一度は加わった『邪竜討伐軍』に戻らぬ彼女達の方針
戸惑うモエロイーズだったが、合流に成功した上にリコットロンも薬が効いたのか補助は必要なものの歩ける程度には回復したようだ。
「ただいま。おまたせ」
「では、撤収しましょうか?」
そう言って、ミカルコアが立ち上がった。
「その前に好奇心から教えてほしいんだけど、その『ティリーベルの懐中時計』って、どんなアイテムなん?」
「答えられない」と言われても食い下がらずにスルーつもりで聞いてみる。
「わたしも細かい理屈は判りませんが、魔力不要の永久機関だそうです。時計としての価値は普通にありますが、それ以上に無限の動力としての価値が高いのだそうです」
イヴァルスフィアには懐中電灯が存在して、それは魔石の交換を必要とする魔道具だ。つまるところ、『ティリーベルの懐中時計』はイヴァルスフィアにおけるオーバーテクノロジーって事か。
「ただ、この動力の抽出を完璧に行えるのは歴史上、魔女ティリーベルのみ。現在も尚、研究されているの。……という話だったわ」
「なるほど」
……細かい理屈を知らずとも修理できるのか……? いや、知っていても言えないとか?
「じゃあ、今度こそ撤収しますよ」
そう言って、台座から『ティリーベルの懐中時計』を抜き取る。すると、部屋が少しずつ暗くなっていく。
建物から出ると、庭に光る床が出現。
「あれが、出口だそうです。行きましょう」
俺達はワープ床を踏んで、地上へと転送された。
島で野営をして過ごす。
モエロイーズは何故か俺から離れない。用事があって移動しても遅れて近くに移動してくる。……懐かれたのだろうか?
「モエロイーズさん。今後なのですが、どうしますか?」
「どうって?」
「『邪竜討伐軍』を追いかけますか? それとも……」
「追いかけないです……あそこは怖いです」
……怖い?
「あの……改めまして、わたしは【話術士】でリコットロン=サイクリアと申します。隊長含め、助けて頂きありがとうございました」
モエロイーズの一言が理解できずに困惑していると、リコットロンが話しかけてきた。
「もう大丈夫なの?」
「いえ……でも今晩中には回復できるかと」
メディスの魔法とサヤカレットの薬によりリコットロンは誰かの肩を借りる事で歩けるくらいには回復していた。
「わたし、女王の命令で『邪竜討伐軍』に加わっていたのですが、元々は城でメイドをしていたんです」
……そこは『竜騎幻想』と同じか。俺の記憶では彼女も成人祝いの際に城へ集められて城勤めの権利を得られたはず。
「サクリウスさん達は国外の冒険者とおっしゃっていましたよね?」
「うん」
「城内勤務の女性は男性に求められる者ほど有能とされているんですよ。城内ではわたし、全く異性に興味を持たれなくて……そんな理由から多分『邪竜討伐軍』に入れられたのだと思います。ですから、城に戻っても居場所は無いんですよね。多分、違う事情ですがモエロイーズ隊長も無いと思います」
「そうなの?」
念のためモエロイーズに確認すると、彼女は何度も頷く。
……その辺はやっぱり『竜騎幻想』より厳しいのね……。
「でも、そういう事なら『邪竜討伐軍』を追いかけるしか……」
そう伝えるとリコットロンもあまり良い顔をしない。
「あの……サクリさんはもしダンジョンで身動き取れなくなったとして、仲間に見捨てられたら……誰かに助けられて見捨てた人達の元へ戻りますか?」
「戻らんなぁ」
……なるほど、「怖い」の意味が理解できたわ。
「あと、それが無かったにせよ居心地悪いんですよ」
「どういう事?」
「『邪竜討伐軍』ってほぼ男性だけなのは知ってます?」
「うん。というか、他国の軍はだいたい男が多めだよ」
「そうなんですね」
イヴァルスフィアにおいて、男女の強さはトータル的には一緒だ。それでも軍に配属されるのは男性が多い。アスパラオウム王国が例外なだけ。その理由は、優劣の問題ではなく捕らえられた場合の処遇が男性の方がマシなのだ。
……まぁ、人権保護とか無いからなぁ……。
「他国の男性は優しくて、わたしなんかにも勘違いしそうになるほど持ち上げてくれるのですが、それが【剣の乙女】の方を怒らせてしまって……」
「なるほど」
……ありえる話というか、1年旅しても改善されないか……。
「でも、置いていかれる程怒らせていたとは思わなくて……」
「いや、それは考えすぎだと思うよ?」
……俺は知っている。ムッチミラがポンコツ……とは違うか。ゲーム的に言うと下手クソと言うべきか……知らないから仕方ないと考えるべきか……そんな感じなんだよな。
「でも、そうなると……どうする?」
王都に戻る事も『邪竜討伐軍』を追いかける事も拒否。そうなると……モエロイーズは少なくとも想像ついている。
「故郷に帰ろうかとも思ったのですが……多分、見つかった場合は家族にも迷惑が掛かってしまうと思うんです」
「どういう事?」
俺の問いに一瞬戸惑ったように見えたが、直ぐに答えてくれた。
「このアスパラオウム王国では魔法使いが優遇されている事はご存知ですか?」
「うん」
「魔法が使える天職であれば、女性なら何処でも生きて行けます。もちろん、わたしはその範囲外。それでも、城勤めの資格を得て両親は喜んでくれました。そんなわたしが急に家に帰ったら……家族や村のみんなは何を考えるか……そう思うと迷惑が掛かる事が想定できるという事です」
……なるほど。家族なら子供が仕事を辞めて家に帰って来ても受け入れて当然と思ったけれど、確かに環境にもよるよな。
「最悪の場合、わたしは女王様の期待を裏切った無能者の烙印を押されます」
「それじゃあ、どうする?」
問いかけるとリコットロンは黙ってしまう。
「あのっ、わたしはサクリウスさんと一緒に居たいです」
「一緒に?」
モエロイーズの答えは微妙にチーム入り希望とは判らない答えだった。
「一緒にって、どういう事?」
「仲間に入れて欲しいって事です」
……まぁ、モエロイーズの発言は想定の範囲ではあるんだけど、ここはアヤネルヴァがいるんだよな。さて、彼女がどんな反応をするやら。
「あの、わたしもお願いできませんか?」
リコットロンも追従する。便乗とは判るんだけど、丁寧に説明もしてくれたし事情も察することはできた。
「2人とも冒険者になるの?」
「「えっ?」」
会話に割って入ってきたアヤネルヴァにビックリする。俺は想定の範囲ではあったんだけど。
「姫様がわたし達の行動に関心を?」
「もちろん。サクリウスさん達のチームに入って国外脱出するの?」
普段のアホの子アヤネルモードではなく、本来のアヤネルヴァとしての話し方。2人とも明らかに狼狽えている。
「ねぇ、サクリさん。わたしからもお願い。2人を仲間に……それが無理なら国外へ連れて行って貰えませんか?」
「うーん……まぁ、俺が独断で決めるわけではないので聞いてみても良いけれど……」
……いや、多分2人はチーム入りするだろう。こうなる事は助けた時点で想定していたし。
「「アヤネルヴァ姫様。ありがとうございます」」
「国に居られないのは事実だと思うし。それよりも、もしチーム入りできたなら、わたしにもしっかり協力して貰うわよ? あと、もちろん今のわたしの事も秘密。わかった?」
「「は、はい!」」
アヤネルヴァ、優しいじゃん……素の彼女が原作通りに心優しい女の子で本当に良かったわ。
……でも俺、アヤネルヴァの夢も先に見ているけれど彼女はいつ仲間に加わるのだろうか?
翌朝から出発した俺達は当初王都オムパイタツィーに戻ろうと考えていたが、昨夜に聞いた2人の事情を考えてベタパイコーロスに直行する事を決定。王都より遠いけれど誰も文句は言わなかった。
まぁ、2人の冒険者入りやアヤネルヴァを紹介するのにも都合が良かった。
ベタパイコーロスまでは襲撃される事もなく順調に到着。馬車は船の前で止まる。
「やっと帰って来れた」
「遅い!!」
俺達が帰って来たのを察して船から降りてきたクレアカリンからタックルを喰らう。派手に吹き飛ばされつつも彼女に「ゴメン」と一言謝った。
直ぐに帰る事ができなかった経緯を説明して許しを得た後に俺達は乗船した。
「ようこそ、“サクリウスファミリア”の拠点へ」
クレアカリンの案内で、ゲストの4人が甲板へ。
「やっと帰って来た……」
「な、何これ……」
ミカルコアが思わず感想を漏らす。
「あの、サクリウスさん。見て回って良いですか?」
「うん、いいよ」
ミカルコアが見に行くと、他の3人も一緒に付いて行った。
「サクリはあたしに報告ね」
「……はい」
思えば店の売り上げは過去最高だという。男性客より女性客の方が珍しい物に対して興味があるのかもしれない。……まぁ、ここでの男性客が少ないというのもあると思うが。
とても賑やかな空気に当てられていたし、店も混んでいたしという事で休憩を優先した結果の夕飯時。
「あの、サクリウスさん。わたしも仲間に入れて下さい」
「……はい?」
「アヤネルヴァ姫も仲間になるんですよね?」
「えっ?」
思わず、アヤネルヴァを見る。
「冒険者カード作るの楽しみぃ~♪」
いや、まぁ……初耳ではあるけれど、彼女は予想していた通りだから……まぁ、いいか。
「ウチのチームに入りたいと思ってくれたのはありがたいけど、ウチ等は正義の味方をするつもりも無いし、人助けの為に無料奉仕をするつもりもないけれど、大丈夫?」
4人に最終確認。「依頼を受けたら悪事もやるよ?」と確認したり、ノーマル職でも戦って貰ったりする旨も説明したが、誰も辞退する事は無かった。
「おーい、みんな聞いてくれ! 今日招いたアヤネルヴァ姫様とミカルコアさん、それとモエロイーズさんとリコットロンさんの4人がチーム入りを希望している。反対する者はいる?」
……予想通りに反対する人はなく、スムーズに4人のチーム入りが決まった。
ただの夕食が4人の歓迎パーティに切り替わり、賑やかな甲板が更にやかましくなった。
「ところで、モエロイーズさん達と一緒に『邪竜討伐軍』へ加わった人達ってどのくらい居たんですか?」
「わたし達含めると全員で10名ですね。もうわたし達が離脱してしまったので8名ですが」
残っている8人の名前を確認するも、『竜騎幻想』と同じメンバーな事を確認。
……思ったよりは変更具合が少ない?
いや、派閥が2つ増えている時点で原作改変ではあるんだけど。でも、他と比べれば深刻度は少ないのか?
それにしても、よくムッチミラは拒否せずに女性ユニットを受けいれたものだと驚いていた。
「ふぅ、一旦休憩だな」
風呂も上がって部屋に戻って来る。
「みんな、これを見ておいて。名前は『リエルディラ』だよ」
普段はいちいち言わないが、今回だけはしっかりオートマタ達に伝える。……あの鞭がベッドの中に入ってきたらと思うと地獄すぎる……。
まぁ、明日か明後日には納品に出発するらしいけれど。
「あの中位精霊のシルキーだっけ? 契約できたかね?」
姿は確認できなかったけれど、今頃カナージャの元へ行っているはず……いや、既に契約済みかもしれない。
「直ぐしたみたいよ? 船に付いたら直ぐに探しに行っていたもの」
エスパフには精霊が見えているようで、彼女がそう言うならそうなのだろう。
とりあえず、推しのモエロイーズ達が殺されない内に加わってくれて良かったと安堵した。
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