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増えていく仲間と蓄積されるトラブルフラグ

「ご馳走はできないけれど、折角集まったのだし親睦会ということで」


 アイアン級冒険者の店“朽ちぬ日輪”亭の1階。酒場として経営されているのだが、客は俺達以外いない。一般の人々からすれば、あらくれ者と変わらぬ冒険者が集まる物騒な店で酒を飲もうとは思わない。また、冒険者としては好んでアイアン級の店を利用しようとも思わない。


 シオリエルが言うには、実際“朽ちぬ日輪”亭はギリギリの経営らしい。今も、酒場だけでなく、店全体が俺達の貸し切り状態だという。


「「「「いただきま~す」」」」


 クレアカリン、サティシヤ、ユミウルカ、マオルクスの声が重なり、少し豪華な食事会が始まった。ちなみに、シオリエルは店の手伝いである。レベル2に上がってステータスが上昇したことでやる気に満ちているのかもしれない。


 テーブルには牛肉のステーキやフライドポテト、マカロニサラダなどの日本でも馴染みな料理が並ぶ。……そう、『竜騎幻想』を作ったのは日本のゲームメーカーなので、出てくる料理も聞き覚えのある食材を使った馴染みの料理が多い。……何も知らずに転生したマオルクスは記憶が戻った時にかなり不思議に思ったらしい。


「ねぇ、サクリ君。わたしもここで暮らすことにしたの。お母様の了承も得たから」


 俺の膝の上に陣取る8歳児の一言が賑やかだった食事の音を消した。


 ……何故だろう? 俺は今、とても嫌な予感がするんだ……。




「また、面倒な問題が……」


 クレアカリンが頭を抱える。


「……?」


 リアクションの意味がわからず、マオルクスは俺に視線で説明を求める。


「あ~、まず自分の容姿を自覚するところから考えてみようか?」


「うん?」


「……8歳児が1人で1部屋借りているという状況は違和感しかないでしょ?」


 ユミウルカが思わずツッコミを入れる。


「あ~。じゃあ、保護者としてサクリ君が一緒の部屋で過ごせば良いよ」


「「「「それはダメ」」」」


 俺を除く全員の声がハモる。


「いや、実は何故か全員が同じ部屋で共同生活することになっていて……」


 我ながら意味不明な説明である。


 これは俺の憶測ではあるけど、マオルクスは同じ境遇で秘密を共有したことと監視対象であることが一緒に居たい理由だろう。でも、そんなことは全員知らないわけで。


「みんな同じ部屋? 女子部屋にサクリ君もいるの? そっちの方がダメだと思うけど」


 ……激しく同意します。


「わたしは、サクリさんにお金を出して貰っているから、負担を減らしたいの」


 サティシヤさんは気にしなくて良い……と言おうとした時、店の入り口が開かれた。


「……あの、お取込み中でしたか?」


 もう会うことは無いかなって思っていたアッツミュがそこに立っていた。




「全部終わりましたので、改めてご挨拶に来ました」


「……良かったら、一緒に食べないか? さぁ、遠慮せずに」


 女の子が俺の周囲に集まり過ぎるのは危険なことは重々承知しているけれど、律儀に報告に来てくれたアッツミュに対し無碍に扱う真似は良くないと思ったし、気づいてしまったのが全ての原因ではあるのだが、彼女の目が赤くなっているんだよな……多分泣いていたのかと。……わからんけどね。


「すみません、失礼します」


 招いたのは俺だが、彼女が席に着くと周りが色々世話をやいて、彼女の周りに食事が並ぶ。


「お~、ご馳走ですね。実は既にペコペコで……遠慮できなくてごめんなさい」


「いいんですよ。たくさん食べてください」


 シオリエルがニコニコ笑顔で勧めると美味しそうに黙々と食べ始めた。しばらくその様子を見ていたが、まるで急に思い出したかのように彼女が口を開く。


「ごめんなさい。美味しくて目的を忘れるところでした。荷馬車助かりました。ありがとうございました」


「うん。まぁ、レンタルだったし料金も払い済みだから大丈夫」


「わたし達の依頼主の関係者の方も感謝しておりました」


 依頼失敗は評判的に怖いモノなのだが、その依頼主の関係者はどうやら優しかったようだ。




「それは……運が良かったかもしれないですね」


「はい」


 シオリエルも同じことを思ったのか、新しい料理を運んで来ながら彼女に声を掛ける。


「もし、今後も冒険者活動を続けるのであれば覚悟するべきです。積荷は無傷だったとはいえ、依頼主を死亡させ、仲間も失い、1人生き残った。……当然悪評も流れるでしょうし、チームに入れて貰える機会も減るでしょう」


「そうですね。それは知っていました。……ですので厚かましい話だとは思うのですが、わたしをチームに入れて頂くことはできないでしょうか?」


 そう言って立ち上がり深々と頭を下げる。彼女の長い灰色の髪が背から零れて下に流れ落ちる。……微妙に震えている辺り、彼女も無茶を言っている自覚があるのだろう。


 俺はゲーム的な意味で【魔術士】の育て方を知っている。そして、現実的な意味でゲーム内では仕様上不可能な育成における必要な物資を調達する手段に心当たりがある。


 何より、彼女は没ユニットとして斬り捨ててしまうには勿体ない美少女だ。


「多分、心情的に複雑なのはシオチだろうから、シオチが決めて良い。どうする?」


 ……この場合、俺が決断しないことが女難フラグのフラグブレイクだったらいいなぁ。




 本音を言えば、保身的な意味でも他所で冒険者して頂いた方が良いのではないかと思っている。むしろ、シオリエルが仲間にいる時点で入れて欲しいと言ってこないと思っていた。


 だけど、彼女の境遇を考えると俺が断りたくない。というか、決断権が俺ならば断われない。それなら、一番因縁があると思われるシオリエルが決めて貰えば他は文句ないだろうと考えたわけなんだけど。


「わたしは仲間に加わって貰うべきではないかと思います」


「何故?」


「単純にわたし達は戦力不足だからです。もし、【重戦士】のコボルシフトと戦う事になった場合、わたし達はマオルクスさんの攻撃に依存しないと厳しい。それなのに、回復魔法が使えるのもマオルクスさんのみ。だったら、彼女を仲間に加えて攻撃を担当して貰った方が良い」


 クレアカリンの疑問に純粋なチームの戦力を分析した答えを返したことで全員を納得させた。


「じゃあ、決まりで良いね? アッツミュさん、チームに歓迎するよ」


「ありがとうございます……皆さん、精一杯頑張ります」


 再び、深々と頭を下げる。


「まぁ、アッツミュさんに落ち度は無かったと思うしね。それでも噂は広まる。頑張ろう」


 彼女が仲間に加わったことは嬉しさ半分、不安半分というのが本音だった。




 食事も終わってユミウルカが北のキャンプ広場へ戻るので、解散の流れになったのだが。


「あの、わたしもここで泊まりたいのですが、部屋は?」


「空いてますよ」


 シオリエルの父である店の主人がしっかり話を聞いていた。


「待って! 今、大きな個室を取ってあるの。宿代を浮かすためにもシェアするべき。そして、サクリ君は別部屋に移動するべきだよ」


 マオルクスの提案に2人の表情が明らかに焦っていた。


「あの、さっきも言いましたけど、わたしはサクリさんに宿代を出して貰っている身ですので、彼と一緒の部屋に泊まります」


 サティシヤが真剣な表情でマオルクスに伝えるが、その様子がとてもシュールだったりする。まぁ、ウチ等しかいないから良いけど。


「そもそも冒険者という職業はね、個室のある宿屋ばかりじゃないの。大部屋で寝ざるを得ない場合だってある。そんな環境に比べれば、サクリだけなら大部屋より安全だし、何より節約にもなる。男女別にだなんて、自分の身を守れないノーマル職の非冒険者かお金持ちくらいよ?」


 クレアカリンもサティシヤに追随する。……まぁ、確かに大部屋に比べれば女性視点ではそうだろうけど、無防備な美少女に囲まれているのに何もできない俺の立場も考えてほしい。これでは目の保養どころか、目に毒ですらある。


「お金の問題なら……」


「自分の稼いだお金で払えない時点で生活が破綻してますよね?」


 サティシヤの一言にマオルクスも言おうとした言葉を呑み込む。多分、マリーさんに出して貰うことを考えたのかもしれないが、それをしたら、マオルクスにとって冒険者は道楽と思われてしまうだろう。


「そういう方針でしたら、わたしもリーダーが一緒でも問題ないですよ? 冒険者になる時点で大部屋に寝る覚悟はしていますし、襲われても返り討ちにするくらいの力はあるつもりですから。仲間内で部屋を借りきっちゃうのであればむしろ安全ではないかなって」


 返り討ち以前に手を出すつもりは無いが? ……と、反論することも怖くてできん。




 押し切られる形で一番大きいとはいえ個室1部屋での5人による共同生活をすることが決まったわけだけど、風呂から戻ってくると部屋にベッドが1つ追加されていた。この部屋にあるベッドは元々キングサイズの超でかいベッドだったが、それでも3人で寝るのが限界だとは思っていた。


 ベッドは丁寧に2つ横向きに上下で付けられており、強引に1つのベッドとしてセットされていた。


「あの、ベッドを分けて別々に寝れば……」


「……無理ね、諦めて。サクリ君、モテモテね」


「モテてるのとは違うような気がするけど……」


 俺の提案にマオルクスが無慈悲の一言。彼女も理解できないと言わんばかりに皮肉が出てくるくらいだ。


 想定内というか、案の定というか、いざ寝るとなると、俺の環境は何も変わらない。それどころか8歳児姿だからと言わんばかりにマオルクスすらも俺を抱き枕にして寝る始末。……安眠できる日は遠いのだろう。


 ……それにしてもこのままでは身が持たない。依頼内容に耐えられるチームを作るためにも次こそ男の仲間を作らなければ……と密かに危機感をもっていた。

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明日は5回投稿します!

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