を口にするが、聞いていた全員が興奮しているのは伝わる。
「それにしても凄いな。アークオークを一撃? 本当だったら大陸最強の1人になるんじゃないか?」
「いやいや。事前に強化もして貰ったし、補助や牽制もして貰っているからできた事です」
ユーマオロの賛辞に一応謙遜する。しかし、彼の賛辞に含みがあるように感じられた。
「これは是非、手合わせをお願いするしかない。こんな機会はそう無いだろうからね」
返事をする前に庭へ出ていく。……これは断れない感じなんだろうなぁ……。
部屋からテラスに出て、そのまま庭へ。
何時の間に現れた執事が訓練用の木剣を持ってきて、ユーマオロがそれを受け取ると1本を俺に寄越した。
「本当にやるんですか?」
「もちろん。先程の話が嘘でなければ臆する必要もないだろ?」
……あるんだよ。王子様を怪我させる事。場合によっては理不尽な不敬罪なんだが?
「わかりました」
適当に相手してギブアップしてくれれば良いか……。
「始め!」
モモニウレーラと名乗ったメイドが開始の合図をする。すると、ユーマオロが思ったより早い動きで突きを入れてきたが、それを最小限の動きで避ける。
実力があればある程判り易い動きで実力差を見せて、王子を傷つける事無く悟って頂く作戦なのだが……かなり好戦的っぽい。
言うなれば、この試合は茶番である。
俺の記憶ではユーマオロの天職は【戦士】だ。しかもレベル1ではなく、結構高めのレベルだと思う。でも、所詮はレア職だ。
『竜騎幻想』はステータス差の影響がエグい仕様だ。天職による相性や地形による相性もある。でも、流石に1段階進化と3段階進化ではステータスの差がありすぎて、余程育成に失敗していない限りひっくり返る事は無い。
「……掠りもしない……」
「息があがって来ましたね? そろそろ終わりにしましょう」
木剣をぶつけて怪我をさせる事を恐れ、俺は彼を転ばせて喉元に剣先を突きつけた。
「参りました」
ユーマオロの一言で、サヤカーラとモモニウレーラが彼の元へ駆け寄る。それを微笑ましく見ていたら見覚えのあるメイドさんがこちらに来た。
「あれ? ……貴女は?」
「マレイゼリン姫の専属メイドでサユミズキと申します。コボルド襲撃の際はお世話になりました。こちらで汗を拭って下さい。それと、木剣をお預かりします」
「ありがとう」
……汗かく程では無かったけれどね。
「しかし、完敗だった。手も足も出ないとはこの事か。妹達を狙う口だけ男かと思っていたが、本物なら歓迎せざるを得ないな」
……あ~、俺の事を姫様狙いと勘違いしていたのか。
「また、手合わせして欲しい。……サクリウス殿が良ければだけど」
「うっかり怪我させて、不敬罪で捕らえられなければ」
そう言いながら笑うと、彼も苦笑する。
「そんな事で罪にしていたら、俺の稽古相手が居なくなってしまう」
「それはそうですね」
彼は近づいて来て手を差し出されて、しっかりと握手をした。
何度帰ろうと思っても解放されず、夕飯をご馳走になった後に手洗いを借りる。
ただ、不思議に思う事が1つある。……何故、ユーマオロがまだ城に居る?
ユーマオロは見た目が良く、天職は【戦士】だけど、【剣豪】にも【駆戦士】にも進化するキービジュアルを飾る主役級キャラの1人であり、強ユニットでもある。
北周りであれば必須で仲間に誘うキャラであり、南周りでも育てやすい強ユニットなので、あの男好きと思われるムッチミラが仲間に引き入れなかった事が理解できなかった。
……流石にあの空気で「『邪竜討伐軍』に誘われませんでしたか?」って聞けないし。
「それにしても……あんなキャラだったっけ?」
思わず声に出てしまって慌てて周囲を確認しつつ、彼が連れている2人の方が気になった。
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