思ったより早かった邪竜王復活と【剣の乙女】出現の噂
ブライタニアで暮らすようになって半月。7人パーティで活動しているが、申請するだけで上がる階級はわざとアイアン級のままで過ごしている。
「気のせいか、街が普段より賑やかですよね?」
「……そうだね」
隣で歩くサティシヤが不思議そうに周りを見回して聞き耳を立てているように見えた。
今日もそうだが、ここ最近は戦闘での連携確認とレベル上げを兼ねて、ユミウルカの欲しい素材を採掘しに坑道とを往復する生活を繰り返している。
坑道での採掘は1泊2日の行程になるので、この2日間の間に何かあったのかもしれない。
「気になるなら探ってこようか?」
前を歩くクレアカリンが振り返って尋ねるが、俺は首を横に振る。
「いや、疲れているだろうし。かなり流行っている話題そうだし、“朽ちぬ日輪”亭でも聞けるかもしれない」
「戻ったらお父さんに聞いてみますね」
シオリエルはそう言ってくれたが、俺には心当たりがあって嫌な予感がしていた。何故なら街の雰囲気がお祭り騒ぎという感じでは無く、安堵感というか、若干の不安すら感じるから。
「しかし、ビックリ。もう全員がレベル2だよ?」
シオリエルと共に後ろを歩くアッツミュがタイミングよく話題を変える。それに都合よく便乗する。
「そうだね。みんなが指示を聞いてくれたおかげだから、正直助かるよ」
彼女もこの半月の間に仲間と馴染んで、仲間しか居ない時は本来の性格で過ごせるようになっていた。……本人曰く、かなり猫を被っていたそうだ。素の方が可愛いと思うんだけどね。
レベル上げに関しては知らなくても思いつくようなゲームでの常識の話で、チーム内にレベル差があると適性の戦場が判らない。故にチーム内ユニットはレベルを合わせた方が良い。まぁ、あとはゲームと違って普通はユニットに細かい戦闘指示は出せないが、何故かみんなはちゃんと聞いてくれるので、ゲーム程の精度ではないにしろ、充分すぎる成果を得られていた。
「半信半疑だったけれど、ちゃんと魔法の火力が上がる方向で能力値が上昇していたし、何より戦いやすいです」
先日、冒険者支援組合で冒険者カード更新の後のアッツミュはカードを眺めながら、ずっとニヤニヤしていたからな。
……順調に冒険者生活を送れているように思えるが、そろそろ何かありそうなんだよなぁ。
「ただいま~」
「おかえり、シオリエル。皆さんもお帰りなさい」
“朽ちぬ日輪”亭に帰って来ると、その流れで一度部屋に戻る。シオリエルは出迎えてくれた親父さんと俺達の夕飯の支度をするのだろう。その作業だって彼女にすれば経験値稼ぎになるのだから……と、思っていたのだが。
「理由、判りましたよ!」
寛いでいたらシオリエルの方から部屋を尋ねてきた。最近は、ユミウルカも夕飯までは一緒に同じ部屋で過ごす。そして風呂に入ってから帰るという生活サイクルになっているから、部屋にはチーム全員がいることになる。
「どうやら、邪竜王が復活したようです。……厳密にはルエウーザ族が発見されたんですが、その人が邪竜王は復活したと言っていたそうです」
……あやふやではあるけど、それもゲームのシナリオ通りだったりするんだよな。
「えっ?!」
驚いて硬直する面々。まぁ、これが普通の反応なんだよな。ただし、俺と何のことか判っていないマオルクスは除く。
「……冗談だよね?」
「ううん、残念だけど事実だよ」
アッツミュの問いは、あっさりと否定される。……まぁ、事実だしな。
「でも、その情報を知るに至った経緯があって。実際に国内に現れたそうですよ、噂通りの金髪金眼な【剣の乙女】。報告を受けて即、彼女を迎えに行かせて至急城へ召喚したそうです。そうなると、邪竜王が復活していないのに【剣の乙女】が現れたのかって疑問が噂になって、それに対しての答えが実は……という流れなんですよ」
邪竜王の復活の噂と【剣の乙女】の出現はメインシナリオの始まりを意味する。正直、思ったより出現が早かった……もう少し強くなっておきたかったんだけど。
「そうなんだ。その人の名前は?」
「えーっと、フルネームは知らないですけど、ムッチって呼ばれていたそうです」
ゲームでは名無しだから、攻略サイトではネタ名を付けるんだよなぁ。でも、おかげで今後は【剣の乙女】って呼ばなくて済む。
「ムッチねぇ」
「興味あるの?」
「……うーん。まぁ、あると言えばある。ただし、絶対に関わりたくないという意味で」
クレアカリンの問いに正直に答えると意外だと顔に書いてあった。
「本当に『邪竜討伐軍』に入りたくないんだね」
「ねぇ、お兄ちゃん。その【剣の乙女】っていうのは流石に聞いたことがあるんだけど、どういう人?」
……同じ年齢なのに、すっかり俺を「お兄ちゃん」と呼び慣れたマオルクスに俺もかなり慣れてしまっていた。
「どういう人って……難しい質問だな。俺、会った事無いし」
もちろん、そういう意味で聞かれたわけではないことはわかっている。でも、ここで話すわけにはいかないだろう。
「そっかぁ……お兄ちゃん、ちょっと付き合って」
「ん?」
強引に部屋の外へ連れ出されたが、他の連中が追って来る気配がない。疲れているからか?
「……ごめんね、サクリ君。ちょっと気が利かなかった。それで?」
「まぁ、すれ違いで聞かれる程度であれば何を言っているか解らないか」
“朽ちぬ日輪”亭を出て、適当に散歩しながら質問の答えを求められる。
「【剣の乙女】っていうのは、『竜騎幻想』の主人公だよ。デフォの名前は無い。この世界ではムッチと呼ばれているらしいけど」
「あ~、ヒカリちゃん?」
「そうとも呼ばれているね」
この世界の金髪は日中のみ仄かな光を発する。明るいところでは目立たないのだが、屋内や洞窟内だと露骨に輝いて見えるんだよな。それが、その名の由来である。
マオルクスは前世が『月天』と呼ばれる有名コスプレイヤーでゲーム名とキャラ名くらいなら知っていたわけで。……それでも全員を知っているわけではないだろうけど。
「主人公だから当然自我は無くて、プレイヤーの選択がユニット達の人生を左右させる。声優は有名な人で主に少年役をやっているイメージの方なんだけど、収録されている声は凛々しい女の子ボイスなんだよな」
「サクリ君、声優の話は良いから」
「ゴメン、オタク出てたわ。その【剣の乙女】の目的は大陸内に散らばっている複数の伝説の剣を集めて回るために仲間を集めて、最終的には邪竜王を討つんだけど……」
「だけど?」
「攻略情報を知らないプレイヤーは間違いなく多くのユニットを犠牲にする。それが発売されて暫くの間クソゲー認定されていた理由だし、間違いなく『邪竜討伐軍』に加わった連中は彼女の選択ミスで犠牲にさせられるよ」
「そうなんだ……それが『邪竜討伐軍』に加わらなかった理由なんだね」
本当に知らないと無理だしね。よく配信者には攻略情報知らずに初見でプレイする配信をやってた人もいたけど、最後までクリアできた人知らないし。途中でだいたい詰んでたからな。
「そういうこと。俺に言わせれば自殺志願のようなものだよ、あそこは」
「……わたし、かなり危なかったね……」
マオルクスは王子の娘の代わりに『邪竜討伐軍』に加わる予定だったからね。
「ここだけの話。俺の目的はその危ない人を救いたいんだよね」
「そうなの?」
「悩ましいのは、ムッチさんが頑張って邪竜王を討伐してくれないと世界が終わるんだよね。具体的にどうなるかは判らないけれど、支配される側の末路なんて歴史的にも想像できるでしょ?」
「だから、戦力を前もって削げないって?」
実際、育て方でユニットの成長は化ける。加えられるユニット数も沢山ありすぎて、俺も推しユニットくらいしか育て方を把握していない。もちろん、ある程度はセオリーみたいなものがあって、どんなキャラでも鉄板な育て方はあるけれど、尖った成長を見せることもないんだよな。
「そう。そのムッチさんって人の攻略の癖がわからないからね」
……実際、既に不安要素はある。
近々……チュートリアルの終わりに近くでトロールの集団による襲撃事件が発生する。その際に初期ユニットを除いて最初に仲間に加わるユニットがいる。
アミュアルナ=リップルト……俺の推しユニットの1人である。
彼女は【風水士】の次に多い【戦士】ユニットであり、メインシナリオ序盤では重宝するユニットである。その理由が装備次第で強くなれるユニットだから。
ただ、それも序盤だけの話。中盤に入る手前にはユニットも揃ってきて、能力値的に上位互換の他の【戦士】ユニットも増える。そうなると、主戦力としての彼女の出番は終わる。そうなったユニットの使い道は囮か生贄かと相場が決まっている。
それ以前に仲間に加われるかどうかが問題なんだけどね。知らない人は割と見逃すんだよな、彼女のこと。
「……アミュアルナさん、どうなるかなぁ」
思わず、ボソッと呟いた。
「あっ、その名前聞いたことある! 可愛いよね」
「うん、可愛い。……育て方に癖があるけどね」
実際、多くのプレイヤーが彼女の強さと手間と仕事が重複される別ユニットを天秤にかけて、ほとんどが育成放棄している。
「そうなの? 可愛いからコス仲間には人気だったよ?」
「それはとてもよくわかる。ウチ等のチームでもそうだけど、ゲームでも序盤で必要なのはタンカーなんだ。盾戦士が重宝しすぎて漏れなく【戦士】は盾戦士として使い倒してしまうんだけど、アミュアルナはそうやって使い潰すと、そこまでのユニットになってしまうんだ。強くするには、盾戦士をやらせないように装備や戦い方などを工夫しないといけないんだけど、戦力的にはタンカー不足でかなり苦しいんだよね」
説明はしてみたものの、マオルクスにはピンときていないようだ。こればかりは未プレイの人には理解され難いのかもしれない。
「よくわからないけれど、大変なのはわかった」
「……多分、それで充分だと思う」
自分で説明していて何だけど、かなりマニアックだとは思う。要は普通に『邪竜討伐軍』に加わったら高確率で不幸になるという話なんだけど……理解して貰えただろうか?
「ねぇねぇ、それで、そのアミュアルナちゃんは仲間になるの?」
「いや。まず『邪竜討伐軍』にスカウトされるなら、俺が止める義理はないし、戦力大事だからね。スカウトされなかった場合でも、俺から誘うことはないよ」
「……意外。サクリ君なら絶対誘うと思ったのに」
……うーん、俺の事をかなり誤解しているんだよなぁ。
「うーん、二次じゃないからなぁ。推しは幸せそうに生きているだけで良いんだよ。関わりたいとか、そういうのは違うんだよなぁ」
「本当にただのファンだね」
……こちら側からの視点だとな。相手からしたらストーカーになりかねないから気を付けないと。何せ相手は芸能人でも配信者でもないから。
「でも、アミュアルナの一番の問題は加入時イベントなんだよ。もし、存在に気づかれなければ彼女は死亡エンドだからね」
「えっ? それは助けないと!」
「当然でしょ。推しのためなら身体を張ってでも助けるに決まってる」
……まぁ、問題はムッチではなく俺が助けて大丈夫なのかってことなんだけどね。
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